17話 たいまつの力
「あれはゴブリンじゃないか?」
遠くの方を眺めながらリューナが言う。冒険者だけあって抜群の視力をお持ちだ。確かに何匹か彷徨いている。こちらには気づいてない様だ。
「ホムラくん、ここから射抜いてみましょう」
ホムラの横からエルメティアが提案してくる。
「はい、先生」
現在、ホムラ達は移動している馬車の窓から外を見ている。こちらには気づいていない様だが、他の通行人がいた場合に襲われる可能性もあるだろう。
「ファイヤーアロー!」
「当たりましたね。お見事です!」
ホムラが放った魔法がゴブリンに直撃し、撃破する。遠距離シューティングゲームでもしているかの様な気分だ。結構楽しい。
「さて、次はこちらの杖を使って狙ってください」
「わかりました。なんか、違和感あるなぁ」
先生から貰った杖と比べると何というか、感覚的に使いづらさを感じた。上手く放てるだろうか?と疑問に思う。
「ファイヤーアロー!……ありゃりゃ」
先程と同じく魔法を放つと、それはゴブリンに到達する前に地面に落ちて消えた。杖が違うからだろうか。
「大方予想通りの結果です。魔法発動体である杖にも、魔法使いに合う合わないがあります。ですので、自分に合った杖を持っておくことがとても大事なのです」
「それでさっき違和感を感じたんですか。やはり先生に貰ったのが使いやすいですね」
杖がなければ魔法が使えない。さらには、その杖も自分に合わなければ魔法の発動に大きく関わる。勉強になる。
「ですが、戦闘では何が起きるかわかりません。相手に杖を奪われることがあるかもしれません。その場合のために、自分に合う杖以外でも魔法を放てる様にならなければなりません」
杖を取られるのはかなり致命的だ。その辺の対策は必要だなと思った。最悪、体術などで補う必要がありそうだ。
先生が先程ホムラが上手く使えなかった杖で魔物を吹き飛ばす所を見ながら頑張ろうと思った。
そういえば、魔法発動体の使いやすさのことで思い出したが、先生から貰った杖が現状で1番使いやすいと言うわけではない。
そう、自分には最も適した武器があるのです。納得はいって無いが。
その武器の名は、たいまつです。
話を聞き間違えた神に貰った武器。この武器(?)だが、試しに使ったらこれが思いの外使いやすいのなんの。
ホムラは、初めてゴブリンを倒した後、王都に向かう数日前のことを思い出す。
「おやすみなさいませ、ホムラ様」
「うん、おやすみ。明日も良い1日なったら良いね!」
メイドさんに挨拶を済ませて、ホムラは自分の部屋に入った。そして、メイドが部屋の前から去ったのを感じた。
部屋の周囲に誰もいないのを魔力を使って調べて、すぐさま服を着替える。動きやすい服だ。
そして、ベッドには本など詰めて膨らみを出し、窓を開けて外に出た。寝室が一階であるため、特に危なげなく降りることができた。
誰もいないのを確認しながらホムラは、そそくさと森に向かった。
「よーし、家からの脱出は成功だ。流石に、6歳の僕が夜に外に出るとは思わないね」
なぜ、夜にこんなことをするかというと単純に、戦える様になったから探検でもしたいというものである。
父様達にバレたら?即、説教コースでしょう。今まで怒られたことはないけど、一体どうなるやら。
「周囲に魔力を飛ばしてっと……うん、安全だ」
近くに魔物の反応はないため、アイテムボックスからたいまつを取り出して魔法で火をつける。
「これが正しい使い方だよな……普通たいまつと間違えるかよぉ……」
どうしても神への文句が出てきてしまう。返品願いたい所だが、神と連絡を取るなんて自分には出来ないだろうから諦めるしかない。
「お、魔物の反応が……これは、ゴブリンか」
しばらく歩いていると、魔力に引っかかるものがあった。ゴブリンはすでに相手ではないため、堂々と戦うことにする。
火を灯して歩いているホムラはゴブリンからも発見されていた。
「クキャキャキャ!」
こちらが子供だからと侮っている様子だ。
「クキャ!」
「グギャ!」
「キャギヤ!」
ゴブリンが4匹だ。流石に、火をつけていると目立つのは当然だ。魔力で警戒はしているので油断はしていない。
ホムラは、たいまつを左手で持ち右手にエルメティアから貰った杖を持つ。
「挟み撃ちは、卑怯だよね。でも、良いや。ファイヤーボール!」
ホムラは、1匹で立っているゴブリンに対して魔法を放つ。まずは、挟み撃ちの状況をどうにかする。
「あれ……えっ!嘘だろ」
「グギャ!グギャぁぁぁぁ!」
ホムラが持つ杖から出る火球。それを遥かに超えたサイズの火球がたいまつの上に形作られた。
それには、ゴブリン達も恐れ慄く。
とりあえず、ゴブリンに放っておくことにする。
ボォン!と音を立ててゴブリンは燃やし尽くされた。1匹だけの方も倒した。
「威力出たなぁ……どうなってる?まずは、消火だな」
自分が放った魔法は、任意に消すことも出来る。きちんと消さなければ山火事だ。流石に父親の領地で火事など笑えない。
「よし、火は消したからっと。問題は……」
火を灯している、たいまつを見る。先程のファイヤーボール。あれは紛れもなく、たいまつを魔法発動体として形成したものだった。
それに威力だ。エルメティアに貰った杖よりも遥かに威力の高い魔法を放っていた。
「まさかな……神がくれるものだからありえるか?」
そもそも、転生特典の目録に、普通のたいまつが入っているはずがない。武器や装備品ですらないのだから。
だが、神によって送られてきて現に強力な魔法を放つことが出来ている。
「ゲームとかで言うSSRって奴?もしかして、対魔の杖とかと堂々と武器だったりして!」
直感的に、これは自分が魔法を使うのに適していると感じている。
しかし、問題もあるだろう。
「先生達の前で見せるわけにもいかないよな……、父様達がたいまつを取り上げるなんてことは無いだろうけど、よからぬことをする人がいないとも限らない」
数日前のことを思い出しながら、ホムラは考える。余程のピンチの時でない限り、たいまつを使うのは控えた方がいいだろうかと。
「余程のピンチが起きなければ良いけど……いや、なんか起きそうなフラグ立てちゃいかんな」
と小さく呟くのだった。




