明日の君、今日の僕
同性愛が許される世界になった。
僕は恋をしているのかもしれない。
でもそれは嘘かもしれない。
でもそれは本当なのかもしれない。
いろんなカップルが多すぎて自分もそうなりたいから、そう思うだけかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
「ん」
彼が手を差し伸べてくる。
「え?どうしたの?」
「いや、手をつなぎたそうな顔してたから。俺でよければと思って」
「どんな顔だよっ馬鹿かっでも繋いじゃうー」
「なんだよ、結局繋ぐんじゃん」
彼は僕のことを好きじゃないと思う。
智子先輩に片思いしているのだという噂を聞いたことがある。
僕には話してくれないけど。
彼は女の子の方が好きだと思う。
だからこの思いも届くことはないんだけれど。
「昨日さ、夢を見たんだ」
「何?急に」
「いいから聞けって。あのな、結構リアルな夢で。お前が告白されるんだ」
「えー!!誰に!?」
「そこは分からなかった。なんかぼんやりしててな」
「リアルな夢なのに?」
「いいじゃねえか別に。それでな。その告白がいたずらで、俺がかばって慰めてたら、泣きながらこういうんだ。俺のことが好きだったって」
「…え?」
「そんなわけないよな。馬鹿みたいだ」
「まあそうだなーありえないって」
自分の心が痛む。
こうやって嘘をつき続けることに何の意味があるんだ。
でもこうするしかない。
ごめん。
好きでいてごめん。
昼休み。彼と二人で談笑しているとクラスメイトから声がかかった。
見ると廊下に僕を手招きする人がいる。
誰だっけ?確か同級生だったかな?
近づくとこう言った。
「塚本君。話があるんだけど、ちょっといいかな?裏庭で待ってるから。」
そう言って、さっさと行ってしまった。
彼の元へ戻る。
「なんだって?」
「なんか話があるって。裏庭へ来てって」
「そっか、じゃあ俺も行くわ」
「へ?なんで?」
「ほらさっき話しただろ。夢の話。予知夢だったか確かめる」
「そっか、じゃあ一緒に行こう」
そう言って裏庭に行く。
「塚本君。その人誰?」
「友達。一緒に来てくれたんだ」
「どうも」
「できれば一人で来てほしかったんだけど…」
「まあ連れてきちゃったから仕方ないという事で勘弁してよ」
「うーん…」
「じゃあ俺が離れているならそれでいいの?」
「いや、しょうがないからそのままでいいよ」
「そっか。で、話って何?」
なんでお前が聞くんだ。そう思いつつ黙っている。すると女の子がこっちを見て行った。
「好きです。付き合って下さい!」
「駄目」
「え?」
彼が間髪入れず拒否した。
「だってこれ公開処刑でしょ。窓から何人かあんたの仲間なのかな?こっち見てにやにやしてる」
「なっ…!」
「本当は好きじゃないんだろ?だったらもういいじゃん」
「え…でも…私は本当に…」
「嘘つくな。うぜえんだよ。気持ち悪い」
「おい、鳥海、何もそこまで言わなくても…」
「うっざ!!何もそこまでいうことないじゃん!」
彼女と僕が言ったのは同時だった。
「あ、ごめん」
「なよなよしてんじゃねえよ!!きめえんだよ!!」
「……え?」
「そうだよ、お前なんかが愛されるわ…」
「それ以上言うな」
彼が制止する。
彼女は黙った。
「お前には塚本の良さなんて人生やり直しても分かんねえよ。てめえの方がよっぽど愛されないわ」
「は??こいつのことなんて知りたくもねえよ!ぼけなす!!消えちまえ!!」
「お前が消えろ」
彼女を威圧する彼。
最後に彼はこういった。
「お前になんか絶対渡さない。こいつは俺がもらう」
…は?どうしてそうなる?君は僕のこと好きなんかじゃないだろうに。
無理しているんだろうな。申し訳ない。
黙っていると彼女は舌打ちをして、逃げて行った。
「……ごめん」
「なんで謝んの?」
「だって、無理させた。僕のことが好きなんて嘘つかせた。気持ち悪いだろうに。ごめん」
「そんなことない。俺はお前のこと好きだ。笑う顔とか天然なところとか存在自体が好きだ。なにより顔が可愛い」
「なっ…何言ってんだよ!!冗談やめろ!!あと天然じゃない!」
「天然な奴はみんなそう言うよ。あと嘘とかじゃないから。俺はなんも思ってない奴に期待させるようなことはしない。そばにもいない」
「…嘘だろ??だって、おかしいじゃないか…」
「嘘じゃないって。今日見た夢の通りだとつまんないから俺から告白したの。手繋ぎたそうな顔してたってのも、俺が繋ぎたかっただけ。あんときのお前の顔。可愛かったなあ…」
「それじゃ…僕は…」
「付き合えばいいじゃん。昔はこんなこと言えるような時代じゃなかったみたいだけど、今なら言える。」
「でも…」
「でももなにもない。冗談でもなくて、本当に好きなんだ。付き合って下さい。」
「じゃ…じゃあ……今後とも、よろしく」
「俺さ、大事な時に夢を見るんだ」
放課後、並んで歩いてるときに彼は言った。
「大事な時?」
「そう、大事な時。運命の変わり目?みたいな時に」
「なにそれ、すごいな」
「いや、偶然かもしれない。そこらへんはようわからんのだけどな」
「じゃあ今日の予知夢みたいなのもそうなのか」
「そう。実はあの夢には続きがあってな」
「え?何、どんなん?」
「お前が俺に告ってくるだろ。だけど俺はなぜかごめんって言っちゃうんだ。本当は好きなのに」
「なんで?」
「んーなんでだろ?わかんねえけどな。とりあえずごめんって言っちゃって、お前ともそれでおしまい。今まで通りの片思いが続くっていう夢」
「へー…」
「明日の俺が、俺に警告してるみたいでさ。昔にもあったんだ。事故にあう夢とか、告白してふられる夢とか」
「全部回避してきたの?」
「うん。そう」
「すごいね。予知夢を見るかあ…」
ぽんっと僕の頭に手が載る。
「なっなんだよー」
「恋人なんだから、こういうことしてもいいだろ?」
なでられる。気持ちいい。やさしさを感じた。
「ん」
手を差し出す。
「?」
「今日の事もう忘れた?」
「いや、覚えてる」
そう言って、頭を撫でていた手を下して、手を握ってくれる。
それだけで幸せだった。
「そういえばさ…」
「あーもしかして俺が智子先輩好きだっていう噂?」
「なんでわかったの!?!?」
「いや、不安そうな顔してたから。あれ、嘘。智子先輩が勝手に流してて迷惑してんだ」
「えー…知らなかった。」
「これから知ってけばいいじゃん。俺の事も。お前のことも」
「…あのさ」
「ん?」
「お前っていうのやめない?僕も鳥海の事名前で呼ぶから鳥う…司も僕の事名前で呼んでよ」
「……」
「ご…ごめん。駄目、かな?」
「…いや、いいよ。太一があまりにも可愛いもんで」
「ちょっ…可愛くないだろ!!」
「いや、可愛いよ。すごく」
「もーからかうなよなあ…」
「からかってないよ」
そう言って笑う司が、とても可愛くて。
ああ、司のことが大好きなんだなあって思えた。
明日の君はどうだろう?
今日の僕は幸せだ。
いや、きっと君だって、幸せだよな?
明日も明後日もその次もその次も。
愛し合って生きていこう。
この気持ちは本物だ。