表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ハーフの仕立て士見習いですが、なぜか若君の胃袋を掴んだようです  作者: 相内 充希
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/89

第42話 模擬戦見学(3)

 指輪の意味なんて、ゲシュティ人で知ってるのは若君だけのはず。

 あの指輪は二人の関係を秘密にしておくにはちょうどいい形なんだと、瞬間的に理解した。私の噂は、いいカムフラージュだったのかもしれない。


「ナナ、テイバー様と話してくる?」

「いえ」

 何を話すの? 気付かないふりをする? 私が気付いたことが分かったら、若君はどんな顔をするんだろう。

 まだ混乱してる。

 まだ心の準備ができていない。

 大丈夫。こんな気持ち、すぐ押し込められるから。だから少し待って。


「そう? ならいいけど……。じゃあ、下馬戦が始まる前に、前に言ってた力の強化法を教えてくれる?」

「承知しました」


 カチリと意識を切り替える。

 私が言った事を、クララ様は理解できているかは別として、まじめな顔で聞いてくれた。紙に書いて説明したんだけど、百聞は一見に如かずということで、ここで一度実践する約束をしている。

 お付きの騎士様を一人だけつれ、クララ様と私、それからタキは、みんなからある程度離れた場所まで移動した。ひときわ大きな魔獣を模した像の前だ。


「クララ様は、剣を通して雷を放ちますよね」

「ええ、そう。槍だと重くて扱えないもの」

「ですよね。ロッドでは不安でしょうし……」

「杖? 叩くの?」

 ゲームなら魔法攻撃を放つのは杖だけど、こちらではそうなりますか。

「いえ、なんでもないです。じゃあ、やってみましょう。ボレロはまだ作ってませんから、とりあえずこれをはめてみてください」

 準備しておいた手袋をクララ様に渡す。

 きれいになめした革で仕立てた手袋には、電気系の素材と刺繍を複雑に組み込んである。これならクララ様の力の道をうまくつなぐはずだ。


 雷は、雲にたまった大きな静電気だ。貯めきれなくなった電気が落ちる。


「まず目の前に大きな鏡を思い浮かべてみてください」

「鏡ね」

 スマホやタブレットでは通じないので、一番身近で物を映す鏡にする。

 そして、その中に雲の記号アイコンを作り、そこに降りていく氷の粒子と登っていく水の粒子をスワイプしながら集めて電気を貯める。そしてゲージを上げて……

「放ちます!」


 ドッ!


 わずかだけど、それでも普段よりは大きな雷が、クララ様の剣から放たれた。遠くから騎士様たちがざわめくのが聞こえる。少ししびれる程度ではない電気だ。


「すごいです! 一回でできましたね」

「え、ええ。ナナの言ってるものが、なぜか見えた気がしたのよ」

 うわお、それはすごいわ! 以心伝心ですか?

 確認に行ってみると、撃たれた魔獣像の肩が少し砕けている。

 焦げた跡もあるので、今のダメージで間違いない。

 私が少し興奮しながら像を確認したとき、そこに名詞よりも小さなカードのようなものがひらひらと落ちてきた。なんでこんなところに? と、よく考えずにポケットにしまう。


「ねえナナ。あなた、できるんでしょう? お願い、やって見せて。もっとイメージを強くしたいの」

 像のダメージのことを伝えると、今まで見たことがない真剣な目でクララ様に懇願され、私はひゅっと息を飲む。

 確かにできる。当たり前だ。できることを教えたんだから。

 でも普通、仕立て士にそれができると思う? 思わないでしょう?

 そばにいた従者の騎士様も、クララ様の言葉に目を丸くしたままだ。


 それでも私はゆっくりと頷いた。

「それでクララ様の役に立つなら」

「ええ。お願い」

 これで、私がどう見られるかわからない。少し怖い。今度こそ、人ではなく魔獣の化身だと思われるかもしれない。

 でもそれなら、今度こそ日本に逃げ帰ってしまえばいいんだわ。

 そして日本でテイバー様を見つけて、ゲシュティに放り込んでしまおう。それで若君が幸せになってる姿を確認して、ジ・エンド。うん、それがいい。そうしよう。


 そんな後ろ向きな冗談を自分に言って、少しだけ笑う。


 若君はじめ、何人かの騎士様がこちらに来るのが目に入ったが、待ってなくてもいいでしょう?


「剣はいる?」

「何もいりません。素材は施してあります。タキ!」

 タキを呼んで抱き上げる。タキにキスをして、目の前のフィールド一杯のタブレットを思い浮かべた。雲のアイコン、指で水と氷のアイコンを移動させ、ぶつかる水と氷の粒子。

 空気がひんやりして、冷たい風が吹く。ゲージを最大限に上げ……

「はっ!」


 ドンッッ!

 突き出した右の手のひらから放出された雷は、魔獣の像を木っ端みじんにした。攻撃の時は言葉や声と一緒に放ったほうが強くなる。


「すごい……」


 そう言ったのはクララ様だろうか、お付きの騎士様だろうか。

 私は、ぷすぷすと煙を出す像を一瞥する。

 備品破壊はやりすぎだろうか。ちょっと思い切り過ぎたかもしれないな。

 そんなことを、どこか冷めた気持ちで考える。

 ひんやりしていた空気が消える。

 私をまとっていた風が消え、巻き上げられていた髪が落ち着いた。

とうとう人前で力を見せてしまったナナ。

王女や周りの反応はどうなるのでしょうか。


次は「模擬戦見学(4)」。


今話は投稿前に読み返しながら、

ん? スーパー〇〇〇人?

と、突っ込んでしまったのは内緒です。

いやいや、ゆ〇ーばのほうかもしれませんし(・3・)~


ブックマーク、評価、誤字報告ありがとうございます。

この作品は、未登録の方でも感想が書けます。

なにか一言ありましたらぜひ(^^)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ