49話 修行の旅へ
「この!このこの!」
「おー、怖い怖い……」
ガンガンッ!と音が鳴り響く庭。そこでは、ホムラに向かって拳を振るう少女の姿があった。その拳の威力は当然ながら年相応のものではなく、岩をも砕く一撃だろうと考えられる。
「守るなんて卑怯だわ!正々堂々と殴られなさい!」
そう言いながら拳を振るってくるのは、暴力系お嬢様……、いや公爵令嬢のエミーシャ・レイヴェンクルである。
「いや、当たったら絶対骨とか折れるし……」
ホムラは先ほどから自分の周囲を魔力で覆い身を守っている。流石に魔力障壁が破れたりしないよね?と冷や汗を流す。
「ここが弱いのね!いくわよ」
何やら防御が薄いところを見つけたようだ。これは勉強になったが、パンチの速度が上がりだしたのでまずいと思う。
「おいおい、ヒビ入ってきた……。ああ!お嬢様、上空にワイバーンが!」
「え!?ワイバーン!どこよ、私が討伐してやるわ!」
すぐさま空を向いて腰に刺した剣を引き抜くエミーシャ。その隙にホムラは走りだした。逃走である。
「所詮は子供。俺の相手ではないな!」
「な、待ちなさいよ!」
聞こえないように呟くホムラを追う声が聞こえる。耳を貸さずにホムラは逃げるのだった。
「なんだー、2人して泥だらけになってよ」
どうやら話し合いが終わったらしい。新しい師匠であるスズールが庭にやってくる。ホムラが逃げ回り、エミーシャは追いかけて走り回っていたため服が汚れてしまっている。
「ちょっと戯れてまして」
「アンタが逃げるからでしょ!1発パンチさせなさいよ」
ほんと下手したら死ぬからやめてほしい。
「もう出発するからな。汚れ落とせよ、当分お別れなのに締まらねーよ」
とスズールに言われてしまう。これは仕方がないのでサクマは魔法を発動する。
「浄化系統……」
とホムラが呟くと白い炎が自身を包み込み、汚れなどを綺麗に落とす。我ながら見事な仕上がりだ。隣で見ていたエミーシャなど、口をあんぐりと開けている。
「なによ、その魔法!私にもかけなさい!」
「えー、でも殴るんじゃないですか」
わざと渋ってみよう。
「ぐぬぬ……、今日の所は多めに見てあげるわ!わ、私の服を綺麗にし、して、ください……」
おお、ちゃんとお願いして来たよ。最後は声が小さかったけどな。
「ほいっと」
魔法を使いあっさりと彼女の服を綺麗にする。ホムラの魔法の属性について詳しくは知らないだろうからいいだろう。
「快適だわ!これを商売にしたら儲かるわよ。どこかの街に行ったらお金を稼ぎましょ!」
「お金、好きなんですね……」
これまで見たこと後ないくらい目が輝いている。このお嬢様は、お金が好きなのかもしれない。10歳のパーティでみたクールな彼女は存在しないようだ。
そして家族への挨拶を済ませて屋敷を出る。妹のリーラは遊び相手が居なくなることを悲しんでいたようだ。
兄も可愛い妹と当分の間会えなくて悲しいのだ。さっさと強くなって帰ってくるとしよう。
「てかアンタ、荷物何もないじゃない。ピクニック気分?」
「ポーチに詰めてます。たくさん収納出来るので」
アイテムボックスだと問題もあるので、魔道具ということにしている。ポーチ経由で出し入れしていると誤魔化す作戦だ。
「ふふっ、早速打ち解けているようでなりよりだ。これから2年弱、共に行動することになるからな」
帝国との交流戦までずっと修行のようだ。上手くやっていけるだろうか?とも思うが案外どうにかなるのだろう。
「どこが仲良しよ」
「まあまあ、仲良くしましょうよ。お嬢様は、友達とか居ないかもしれないからあれだけど」
直後、頭に拳が当たりました。結構痛い。
「アンタ、失礼ね。友達位いるわよ!我が家のペットの猫に……、我が家の馬……」
「真っ先に人が出てこないなんてな……」
ホムラは悲しくなってきた。
「むきー!どうせアンタも居ないんでしょ。ぼっちよ、ぼっち!」
「いや、子爵家のギリーア・ローウェルズ君と友達だし」
「な……」
絶句した表情を浮かべる。友達がいるのがそんなに意外か!
「ほれほれー、エミーシャ。ここでホムラと友達になったら人生初の友達だぞ!」
話を聞いていた師匠が割り込んでくる。楽しんでやがる。
「むぅ……エミーシャと呼ぶことを許してあげる!アンタも名前で呼ばせなさい」
「おお、了解です。僕は、ホムラ。よろしくお願いします、エミーシャ」
「ええ、ホムラね!仲良く……、うーん……程よく仲良くやっていきましょう。ムカついたら殴らせてね」
いや、物騒だな……と思いながらも緩い感じで修行の旅が始まった。




