表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/47

ゴゴ草とサブミッション

 玲於奈が仕掛けた罠を見に行くと、三つのうち二つに例の蜘蛛が引っかかっていた。蜘蛛であっても玲於奈の糸からは逃げられないらしい。


 精一杯威嚇してくるそいつらへ無慈悲にナイフで突き立てる。

 立場が逆であったなら蜘蛛たちも玲於奈に同じことをしただろう。何より、全てはあの娘のためである。それを思えば躊躇っている暇はない。


 罠にかかった二匹目の蜘蛛を退治した時、スマホに再度通知が来た。


『既定の条件を達成しました。スキル【糸Lv2】を獲得しました』


 プロフィールを見ると『糸Lv2(0/4)』となっている。

 糸スキルは蜘蛛を退治することで手に入れた。そして『糸Lv1(0/2)』の状態で蜘蛛をさらに二体退治するとレベルが上がった。つまり後ろの数字は次のレベルに上がるための必要討伐数だったのだろう。


「あと四匹だろ。余裕だね」


 彼はナイフを握りしめ、不敵に笑った。


 新たに罠を設置している間に分かったことだが、糸Lv2になると糸を出す際の燃費が良くなるようだ。Lv1の時よりもはるかに楽に糸を出すことができる。

 最初が「にょーろー」だったとしたら今は「にょろにょろにょろ!」といった具合だ。同時に、糸の強度や粘着力も上がっていた。

 多少なら重たい物でも吊るすことができるようになっていたので、このままレベル3にもなれば自分がぶら下がることもできるかもしれない。


 その糸で新たに三十個ほどの罠を設置した玲於奈は、獲物がかかるのを待っている間にサブミッションに挑戦してみようかと思い立った。

 メインミッションは少女がやると言っていたので、任せてしまえばいいだろう。彼女のスキルはかなり高レベルのようだからきっと楽勝である。

 その間に自分はサブミッションをクリアしておけば、追加で2ポイントを得ることができる。スキル獲得に倍のコストがかかるようになってしまったとは言え、ポイントは無いよりあった方が良いに決まっている。

 彼はスマホを開き、もう一度サブミッションを確認した。


『1-8へ行け』

『ヨリイト虫を10匹倒せ(3/10)』

『ゴゴ草を採集せよ』


「あれ、ヨリイト虫を三匹倒したことになってる」


 玲於奈が三体倒したのは蜘蛛だけなので、恐らくあの蜘蛛の名前がヨリイト虫だったのだろう。これはそのうち達成できそうだ。

 一番上の指定された場所へ行くこともできそうだが、三つ目の草を集めるのは果たしてできるだろうか。ゴゴ草と言われてもどれがそれだか分からない。


「まあ、一個一個確かめていくしかないか」


 玲於奈はそう呟くと、とりあえず1-8を目指しつつ、道の草を拾いながら歩くことにした。


(それに、今から勉強しておけばあの娘に教えてあげることもできるからな)


 もし「どれ?」と訊かれたときに答えられなかったらダサい。この世界をマスターすればするほど、理想の彼女にかっこいいところを見せることができると思えば、多少の苦労はどうということがないのだ。

 道中に出会った目玉とゼリー状のトカゲ(【スキル水Lv1 雨降らし】)を倒し、真っ直ぐに1-8を目指す。

 道中、彼は妙に明るい箇所があることに気が付いた。通りの向こう側だ。


「あそこは2-4か?」


 何故かその一角から、巨大なネオンでも置いたような光が放たれている。

 どうせ急ぐ道行きでもないと思った玲於奈は寄り道として見に行ってみることにした。

 それに様々な敵に出会えば出会うほどに彼は能力を獲得できるわけだから、むしろ積極的に散策するべきだろう。


 2-4から下にわずかに行ったところにある空き地。そこには野原が広がっていた。雑草だらけであるという点については玲於奈が知っている通常の野原と共通しているが、その野原に生えたタンポポの綿毛は光っていた。よほど軽いのか一歩踏み入れるだけでぶわっと一斉に綿毛が舞う。妖精がはしゃぎまわっているようにも見えた。


 その美しい光景に玲於奈は思わず顔をほころばせた。この殺伐とした世界にも美しいものはあるらしい。

 近寄って一本摘むと、サブミッションのゴゴ草の欄に✓マークがついた。どうやらこの光るタンポポの綿毛がゴゴ草だったようだ。


「デートスポットにいいかもな」


 玲於奈は手の中の光を見つめて呟いた。

 この光景を見せれば、あの娘もきっと喜んでくれるだろう。


 思いがけず楽にゴゴ草をゲットし、さらにデートスポットも発見した玲於奈はご機嫌で2-4を発ち、1-8を目指して再び歩き始めた。



 順調な旅路に思えた。いや、実際にここまでは順調だった。だがここから、彼のゲームは一気に暗雲が立ち込め始める。


 その後、ヨリイト虫三匹と戦いながらも目的地にたどり着いた玲於奈は思わず呟いた。


「おいおいおい、ちょっと待てよ。あれはなんだ!?」


 1-8に着くとそこには、一匹の馬鹿でかい蜘蛛が居座っていた。

 今まで倒してきた奴とは比べ物にならない大きさで、大型犬どころか牛ほどもある。脚も太く強靭に発達しており、玲於奈など一振りで両断できそうだ。さらによく目を凝らせば地面には糸が張られていた。うかつに近づけば足を取られるということだろう。


(だからこいつはここを動かないし、サブミッションはここに連れて来たわけか)


 ヨリイト虫たちの成長した姿がこれなのだと察することができるが、驚くべきはこれでも荒神ではないということだった。いったい荒神になるとどれほどの大きさと強さになるのか。


 幸いにもガバガバ判定により巣の中に踏み入れずともサブミッションの『1-8へ行け』には✓マークがついたので、玲於奈はそのまま退却することにした。

 彼は戦闘狂ではない。理想の彼女の前でもないのに無茶をする必要はないのである。



 罠を大量に設置した1-1周辺への帰り道、玲於奈は自分がメインミッションをクリアしてやると居丈高に宣言した少女のことを考えていた。

 少女がいくら経験者だと言っても、果たして本当に荒神を倒せるのだろうかと心配になったのだ。きっと荒神はあの蜘蛛よりも強敵なのだろう。

 さすがに一度でも話した人間が、自分が押し付けたミッションのせいで死んでしまったら気分が悪い。

 しかし、


「まあ、本人がやるっつってんだし大丈夫だろ」


 彼はあえて声に出して言うことで、不安を頭の隅へ追いやった。

 何があっても自己責任。そういうスタンスを先に表明してきたのは向こうだ。それに、あの巨大蜘蛛にさえ太刀打ちできない自分が行っても足手まといになるのが目に見えている。


 冷静に考えれば行くことに意味はないのである。


そういえば今晩からTOKYO MXでまどマギの再放送やりますよね。まだ観たことない人にはぜひ観て欲しいです。


評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ