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悩む玲於奈

 元の場所に帰ってきた彼は、早速罠にかかった荒魂たちを狩ることにした。


 一匹ずつナイフでとどめを刺していくのは面倒だが、一掃することもできないので仕方がない。ヨリイト虫が一番多かったが、それ以外にも八つの赤い目を持つネズミや腕の筋肉が異常に発達した黄土色のカエルなどもいた。

 全てを倒し終わった後の玲於奈のプロフィールはこうだ。


『プロフィール』

名前 秋山玲於奈

性別 男

武器 ナイフ

スキル 糸Lv4(4/16)、探知Lv1(1/2)、水Lv1(0/2)、回復Lv2(0/4)、生命(0/2)


 ヨリイト虫十三匹、ネズミ三匹、カエル一匹からこれだけのスキルが得られた。

 順番に糸から詳細を見ていくことにする。


【糸Lv4】

・粘着糸:指先から粘性の糸を出し、飛ばすことができる

・鋼糸:鋼のように硬い糸を出すことができる


 まずレベル3になったことで効果が上昇したであろう粘着糸の具合を試す。


 玲於奈が壁に向かって手を伸ばすと、ほとんど力を込めなくとも勢いよく束になった糸が飛び出した。飛距離は一メートルぐらいだ。糸は壁に張り付き、剥がれ落ちることはなかった。


「これなら実践でも使えそうだな」


 玲於奈は糸を引っ張り、強度を確かめながら呟いた。刺繍糸ぐらいはありそうなので、本当に自分の身体を持ち上げることもできるだろう。

 やっと使い物になるスキルができたわけだ。


 考えてみれば、このゲームはかなり最初の数回を生き残るのが難しいシステムになっている。スキルのレベルを3まで上げるのには18ポイント必要となっており、それだけを貯めるまでは威力の弱いスキルでなんとかしのがなければいけない。特に同チーム内に先達が居なかった場合は、自分が荒神を相手にしなければいけないので、非常に難易度が高くなるだろう。


(まあ、俺はレベルが十分に上がるまでそこら辺で戦ってから挑戦すればいいだけだけどな)


 玲於奈はそんなことを考えながら、続いてレベル4で得た鋼糸を試す。

 しかし、五〇センチほど出したところで止めてしまった。

 急にみぞおちのあたりがねじ切れるような感覚に襲われ、彼は両手を地面についた。


「なんだっ、これ……」


 息を荒げて呟く。

 スキルを使うと体力を消耗するのは知っていた。しかしレベル1まではちょっと疲れる程度だった。ここまで消耗するのは初めてだ。


(たった一つ段階が上がるだけで、こんなに疲れるなんて……)


 頭が脈拍に合わせてズキズキと痛み始める。

 彼はフラフラになりながら急いでスマホの回復の欄をタップした。回復ならば今の状態を治してくれそうだと思ったからだ。


【回復Lv2】

・治癒 傷を塞ぐ


(違う、これじゃない……!)


 指を震わせながら急いでもう一つの生命のほうを見る。


【生命Lv1】

・生命 体力を回復する。(1/1)  使用しますか? [はい/いいえ]


(これだ!)


 迷わずはいを選択する。するとピコンという音がして、途端に身体が軽くなった。先ほどまでの苦しみが嘘のように消え、立ち上がれるようになる。

 苦しみから解放された玲於奈は深呼吸をした後、呆然としてスマホを見つめた。


「本当に大丈夫か、これ」


 怪しい薬とか神経に作用する催眠波とか放っていないだろうかと不安になる。

 見ると『体力を回復する。』の後ろの数字がゼロになっており、連続での使用はできないのだと分かった。


「へえ、やっぱり無限に使用はできないんだ」


 そうしたらいくらでも走り続けることも可能になるため、やはりそこは制限がかかっているのだろう。


「レベル10まで上げたら十回、は無理か。レベル4で技が増える感じかな」


 糸スキルも回復スキルもレベル2では新しい技は増えなかったので、全てのスキルがそうである可能性が高い。しかし体力が回復する以上の技となると、どんな技が発現するのだろうか。覚醒状態になってめちゃくちゃ素早く動けたりするのかもしれない。


 そこまで考えてから、ぼんやりとしていた玲於奈の頭に電撃のように一つの考えが去来した。


(あの時、あの子が使った技のレベルは……?)


 あの時と言うのは、最初に玲於奈が助けられた時のことだ。

 少女が起こしたほどの大爆発が硬い糸を出す程度のレベルと同等とは思えない。恐らく三つ目の技であるレベル7以上だ。だがその時、体力の消費はどうなるのだろう。


 確かにレベルが上がるごとに燃費は完全され、消費量は減っていく。しかし高レベルになればなるほど必要ポイントは増していくはずだ。

 玲於奈は急いで頭の中で計算した。


(レベル7までになるのに合計108、次のレベル8には35ポイント!?)


 記憶が確かなら、少女は玲於奈を助けた後、スマホを触っていた。サブミッションの確認をしていたのかと思ったが、経験者である彼女ならヨリイト虫の存在を知っていると考える方が自然である。


 急速に緊張が増していく。手が汗をかいていた。

 玲於奈はあの時、スマホからピコンという音がしていたのをしっかりと聞いた。

 もしかしたらあれは、体力回復の貴重な一回を、玲於奈を助けるために使っていたのではないか。


 急に事の重大さに、胸が締め付けられる思いだった。


(もし仮にあの子が死んだら、俺のせいって言えなくもないよな……?)


 少女一人だったら、適当にヨリイト虫を一匹ずつ見つけて、サブミッションの十匹を達成したはずだ。大軍を一掃する必要は全くなかった。


 玲於奈は思わず両手で頭を抱えた。

 今からでも行くべきだろうかと考える。

 人道的に考えれば、手伝いに行くのが道理だ。


 だが、果たして自分が行ったところで、神の名前を冠する敵を相手に何かできるのだろうか。糸スキルはそこそこレベルが上がってきたが、まだまだ使い物にならない。あの1-8に居た荒魂にだって破られるだろう。

 彼は改めて自分のプロフィールを見つめた。


(水Lv1の雨降らしを使えば敵の気を逸らせるか? そしたらその隙に一度下がれば、回復で傷を治癒くらいできるかもしれない)


 己の命は理想の彼女のために使うと決めている。ここで積極的に命をかける気にはやはりなれない。だが、遠くから望遠で様子を見に行く程度なら危険も少ないだろう。少女がピンチに陥った時だけ、考えた段取りで手を出せばよい。彼はそう判断した。

 あくまでも戦闘支援を主たる目的として。


 自分にそう言い聞かせ、彼はメインミッションに指定された戦場へと躊躇いながら走り出した。


書いている時、なんか集団的自衛権の説明みたいだなって思いました。


評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m

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