第三話
「おい、村ってあそこか?」
「……そうよ」
返事がなんだかそっけない、そう、俺の全力の必殺旋風陣が全くデカゴブリンに効いていなかったのが不服なんだそうだ。自分の召喚したヤツがとんだ弱いハズレクジだったもんで不服なんだそうだ。
ちなみにゴブリン達は完全に撒ききって今は森を抜けた街道にいる、遠くにはなんとも村っぽい村
が広がっているのが見える。
「なあ、俺のこの力って弱いままなのか?」
「……一応成長はする」
「何すりゃ成長するんだ?」
「とにかく力を使うこと……かな」
「なるほどな、ってことはデカブツにっぶっ放した分や逃げるときの加速の風の分なんかで成長してるんじゃね?」
「まあしてるでしょうね、でもまだまだ全然足りないわ。魔王を倒すには」
「魔王、ね……」
こいつまだクソガキっぽいのになんでこんなに魔王に固執するんだろうな……お決まりのパターンだと家族全員魔王一派に殺されたとかか……うーん、クソガキだからこそ聞きづらい。いくら相手がサイコパスとはいえまだ子供、傷を抉る真似は避けたい。
「そういやさ」
「なに?」
「俺たちお互いの名前知らないよな」
「そういえばそうね」
「改めて俺の名前は中野ヨシキ、ヨシキって呼んでくれ」
「私の名前はサイ・ガーネット、サイって呼んで」
「サイコ、いやサイ子」
「コ?どっからコなんてでてきたのよ」
「俺のいた世界では可愛い女の子の名前には『子』という字が後ろに付くんだ、だからサイ子」
「かっかわいい!?わたっわたしが!?」
「まあまだ子供だけど可愛らしいんじゃないか」
「そ、そりゃまだ14歳だし子供だし……でもかわいいって」
「お、まだ14歳なのか、俺は22歳な、バリバリの就活生(大嘘)」
「シュウカツセイってなに?てかヨシキは22歳なのね」
「見えないか?」
「うんもっと若いかと思ってた、何というか……村の22歳の人たちと比べると苦労を知らない顔って感じ」
「そ、そうか……」
苦労から逃げ続けた結果である。
ーーーーー
「着いたな」
なんともまあ村らしい村というか、のどかで平和そうな村である。
「私の家に行きましょう、疲れたでしょう?」
「ああ、あんなに走ったのはいつぶりかってくらいだ」
「私ももうクタクタ、帰ったらお茶でも飲みましょう」
「お茶か、いいね」
「もうすぐで着くからね」
「あいよ」
異世界のお茶か、マズくなきゃいいが……というかよく考えたら食うものも全くの別文化なんだよな、どうしよう主食があのゴブリンの丸焼きだったら……
いや待て、そうすると……何かがおかしい……なんだこの違和感は……そうだ、何故俺はサイ子と普通に話せてるんだ、召喚のなんたらのおかげなのか?あとで聞いてみるか、色々考え出したらツッコミどころがいっぱい湧いてきた……
ーーーーー
「はいお茶よ」
コトンと小気味良い音とともに置かれたそれは、まぎれもなく……
「お茶……だな」
コップをつかんでそれをジロリと眺める、顔に近付けて香りを嗅ぐ。うんお茶だ、緑茶だ。
「な、なに?毒なんて入れてないわよ」
「んっ」
緑茶と知って俺は一息にそれを飲み干した、うんうまい。
「どうしたの?」
「これは緑茶だよな、俺の好きな緑茶」
「そうだけど……」
「一応聞くけど俺のいた世界とは別世界なんだよな、ここって」
「そうよ、あんたのいたニホンとは全くの別の世界」
「なぜ日本を知っている!?」
「そりゃ私が召喚したかったのはニホン人だったから……」
「ど、どういうことだ!?」
「だって私ニホン語しか喋れないし」
「お、お前日本語話してたのか……!」
「?ずっと話してたじゃない」
頭がおかしくなりそうだ……少しずつ整理させてほしい……
「……少し考えさせてくれ」
「?変なヨシキね」
考えをまとめよう……さっきの疑問は晴れたっちゃ晴れた、サイ子は日本語を話せる、そして日本、日本人の存在を知っている。
そしてさっき飲んだ緑茶はまぎれもなく緑茶だった……なんだここは、日本なのか?
「ここは日本か?」
「んなわけないじゃない」
んなわけないよなあ、だとしたら導きだされるモノは……そうか
「今まで日本人は何人召喚されてきたんだ」
「んー、分かんない、私が生まれる前から召喚されてるから」
「お前……」
「あ、でも帰りたい人はちゃんと帰してるのよ、居着く人もいるけど」
「え、帰れんの?」
「うん」
「俺も?」
「うん、帰りたいの?」
「いや、今のところは帰るつもりはない」
「そうなの?よかった~それ心配してたのよね~」
ーーーーー
「ってわけなのよ」
「なるほどな~」
どうやらその昔最初に偶然召喚された日本人がこの村があまりにも文化的でないのを見かねて日本の文化を植え付けたってわけなんだそうだ。
なるほど、外に出てみると稲作している人の姿も見える。春には桜でいっぱいになるんだそうだこの村は。
「日本文化が根付いているのはこの村だけなのか?」
「この村がニホン文化発祥の地になって各地に根付いているわ、ニホン語なんかはどこでも通じると思う」
「すげーなオイ……」
「さっきの14歳とか22歳ってのもニホン文化よね!」
「おお、よく知ってるじゃねーか」
「ニシシ」
誇らしげに笑うその姿は非常にかわいらしい、俺に妹がいたらこんな感じだったのだろうか。
ーーーーー
「召喚つーのは気軽に出来るもんなのか?」
「条件さえ揃えば、ってところかしら」
「その条件とは?」
こいつの家の堀ゴタツに座り茶をしばきつつ話をする、もっとも時季的にコタツが稼働する時季ではないので暖かくはないが。今は夏も近づいている春くらいだと思う四季も日本と一緒ならな。
「まず前提条件として召喚士にならないと召喚は使っちゃダメなの」
「ふむふむ」
「あとは召喚したい者に合わせて魔力を貯めてぶっぱなす、するとゲートが開くのよ」
「人間以外も召喚できるのか?」
「そうね、戦闘になって召喚士の役目と言ったら召喚獣を呼び出したりするものだし」
「なるほどな、俺の勝手なイメージなんだがお前の歳で召喚士って早かったりしないのか?」
「早くはないわ、むしろ適齢期?ってやつよ、みんな14歳になるとそれぞれのジョブに就くの、戦士、僧侶、魔法使い、召喚士、その他諸々……」
「就く…………?」
「14歳だからまだまだヒヨっ子だけど3年もすればみんな立派に一人前になれるんだから」
「お、俺もっつ、就くのか……?」
「あ、いや、ジョブに就くのは基本的にこの世界の人だけね。ただヨシキには召喚獣登録が必要なの」
「俺召喚獣なのか」
「一応そうなるわね、ねね、もう一度聞くけど元の世界に帰りたい?」
「帰りたくない」
「だったら明日街の召喚庁へ行って召喚獣登録に行きましょう!」
「なんか人体実験とかしないよな……」
「しないしちゃんと人扱いされるから大丈夫よ!」
「そうか、ならいいぜ」
「決まりね!じゃあ今日は早めに寝ましょう!」
「おいおい気が早いなまだ飯も……」
「分かってるわよ!ご飯とおフロね!」
そう言ってチャッチャカと家事に取り組むサイ子、うーん、手伝っても邪魔になりそうだ……ちょっとこの家を探索するか。
さっきの堀ゴタツの部屋がリビングだとすると……今サイ子が米研いでるとこがキッチンか、風呂トイレは……お、ちゃんと別だ、つーかシャワーもついてんのな。あとはこの二つの部屋が……やっぱりか、ここがサイ子の寝室、んでその右は……なにもない、本当に何もないただの部屋だ。
どうやらこの家はサイ子一人で住んでいるようだな、ますます家族の事について聞きづらい……まあその内それとなく聞いてみるか……
ーーーーー
「できたわよ~」
「おっ」
白米に味噌汁に納豆に魚の開きである、完全に和食である。
「これはいいな」
「ニシシ」
誇らしげに笑うこいつは非常にかわいらしいホントにかわいらしい、サイコパスの気があるけど。
「うまいな」
「料理には自信あるのよね~」
母親に教わったのか?とか聞きたい、でも聞きづらい。
「この魚はどこで捕れるんだ?」
「裏の川で私が釣ったのを干物にしたのよ!」
父親に教わったのか?とか聞きたい、でも聞きづらい。
「お前なんでも出来んじゃん」
「まあね」
一人暮らしが長いのか?とか聞きたい、でも聞きづらい。
「あ、おフロ先入っていいからね」
「お、いいのか」
「私知ってるよ!一番風呂!」
「よく知ってんな」
「ニシシ」
かわいい。
ーーーーー
「おフロあがりました~」
「おう」
先に入った俺は茶を飲んでいた。
「でさ、あのね……」
「ん?」
やけにもじもじしている。
「ベッド、なんだけどさ、一つ、しかないの」
「うんうん」
「一緒に寝る?」
「別にいいけど」
「えっ!!!」
「別にいいけど」
「そ、そこは『いやいやいやいや俺なんかがお前と寝るなんて、襲ってしまうぞ!』って言うんじゃないの!?」
「何言ってんだ襲わないぞ」
「ホントに?」
「うん」
「じゃ、じゃあ一緒にね、寝ましょうか」
「ワーイ布団だ布団だーい」
「俺は端で寝るからお前は普通に寝なよ」
「わ、分かった」
「もし寂しくなっちゃったらおじさんが添い寝してあげるからね」
「きも!」
こうして、俺の異世界初日はつつがなく終わるのでした……