39話 助けるために魔法を
「この症状は、呪帯……か。これほどの大きさは厄介ですね」
ハーヴェリアが額に皺を寄せながら呟く。明らかな焦りを感じた。
少女の身体からは、黒い帯状のモヤが出てき始めており、少女自身も息を荒くしている。
「呪帯……、呪眼と似たようなモノです。呪いを隠蔽して家族に売られたのかもしれませんね……。そうでなければ、奴隷商人が引き取るとは思えません」
エルメティアが教えてくれる。呪い持ちは、捨てられてしまう?詳しくはわからないが推測通りだとすると、酷いものだ。呪いは、随分と忌み嫌われているのだろう。
「ここまでの呪帯となると、我々教会騎士の使える浄化でも助けることは出来そうにないですね。この街に他に浄化系統が使えるものは?」
「現在必死に探しております。しかし、彼女の体力が持ちません!国家魔法使いのエルメティア様もいらっしゃると聞き何か手はないかと思った次第です」
そもそもが白属性や黒属性自体、使い手が珍しい魔法だ。そして、教会に所属する者でも手に負えなければどうしようもないだろう。無理だと分かっていても、必死に可能性に賭けている彼女達の優しさを感じる。
「私でも、これほどのものはどうしようもありませんね。ガレオン君がいれば余裕で治せるかと思いますが……」
Sランクがそうそういるわけがないためどうしようもないのだ。
自分ならばやれるかもしれない。しかし、白属性を使えば自分の力がバレてしまうことになる。ホムラとしてもここは、悩むところだ。
「はぁ……はぁ……」
少女はもう話すことすら出来そうにないようだ。このままでは保たないだろう。
「呪帯がさらに広がれば、私達にも攻撃をしてくる可能性すらあります」
暴走なんてこともあるようだ。もっと詳しい話をエルメティアに聞いておけば良かったとホムラが考えているとエルメティアが杖を構える。
「先生、なにを?」
「ここには、ローレイラ様やホムラくんもいます。最悪の場合、呪いが暴走する前に殺します」
先生の目は本気だ。それだけ呪帯が危険なものなのだろう。
「そうですね。私のように制御出来ているのならまだしもこれは厳しい。心苦しいですが、それが最善です……」
ハーヴェリアも頷く。
「ホムラ、部屋に戻ってろ。子供の見るものではない」
呪いについて、完全に詳しいわけではない。だが、ここで彼女が殺されてしまうのも嫌だと思った。自分には、救う力がある。ならば、
「待ってください!」
ホムラが声を上げる。思ったよりも大きい声が出たためか、全員の視線がこちらに向いてくる。
「ホムラくん、危ないので下がって!」
先生の言葉が聞こえるが、首を横に振る。そして、教会騎士に抱かれている彼女の近くまで足を進め、アイテムボックスから〈神器たいまつ〉を取り出す。
「一体どこから!」
誰かが疑問の声を上げた。だが、ホムラはそれに答えず魔法を発動する。
「白炎……」
白い炎が灯った〈たいまつ〉を、彼女に突きつける。
「まさか、あり得ないです!あれは、浄化系統……ローレイラ様!」
「ありえない、ホムラの適性は紅属性だけだ。だが、これは……」
父様と先生は、とても驚いてくれている。しかし、こんな形でバレることになるとは思わなかった。うっかりとかではなく人助けなので、そこは褒めて欲しい。
「浄化の炎!」
〈たいまつ〉から白い炎が燃え上がり、優しく少女を包み込む。黒いモヤは、白い炎に焼かれて完全に消えていった。
「完治しています……、まさかここまでの白属性使いだとは」
ハーヴェリアが息を呑む。周囲の空気が静まり返るのを感じた。これで、ホムラが2属性使いだといことが確定したことになるのだ。
ホムラは、〈たいまつ〉をアイテムボックスに仕舞い込んで、ホッと一息つく。そして、なんと言ったものかなと考える。
「おいおい、凄いじゃないか!ホムラ!」
急に父様に頭をクシャクシャにされてホムラは驚く。しんみりとした空気がなんだったのかというような反応だ。
「父様、あの、僕は」
「まあ待て、大丈夫。申し訳ないが、今のことは誰にも言わないで貰えないか?2属性持ちというのは、影響が大きすぎる」
「そうですね。シスターの名に賭けて心にしまっておきましょう。あなたも良いですね?」
「はい、承知しております!」
ハーヴェリアが答え、すぐに教会騎士にも同意させる。信じても大丈夫なのだろう。
「エルメティア先生、息子のことは後で話し合うことにしましょう。だが、今はこの子を褒めてあげたい」
「そうですね。ホムラくん、よく彼女を助けました。あなたは、素晴らしい魔法使いです。私は、あなたを誇りに思います。そして、あなたも自分自身の行動を誇りに持ってください」
魔法がバレてしまったが、命を助けたことは良かった。
「はい」
とホムラは答える。いつかはわかってしまうことだ。とりあえず、受け入れられたので良かったことにしようと思うホムラだった。




