16話 王都に向けて
「行ってらっしゃい、ホムラ。お行儀良くね!」
王都に向かう日の当日。屋敷の外で、馬車に乗り込む前に母が抱きしめながら言う。
「はい、頑張ります!」
おでこにキスしてくれた。これはやる気が上がるぜ。
「あなたも頑張ってね」
俺にはないのか?という表情でずっと立っていた父様に母様が言う。熱いキスが始まりそうなので、ローリエ義兄様と話すことにする。
「義兄様は、初めてのパーティの時はどうでした?」
「緊張したね。でも、優しい御令嬢達が話しかけてくれたから楽しめたよ」
余程楽しかったのだろう。良い笑顔だ。そして、参考にならん。義兄のルックスのお陰だろう。性格も良いからなお。
パーティで出会った令嬢と婚約なんてこともあるらしい。もしかするとヒロインを見つけることになるかもしれない。
「魔法のスキルを持っているホムラならすぐに人気になるんじゃないか?」
「変な人に目をつけられないことを祈りたいです……」
お隣さんは未だにお熱いので、ローリエ義兄様とレレ母様に手を振って先に馬車に乗り込むことにする。
「今日からよろしくお願いします!」
「よろしく頼む、御子息様」
馬車に乗り込むと2人の冒険者がホムラに挨拶する。王都に向かうに当たって、護衛として冒険者を雇うのは一般的だ。
「ホムラ・レーミングです。よろしくお願いします。気軽にホムラって名前で呼んでくれたら嬉しいです!」
「ホムラ君って呼ばせてもらおうかな!」
「リューナ、失礼ですよ。すみません、ホムラ様!平民の僕達が」
君呼びした冒険者は、リューナという名前らしい。背が高い女性で髪はショートカットだ。武器は、片手剣を腰に装備している。
動きを重視しているのだろう。防具は革鎧だ。地味目な茶色だが、機能性は良さそうに見える。
そんな彼女を嗜めたのは、青いローブを着た可愛い顔つきの女性だ。髪をポニーテールにしていふ。僕っ子だろう。杖を持っているため、魔法使いなのだろう。
名前は、レミールと言う。
剣士と魔法使いとは良いコンビに感じる。
「息子は、敬われるのは求めてないみたいでね。良かったら、好きに呼んでやってくれ」
満足そうな顔をした父様が屋敷のメイドを2人引き連れて馬車に乗り込んでくる。ナイスフォローだ。
「男爵様!」
「分かりました」
父様のお陰で親しく話すことが出来そうだ。
「まあ、息子は変わった奴だから色々と冒険話しでも聞かせてやってくれ」
変わった奴とは納得がいかないが、冒険者の話は魅力的だ。
エルメティア先生が、父様の言葉に納得して頷いている。やはり納得いかない……
特に何もなく、馬車は出発した。ここからは、2、3日かけて王都に向かうことになる。野宿、街に宿泊、野宿で王都に到着することになっている。
父様は、自分が嫌がるかと思っていたようだがキャンプなどに憧れを持っていたホムラからすると、とても楽しみな出来事だった。
むしろ3日とも野宿ですら良いと思った位だ。
馬車のメンバーは、父様、エルメティア、メイド2人、護衛の冒険者2人、そしてホムラだ。
馬車の操縦は、メイドさんが交代でやるらしい。彼女らは、馬術も心得ている。実は、少し前に知ったことだが、うちの屋敷のメイド達は、多くの者が戦闘系のスキルを持っているとのことだ。
父様が、王国騎士をやめ男爵になる時にメイドを募集したらしい。思った以上に希望が出て焦ったとか……父様は、かなりの人徳があったようだ。
そんな素晴らしいメイドさん達もいるので、長旅でも安心して過ごすことが出来るとのことだ。ホムラもよく可愛がってもらっているため嬉しい。
馬車の旅が始まり、談笑していると時間はあっさりと過ぎた。見渡しの良い平原に馬車を止める。ここで野宿となるのだろう。
馬車から降りたホムラが周囲を見渡すと遠くに夕日が沈んでいくのが見えた。暗くなるだろう。
早く火を起こして、テントを立てねばなるまい。
「父様、テントを立てましょう!火起こしも僕に任せてください」
手から魔法で火を出しながらホムラが言う。だが……
「テントは立てないぞ?馬車の中にそれぞれ部屋がついてるからな」
と言いながら父様は馬車に戻っていく。
あら?思っていたのとは違ったようだ。
「ホムラ君、魔物よけの焚き火用に火をもらえるかな?それにしてもその歳でしっかり魔法が使えるなんて、流石はエルメティア様の弟子ですね!」
レミールが言ってくるので、集められている木のところにすぐに火をつけにいく。褒められたのは嬉しい。
徹夜慣れしている冒険者が、夜は外で見張りをしてくれる。焚き火を見ながら見張りはなんだか憧れるものだ。
「ホムラ様、ご飯の準備が出来ました」
とメイドに呼ばれたため、馬車に入るとホカホカの夕食が用意されていた。
我が家にもアイテムボックスの様な魔道具があるらしく。調理した食料を日数分詰めて持ってきているとのことだ。
「あー、焚き火で料理するのかと思ってたのに……」
あまり聞こえない様にホムラが呟いた。
最初は、キャンプじゃん!と喜んでいたが、思いの外、異世界の旅はハイテクだった。




