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激戦、そして勝利

 現在、玲於奈は満身創痍なのに対し、敵は二体も居てどちらも健在である。この状況をひっくり返すには敵の弱点を突くしかない。あの黒い球体だ。あれを砕いてやれば一撃で消し去ることができる。


(問題はそれがどこにあるかなんだよな)


 玲於奈は敵の身体をじっと見つめた。


 これまで荒魂の種ごとに黒球の位置は決まっていた。ヨリイト虫なら胸のあたりだし、ネズミなら腹の真ん中、目玉は目の中心だ。そしてちびチヒモ虫の場合は、頭部の脳みその位置だ。

 だが、お化けチヒモ虫は激しく頭を振って大きな口で吸いついてくるので、いきなり脳天を貫くのは難しいだろう。まずは敵の動きを止めなければいけない。


 その時、無傷の方のお化けチヒモ虫が再び飛びかかってきた。

 玲於奈はそれを横に跳ぶことで躱す。

 お化けチヒモ虫は玲於奈を追いかけようとして、頭を大きく振った。

 それに対し、玲於奈はさらに後ろに下がった。もう一匹のお化けチヒモ虫も飛びかかってくるのを見て、どんどん距離を取る。


 玲於奈が糸の罠をたくさん設置したエリアに入っても彼らは構わず追ってきた。しかし敵はスピードを落とさない。彼は内心で悪態をついた。


 罠を使って仕留めようと思っていたのだが、あてが外れた。地面を這うちびチヒモ虫と違い、お化けチヒモ虫に対して糸の罠は意味を為さないようだ。彼らの尖った足は接地面積が非常に狭く、力も強いため、踏んでもすぐに抜け出してしまう。


(それならそれで、やりようがある)


 突如、先頭を走っていた無傷のお化けチヒモ虫が止まった。罠の上に発生した玲於奈の大口がお化けチヒモ虫の脚の一本を咥えたのだ。

 ただ残念ながらそれにかかったのは一匹だけだった。それを見た後ろのお化けチヒモ虫は警戒して脚を止めてしまった。


「ニイイイイイイ!」

「絶対に放さねえよ!」


 鳴き声を上げ、口を振りほどこうとするお化けチヒモ虫を玲於奈は必死で押さえつける。そしてさらに拘束するための粘着糸をぶつけた。


「おらぁっ!」


 全力で腕を振り、両手から糸を出す。この機を逃すわけにはいかなかった。二体を同時に相手することはまずできない。速やかに一匹ずつ片付ける必要がある。次はないかもしれない。


(くそ、ちょっとは練習しておけば良かった……)


 この時、暴れるお化けチヒモ虫に糸を絡みつけながら、玲於奈は糸を操る練習をしなかったことを後悔していた。家でやるには掃除が大変になるし、外でやると人に見られてしまうので、特に練習はしていなかった。

 もう一匹のお化けチヒモ虫が罠を避けながら突進してきた。


 玲於奈はすぐさま逃げ出そうとして、今逃げればせっかく捕まえた敵も逃げてしまうことに気がつく。まだまだ拘束は弱く不完全だ。追加し続けないとすぐに網は破られてしまう。逃がすわけにはいかない。

 やるなら、今しかない。


「仕方ねえ」


 彼は向かってくるお化けチヒモ虫に糸を投げつけ一瞬動きを止めると、その脇を駆け抜けた。もがき拘束から抜け出そうとするお化けチヒモ虫に接近する。


「やってやる……!」


 光を反射して輝くナイフを取り出し、覚悟を口にした。


「ニィイイイイイイイ!」


 お化けチヒモ虫の声が火照った頭の中で反響する。興奮で、一瞬頭が真っ白になった気がした。

 ズブリという、手に確かな肉を断つ感触。彼は間髪置かず、深々と差し込んだそれを今度は横に思い切り引いた。ナイフを振りぬき、勢いのまま投げ捨てる。


「ニィイイイ!」

「まだだあ!」


 玲於奈は叫ぶと、両手をたった今作った傷口に突っ込んだ。ぬめぬめとした生暖かい感触に包まれる。その不快感を無視して両手から鋼糸を出すと、裂くようにしてさらに奥に手を押し込んだ。


「ニィイイイ!」

「いい加減うるせえぞ、くそ虫が!」


 強胃酸を両手の口から発動させる。

 蛇口を思い切りひねったような勢いで酸性の液体が飛び出て、お化けチヒモ虫の体内を溶かし始めた。


「ニィイイイイイイ!」


 お化けチヒモ虫が悲痛な叫び声をあげ、体をのけぞらせた。

 それでも彼は構わず強胃酸を出し続けた。胃酸で溶かし、鋼糸で裂き、体内をグチャグチャに荒らしまくる。

 身体の半分まで傷口を広げた時、後ろからもう一匹のお化けチヒモ虫が口を伸ばしてきた。


「お前には、こっちだあ!」


 玲於奈は利き腕である右腕を引き抜くと、自ら後ろの敵の口に腕を突っ込んだ。

 口がぎゅっと締まり、腕を傷つけ、血を搾り取ってくる。条件反射のように胸元のちびチヒモ虫たちが移動を開始する。


 だがそんなものも想定内だ。彼は右手にナイフを召喚すると、思い切り口内に突き立てた。胴体と違って肉が薄い口付近ではナイフが皮膚を貫通して外側にも飛び出た。

 敵が驚き、腕を吐き出そうとしてくる。


 当然、その動きを利用して彼は、ナイフを手前に引いてやった。お化けチヒモ虫の下顎が魚を捌いた時のように開かれる。


 お化けチヒモ虫たちの体液でべたべたになりながら、玲於奈は右腕側のお化けチヒモ虫の脳天をナイフで素早く貫いた。ゴリっと黒球を砕いた感触がする。お化けチヒモ虫が白くなり始めるのを確認した玲於奈は、返す刀ですでに満身創痍の、もう一匹のお化けチヒモ虫にもとどめを刺した。

 二匹とも白い砂になって消えていく。砂の中からちびチヒモ虫たちが這い出て来て、ちょろちょろと逃げて行った。


「やっ……た……? やったよな……。終わったーーー」


 敵が消えたことを何度も確認した後、玲於奈は大きく息を吐いてこぼれた白い体液まみれの道路に座り込んだ。

 敵を倒しても残したものは消えない。だが、どうせすでにべちゃべちゃなのだから、特に気にすることも無いだろう。

 心臓の鼓動が収まってもまだ、身体は微熱のような熱を帯びていた。


「あっつい」


 そう呟いて服を仰いで送った風は、今までで一番気持ちよかった。


白濁液にまみれる主人公……


評価・コメント等お待ちしておりますm(__)m

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