第41話 模擬戦見学(2)
意外なことに、ガブリエラ様も騎士服だ。魔獣討伐のときは後方支援だと聞いていたけど、競技には参加されるのかな?
ということは、対戦相手は第一王女チーム? 若君もメンバーなんだね。
二人が並んでいる姿を目の前で見るのは、遠くから見るより心を抉るなぁと、どこか遠くの方で考える。またタキが不機嫌そうに、私の足に体をこすりつけながらフーフーいっている。若君が取られたと思ってるのかな……。
クララ様は、なぜか私にこっそりと
「対戦相手よ、ナナ。テイバー様にも力を出すところを見せてもらおうと思うの。いいわよね?」
と私に耳打ちをした。
クララ様がそういうなら、否とは言えません。反対する理由もないし、見てみたいし。
というか、よく考えるとなぜ身分が上のはずのクララ様が、若君を様付けしてるのでしょうね。この辺りもよく分からないところだわ。
間近で見る、騎士服にマントを羽織ったウィルフレッド様は、前に会場で見たときよりもかっこよく見える気がする。でも今日は練習着なのか、うちの仕立てではない服だ。
「テイバー様。実はね、先週父の希望でナナが餃子をふるまってくれたのよ。それがとてもおいしくて、皆も食べたいって話題になってるの」
「ああ、そうらしいですね」
クララ様の言葉に、にこやかにそう答える若君。でも――なんだろう。笑顔なのに、ちょっと機嫌悪くないですか?
オリバーさんを見ると、そんな若君に気づいてないのか、「あれはたしかに旨かったですね」と答えている。確かに餃子は、オリバーさんが喜んだ数少ないメニューの一つだったわね。
騎士様方がわいわいと盛り上がってるときに、そっとオリバーさんを手招きし、
「ウィルフレッド様、なにかありました?」
と、聞いてみる。
「いや。なぜだい?」
「なんだか機嫌が悪そうに見えたんです。気のせいでしょうか」
「ああ。うん、それは、あれだな」
ん? なにか心当たりが?
「若君は、しばらくナナのご飯を食べてないからね」
苦笑いでそう言われ、首をかしげる。
「王宮のご飯に飽きてるのでしょうか?」
「そういうわけではないだろうけど」
口を濁したところで、オリバーさんは若君に呼ばれて行ってしまった。一瞬だけ若君と目が合うけど、すぐにそらされる。
えーっと、食いしん坊の若君は、自分が知らないところで、私が作った餃子を食べた人たちがいるのが面白くなかった。ということでいいのかしら。
私は、一緒にご飯を食べているときの若君の笑顔を思い出しながら、陛下の言う賄いの話を受けたほうがいいのかなぁと悩んでしまった。
どうしようか。
みんみん亭風にこだわらなければ、こちらの調味料でもおいしく作ることは可能だ。あとは、エビ餃子みたいな感じで餡を変えるとか。蒸し餃子、いや、水餃子なら大人数さばきやすいかしら?
「どう思う、タキ?」
「何がどう思うなの?」
いつのまにか、クララ様が隣にいた。
「いえ、陛下に言われた賄いのことを考えていたんですよ」
「ふふ、お父様も無茶言うわよね? でも、おいしかったもの。引き受けてくれるの?」
「考え中です」
チラリと若君の姿を見て、首を振った。
賄いの時に若君がいるとは限らないんだよね。
若君の隣でガブリエラ様が笑みを浮かべて立っている。彼女がちょうど髪をかき上げようとした指に、細いリングが光るのが見えた。
左手の薬指だ……。
ふいに、自分が言った言葉が脳裏に甦る。
『左手の薬指は、基本的に結婚指輪とか婚約指輪とかをつけるところなんですよ』
前に、早朝に初めて見たガブリエラ様がウィルフレッド様に言っているのが聞こえてきた言葉は……
『――ねえ、なら私が嫁ぐなら……』
だ。オリバーさんは恋人ではないと言ってたけど、やっぱりガブリエラ様は若君に求婚していたんだね。若君は、曖昧な返事をしていたけれど……。
胃の奥が重くなる。胸の中がカチカチに凍り付いたみたいで、全身が冷たくなっていく。
二人は――――、婚約をしたの?
指輪をする習慣のない国で、その指輪の意味を知っているのはナナ以外では一人だけ……。
突然目にしたものに、ナナは動揺します。
次は「模擬戦見学(3)」。
ナナの言う力の使い方を教わるクララ王女。
今までナナが、笑われたりバカにされたりしてきた方法を、彼女は使うことができるのでしょうか。
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