初仕事
「城からはるばるご苦労様だった。君たちは優秀な新兵だと聞いている。だがまずはその能力を測るために任務を与えたい。到着してすぐで悪いんだが、山頂からパイルを視察し報告してくれ。」
国境の山脈に着いてすぐ国境警備隊の隊長から直々に任務が言い渡される。
そりゃ城からずっと歩いてきたんだから疲れてるよ。
なのに休む間もなくいきなり無茶な任務。
おそらくわざと曖昧な指示を出したんだろうが、真意を読み解くのも面倒だ。
「それはみんなで協力してやってもいいんですか?」
「それは任せる。君たちの働きに期待している。」
ミモザが余計なことを聞いた。
それも含めて実力を測るための任務だろうが。
大方、既に把握している異常を俺らが見破れるかってとこだろうな。
そこまでできてやっと実戦レベル、しかしこいつらは俺らに更に上を期待してるんだろう。
「さて、どうするか。」
「報告までの時間も評価に入ってるんだろうな。さっさと方針を決めて取り掛かるぞ。」
「じゃあ私が走って見てくる!足を使わないとわからないこともあるし!」
呼び止める前に行ってしまった。
もしかしたら何か見つけてくるかもしれないからほっておこう。
「アベル、お前はミモザと同じように動いてくれ。リル、俺たちは情報の考察だ。あいつらが戻るまで周囲の探索だ。」
「はい。あっ、うん。」
パイルはそれぞれの自治区で独自に政治を行なっている共和国。
その治安や政策は千差万別だ。
明確に国のトップである者はいない。
それゆえにどのタイミングでどの自治区が攻めてくるのかが読みにくい。
そう言う意味では国境警備はかなり重要だな。
「あの、こんなの見つけました。」
「…足跡だな。あまり時間が経っていないようだ。靴底の形がセントルの制式防具とは違う…侵入者か?」
「山頂から降りてきています。敵国の兵がわざわざ山頂から降りてくるとは考えにくいですが…。」
なら誰だ。
いきなり山頂に降り立って奇襲するなんてできるはずもない。
この大地で最も高い場所がここだぞ。
とにかくこれは報告だ。
あいつらも有益な情報を持ってきたらいいが。
「レイド!とんでもない発見しちゃったよ!」
うるさいのが帰ってきた。
「とんでもない発見だと思ってるのなら聞かれないように静かにしろ。いつどこで誰が聞き耳を立てているかもわからないんだぞ。」
「あっそうだよね。アベルが帰ってくるまで待っといたほうがいい?」
「そうだな。情報伝達はなるべく一度で手短に済ませたい。」
アベルの方が観察眼が冴えていて足も速い。
ミモザが帰ってきてからアベルが戻るまでそう時間はかからなかった。
「待たせた。報告する。」
「ああ。まずはミモザからだ。手短に要点だけを言ってくれ。」
「はい!三点報告があります!まずはパイルの港を囲むように壁を建設しようとしていることと、砂漠の砂が不自然な動きをしているので恐らく兵器を砂漠に隠しているのかもしれないことと、怪しい人影がパイル北岸に向かっていったことです!」
「だから声でかいって。…まあ報告の内容は非常に有意義だ。次アベル頼む。」
「ああ。俺からは二点。一点、ウォルソル方面の家屋が微かに揺れているように見えた。二点、港と砂漠の間あたりの自治区にて火災が発生していた。恐らく未統治地区…いわゆる掃き溜めのあたりだ。」
「なるほど。思っているよりも収穫が多いな。こちらも異常を発見した。セントル王国所属ではない足跡を発見した。ミモザが言っていた不審な人影と同一人物の可能性がある。これは早急に調査すべきだ。」
「この足跡は山頂から始まっていました。もしかしたらパイルへの亡命者の可能性もあります。いずれにせよ、セントルに敵対する者であるのは恐らく間違いないでしょう。」
「まずはこれらを報告だ。俺が代表して報告しよう。」
どれも気になる話だ。
港に壁を作られたら攻略には厄介になる。
パイルは昔から砂漠に兵器を隠しているとの噂が絶えないが、もしや砂漠の砂が不自然とはそれなのか?
俺たちが見た足跡と不審な人影…揺れる大地に視認できるほどの火災…。
これだけの異常を国境警備隊は見つけられなかったのか?
それとも意図的に公表していなかったのか?
なんにしてもまずは報告だ。
俺がここで考えても意味がない。
俺たちは上の判断に頼るしかない。