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異世界ハーフの仕立て士見習いですが、なぜか若君の胃袋を掴んだようです  作者: 相内 充希
本編

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第20話 買い物

 食後は再び市場をひやかして歩いた。

 王都見学は、ほぼ市場だけで終わりそうな気がしてきたわ。楽しすぎる!


 しばらく歩くと、何かの雑貨店なのか、他のお店よりはひっそりとした店の前に来た。

 中がメインで、出店のほうはアウトレット品といったところだろうか。木のテーブルが出ていて、木の箱にキラキラしたものが雑多に入っている。

「石のお店みたいですね」

 店名は、ずばり「おまもり」だった。わかりやすい。

「中を見に行かないのかい?」

 外のくず石などを物色する私に、若君が不思議そうに聞く。

 まあ、普通は中に行くだろう。守り石を見たいなら。


「ちょっと思いついたものがあるので、こっちがいいんですよ」


 石は穴の開いていないビーズやスワロフスキーのような感じだ。

 大きさは、小さいものだと五ミリもないくらい。大きなものでも数センチといったところ。

 私はその中から、いろんな色や形、大きさの石を取り分けてカゴに入れていく。


 他にも雑多なチャームの材料があったので、そちらも選んでいく。

 ひとつひとつが小さいので、かなりの数を選んでも両手のひらに乗ってしまうくらいだ。

「これでいくらになるかしら」

 店員に尋ねると、

「全部加工前の石や、加工に失敗したものだけどいいのかい」

 と、なぜかチラチラ若君を見ながら心配そうに言われてしまう。


 若い娘が守り石を買うなら、それは当然恋人に贈るものだろう。それならちゃんと加工されたものに決まっている。

 でも私の使用用途はそれではないので、全く問題ないのだ。私の場合、加工しようと思えば自分でもできるし。


「これでいいのよ。きれいだもの」

 あとで文句なんて言わないから大丈夫とばかりに大きくうなずくと、店員は驚くほど安価な値段を告げてきた。

 なんと両の手のひらに山盛りで、日本円にして百円程度!

「売れたら儲けものくらいのくずだからね。できれば全部持って行ってもらってもいいくらいなんだよ」

「そうなの?」


 めちゃくちゃ心そそられるけど、さすがに全部を持ち帰るのは難しい。

 スーパーのカゴでもあれば、半分は埋まってしまいそうな量なのだ。

 持てない量ではないけれど、今日は大きなバッグを持って来ているわけでもないし、この後も見たいものがあるので、ここは諦めるしかないか。


「ほしいなら、俺が持とうか?」

 少し不思議そうにしつつ若君がそう申し出てくれるけど、私は首を横に振った。

「いえ、それはウィルフレッド様の仕事じゃないですよ」

 護衛の上に荷物持ちだなんてとんでもないわ。

 ま、仕方がない。また今度縁があったらってことにしよう。

 それでも、当初の予定の三倍ほどの量に増やしてもらったので、大満足だ。


  ☆


 その後も、ちょっとした布やリボンなど雑多なものを買い込む。

 想像以上の大収穫でホクホクだ。でも……


「ウィルフレッド様、すみません。退屈ですよね」

 私はめちゃくちゃ楽しいけれど、買い物に付き合わされているだけの若君は、いい加減飽きているころだと思う。なんだったら、先に帰ってもらおうかしら?

「いや。面白いよ」

 ニコニコしている若君は、我慢しているようには見えないので少し戸惑う。

「ナナの買い物は、何に使うかわからないものばかりで面白い」

 そんなものかしら?

 しばらく若君の顔を見てても、なんだか本当に面白そうにしているので、もうしばらく甘えさせてもらうことにする。


 充実の買い物でかなり時間を使ったつもりだったけど、ランチから二時間くらいしかたってなかった。でもずっと歩き回ってたし、少し休憩もしたいな。

 少し高台に来ていたので、ちょっと見渡すと、大きな白っぽい建物が目に入った。展望台のようにも見える。けっこうおしゃれな雰囲気だ。


「ウィルフレッド様、あそこはなんですか?」

「ああ。茶屋だな」

 ちらりとそちらを見た若君は、なぜか少し言いにくそうな感じで答える。

 茶屋……ということは、カフェみたいなもの?

「休憩とかできるのでしょうか? ちょっとお茶なんか飲めるといいんですけど」

 茶屋の様子を見つつ私がそう言うと、若君は

「じゃあ、あっちのほうがいいだろう」

 と、別の方へ歩き出してしまった。


 なにかおすすめのお店があるのかしら。

 こちらだと、自販機やコンビニで飲み物を買って、ちょっと公園で休むというわけにはいかないのが不便ね。


 若君が連れてきてくれたのは、見晴らしのいい落ち着いた雰囲気のレストランだった。夕方からはお酒も楽しめる、上流階級向けの店だ。

 さすがにここは、私には敷居が高い。

 戸惑っていると、若君は入り口から中へ声をかけ、店には入らなかった。

「こっちへおいで」

 と、なぜか店の横から小さな門を開けると、そこから中に入ってレストランの横にある外階段を上っていく。

 すると、お店のテラスに出た。お店の方は今は休憩中なのか、窓は開いていないし、中にも客らしき人は見えない。


「ここは?」

「このレストランのテラスなんだけど、眺めがいいんだ。こっちにきてごらん」

 言われるまま、テラスの一番端にあるしゃれたベンチに座ると、目の前には町と海が見えた。何の邪魔もない、まるで絵葉書のような完璧な光景だ。

「すごい。綺麗です!」

 確かに眺めがいいわ!


「このテラスはパーティーの時にしか開放しないんだけど、ここのオーナーは昔からの知り合いなんだ。ここの眺めが好きで、たまに一人で来るんだよ」

「そうなんですね」

 若君は、高いところからの眺めが好きなんだなぁと、初めて彼と会ったときのことを思い出す。

 あの時は、お店どころか民家もない山の上だったけど。


「タキ、見て! 船が見えるよ。海もキラキラして綺麗ね」

 ベンチは、ちょうどいいクッションのおかげでとてもリラックスできる。

 そこにゆったり座りながら見る光景は、陽に輝く海も、パステルカラーの町も、歩く人々の姿も、すべてが生き生きとしてとても綺麗だ。

 目の前の光景を楽しんでいると、店の方からティーセットの乗ったワゴンを押して来た男性が、若君と何か楽しそうに話して店に戻って行った。同世代っぽいので、学生時代の友達なのかもしれない。


「あ、お茶は私が淹れますよ」

 さっきは取り分けてもらったし、ここは私の番でしょう。

「じゃあ、頼もうかな」

「はい」


 少し甘い香りのするお茶は、ほんのりグリーンのハーブティーだ。

 二人分のお茶を淹れ、タキ用に用意された水を床に置く。


「ウィルフレッド様。ここって秘密の場所じゃないんですか?」

 香りは甘いが清涼感のあるお茶をたのしみつつ、気になっていたことを尋ねる。

 さっき一人で来るって言ってたよね?

 私が知ったところで、勝手に来ることはないから気にしないってところかしら。

「いいんだ。ナナと一緒に見たかったんだよ」

 海を見下ろしながら若君が静かにそう言った。

 いつもなら無駄にキラキラの笑顔を振りまいているところなのに、今はすっかりリラックスしているように見える。落ち着く場所なんだね。


 沈黙も心地よく、私たちはしばらくお茶と景色を楽しんだ。


「あ、そういえば、さっきの茶屋って、お茶を飲むところではなかったんですか?」

 もう一つ気になっていたことを聞くと、とたんに若君はゲホゲホとむせてしまった。


 え? 私、変なこと言った?


 なんとか落ち着いた若君に無理やり聞き出したところ、あそこは男性が女の子とイチャイチャしながら食事をしたりお酒を飲んだりするところだったらしい。


 昼間だし、お客さんも大勢いるように見えたから、まさかそんなお店だとは夢にも思わなかったわ!


 変なことを聞いてしまって恥ずかしい!

 若君、せっかく気を使ってくれたのに、ごめんなさい。

男性が、女の子をはべらせていちゃいちゃできる店なんて、あまりにも予想外で動揺しまくりのナナでした。まだまだ世間知らずなのです。


次は閑話で「うちの若君(2)」。

オリバー視点再びです。

若君の秘密が少し明かされます。


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