占い売らない、占い師
「とてもよく当たる占いをしていただけるそうですね、占って下さい。」
純朴そうな青年が、僕の元を尋ねてきた。
「…どこで僕のことを知ったんですか?」
「ツイッターで教えてもらったんです、僕は変わりたいと思ってるんです、お願いします!!」
ツイッター、ねえ…。
最近はどこから情報が漏れるかわかんないな。
…親切心を前面に出したい人、いるからなあ。
誰かの親切心を振り切るわけには、行かないな。
こちらに…、返って来てしまう。
……仕方がない。
「では、この紙に、名前と生年月日を書いてください。」
占を、受ける資格があるか見せていただきましょうかね。
・・・。
ああ、この人は。
「当たる占いをして欲しいとのことでしたね。」
「ええ、僕の望んでいる事がわかりますか?」
「変わりたいと願っているといっていたじゃありませんか。」
「そうなんですよ、他には?僕のことわかります?」
「一人っ子で、わがまま、理屈っぽいけれど誰かに頼らずにいられない寂しがりや。」
「大当たりです、さすがですね!!」
「…ここへは、クイズをするために来たんですか?」
「ご冗談を!僕は変わるために来たんですよ、変われますか?」
「貴方は、変わることはできますけれど、変わりませんね。」
「変わる方法を聞きたいんです、教えて下さい。」
「変わるための言い訳を私に押し付けようとしていますね。」
「どういう意味ですか。」
「私がこうしなさいと言って、それを貴方が行った、しかし変われなかった。その場合の責任は…私にある。」
「僕が変われなかったのであれば、それは貴方の責任でしょう?」
「…そうですね、私の責任ですね。」
「早く占いの結果を教えて下さいよ!」
「貴方は何事も途中で投げ出しがちで、夢を見がちです。現実を見ましょう。」
「そんな一般的なことを言って貰う為にここに来たんじゃない!」
「私は一般的な占いしかできないんですよ、すみません。」
「ふん!!とんだ偽占い師だよ!!ツイッターで拡散するからな!!」
「はあ。」
純朴そうな青年は激しく怒りを撒き散らし、一円も払うことなく店を出て行った。
……あーあ、徳が揮発してってるよ。
対価の意味を知らないということは、本当に恐ろしいものだ……。
…占いってのは、命がけなんだけれどね。
なかなかそれを分かって頂けないのが、つらい所だよ。
人の人生に、介入するのって、めちゃくちゃ覚悟がいるんだけどね。
人生を変えてしまう言葉をお渡しする恐ろしさを、皆さん知らないご様子で。
あの、青年は。
自分の人生がどんな風に変わるのか、そこに興味があっただけで。
変えるつもりはないのが……見えた。
聞いたところで、ああ、こういう人生もあるんですねと流しているのが見えてしまったからね。
自分の人生を変える覚悟がない人に…、占を与えることはできんなあ。
こちらが覚悟しても、受け取る側が覚悟を決めない。
自分の人生なのに、誰かに、責任を押し付ける。
ずいぶん身勝手すぎやあ、しませんかってなもんだ。
本気で変わりたいと願うのであれば、こちらも覚悟を決めましょう。
すべて伝えて、変われる道を探しますとも。
細い細い糸を見つけて、出口に繋いで見せましょうとも。
それが占い師の、信念。
あきらめず、見つけ出し、繋ぐ。
道筋を探して辿って、神経をすり減らして。
こちらの生命力を削ることだって、あるんだけれども。
そこにやりがいを感じて、僕はここに……いる。
占い師の、人の人生を変える覚悟を受け取れる人のみ、ご来店願いたいもんだ。
自分の人生は、興味本位でのぞくもんじゃあ、ないんだよ。
自分の人生は、自分の責任で歩んで行くべきなんだな。
どうにもならなくなったとき、僕は手を差し伸べるからさ。
興味本位で占いを願ってはだめだよ?
自分で歩むことを、放棄してはだめだよ?
選んだ責任は、自分で取らないとだめだよ?
…ただ知りたいだけ?
そんな人には、売らないよ。
占い、だけにね。




