29話 お嬢様のご指名
「頭を吹っ飛ばされたワイバーンか!俺も実際に見てみたいもんだ」
「思ったよりも大きくてビックリした。誰が倒したのか気になるんだよね」
食事をとりながらギリーアとの会話を楽しむ。ギリーアは冒険者に憧れる様で魔物を実際に目にしたことがあるホムラの話しに興味津々だ。
周囲では公爵との挨拶が終わったらしい上級貴族達の子息もやってきて食事を始めている。もう少しすれば自分も挨拶に行かなければならないだろう。
「なんか、僕達浮いてない?」
「あー、貴族ぽくない俺がいるせいだろ。言葉遣いとか面倒だから適当やってるせいかな〜」
周囲の子達は、3人以上のグループになっているため気になったが、ギリーアが原因だと言う。
「まあ、後は下級貴族なんかにわざわざ話しかけないんだろうな。いい教育してるよ」
「あー、それもそうか。僕が1番くらいが低そうだし」
自分も原因に含まれてるなと思うが、ギリーアと話せるだけかなり満足している。上級貴族の子息に変に話しかけられても嫌だから現状が1番だ。難癖つけられるの嫌だもの。
「大事なのは能力だっての。それならこの中でホムラが1番だと思うな。将来が楽しみだ」
なんだか、楽しみにされてるけどギリーアも大して年齢変わらないよな……と思う。ギリーアニキと呼ぼうかな。
「ギリーア、挨拶に行こうか。話し相手になってくれる子がいて良かったね」
細身の長い赤髪の男の人がやってきた。この人がギリーアの父親の様だ。
「初めまして、ホムラ・レーミングと申します。ロールウェルズ子爵様、お会い出来て光栄です」
「私は、ガレム・ロールウェルズだよ。こちらこそ、君の魔法を遠目に見たが美しいものだった。いいものを見せてもらったよ。良かったらこんな息子だけど仲良くしてやってくれると嬉しい」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
評価されるのは嬉しいものだ。
「ギリーアもホムラ君の様な対応が出来たら文句はないんだけどなぁ。せめて、公爵の前ではしっかりしてくれよ?」
「おおー、任せときな!」
大丈夫だろうかという表情をしたガレムと、余裕な顔をしたギリーアが挨拶に向かっていく。再びボッチになるホムラだった。
ボッチなので良い肉を食べまくりましたよ。大して誰も見てないので。
女の子達が話しかけてきてくれないかなと若干の希望もあったが、上級貴族の男の子達に捕まっている様で話を聞かされている様だ。ヤケに自慢話が多いように聞こえる。自分語りだけではモテないのではとホムラは思いながら、お肉を頬張るのだった。
「よーし、行くぞホムラ。準備はいいか?」
「はい、父様。緊張しますが行きましょう」
挨拶に向かっていると、エルメティアが誰かと話していた。背が低めの黒髪の男の人と、金髪の女の人、そして、灰色の髪をした獣人の女の人だ。
獣人さん、きたーーーーー!
お近づきになりたい。師匠に是非とも紹介してほしい。
「彼女達はSランク冒険者だ。なんなら後で話しをしてみるか?」
ホムラの視線から察してくれたのか、父が提案してくれる。
「良いんですか?それは楽しみです!」
Sランクといえば最高ランクの冒険者。貴族のパーティに呼ばれていても不思議ではない。是非とも話が聞きたい。耳をモフりたい。
「エミーシャ様の心を射止めればな」
「それは無茶です。それならドラゴンに挑む方が勝算がありますから」
公爵令嬢だ。田舎貴族が相手になるはずがない。公爵様もどんな顔をするか。
「はははっ、まあ普通に挨拶が出来れば充分だ。今のところ、求婚した奴らは惨敗してるみたいだな。ホムラは、顔も性格も良いしチャンスあるんじゃないか?」
良かった、無茶振りされなくて。顔と性格がよくても結局の所大事なのは権力だ。
「無難に行きます」
どちらかと言うとSランク冒険者に興味がある。主役に申し訳ないがさっさと挨拶を終わらせてしまおう。
公爵様と、エミーシャ様の前にやって来ました。公爵様は、ダンディな感じのする人だ。
「レイヴェンクル公爵閣下、お久しぶりでございます。本日は、エミーシャ様の生誕の日にお招き頂き光栄の至りにございます」
「態々遠い所から感謝する。出来れば最初に、ローレイラと話がしたかったがな。貴族のしきたりは面倒なものだ。すまんな」
最初に話したいくらいって、なかなかに評価されているじゃないか父様。
「そのお言葉だけで嬉しく思います。本日は、息子を連れてきましたのでご紹介したい。パーティは初めてなもので慣れていない所はありますが」
「初めまして、ご挨拶のお機会を頂きありがとうございます。ホムラ・レーミングと申します。本日は、お嬢様のお誕生日お祝い申し上げます!」
とりあえず、これで問題ないだろう。さーて、Sランク冒険者さんのところにレッツゴー!
「よく出来た子じゃないか。羨ましいぞ、ローレイラ」
「お褒めいただき光栄です。家族に恵まれております」
ヒュー嬉しいこと言うね父様。僕も素敵な母様達と妹がいるから幸せだよ。
「エミーシャ、お前も何か言ったらどうだ?」
「そうですね、パーティが始まる前にやっていたパフォーマンス。ぜひ私にも見せてくださらないかしら?」
ん?どうやら僕をご指名の様だ。
「紙を燃やして花を出した奴ですよね?」
「ええ、それが見たいわ」
そうなるかぁ……冒険者の話を聞きに行きたかったが、パフォーマンスのご指名だ。
父様の顔を見ると頑張れと言う表情をしている。やるしかない様だ。
「ご期待に添えるかわかりませんが、やらせて頂きます」
とホムラが答える。後ろの貴族達からの視線も集まっている。なにやら注目を集めている様だ。
やるしかないかぁ……とホムラは気合を入れるのだった。
後に彼は、ドラゴンに挑むより緊張したと答えたのだった。




