アオ隊員、『いたずら好きのリス』君を発見する?
今日の『逆さ虹の森』の担当は、アオ隊員です。
今日も冷静に安全確認。ゆっくり飛びながら見回り中です。すると、森の一角の『たくさんの木の根っこが飛び出した広場』でなにやら難しい顔をしながら根っこに捕まり頭をひねっている『リス』を発見しました。
ちゅん、ちゅん、ちゅん
パタパタパタ
「……ふむ、リスさんや。そんな所で難しい顔をしてどうしたのじゃ?」
「……え? なになに? き、君は誰なの? どうして僕に話しかけてきたの?」
「ん? そうだったのじゃ。先に話しかけた、わしから自己紹介するのが礼儀じゃの。これは失礼したのじゃ。こんにちは。初めまして。わしの名前は『アオ』。この森の先にある岩山で暮らしている『ちゅん鳥戦隊』の一員なのじゃ。よろしくなのじゃ」
リスさんの様子を気にしながらもアオ隊員は冷静にあいさつをしました。
「アオ君って言うんだね。礼儀を気にするんだ。ふふふ。僕は『リス君』って呼ばれてるよ。よろしくね。アオさん? うーん。やっぱりアオ君のがいいのかな?」
木の根っこに体を捕まり動けなくなっているリス君です。どうしたらあんな状態になるのだろうか。アオ隊員はそこが気になりながらも、自分を『さん』づけではなく『君』づけで呼ぼうか迷っているリス君に返します。
「ふむ。別に『さん』でも『君』でも、どっちでもよいのじゃ。おぬしの呼びたいように呼べばよいのじゃ。わしは、そこにはこだわりはないのじゃ」
「あ、うん。そうなんだ。本人がこだわらないって言ってるならどっちでもいいのか。じゃあ僕が呼びやすいようにアオ『君』にしようかな。よろしくね。アオ君」
しっかり相手の気持ちも確かめるリス君です。立派です。相手のイヤがる事はしない。これも大切な大人の対応です。でも、あんな状態のリス君をそのままにしておいてもいいのかな?
「ふむ。よろしくなのじゃ。して、おぬしはそこで何をやっておるのじゃ? わしには木の根っこに捕まっておるようにしか見えんのじゃ」
自分の名前の呼ばれ方には気にしないアオ隊員。リス君の事は『おぬし』って呼ぶんだね。そこもこだわりはないんだね? さすがです? そんな冷静な所がアオ隊員の良い所?
「う、うん。この木の根っこだよね? そうなんだよ。まいっちゃうよね。この広場は『根っこ広場』って呼ばれてて、『ここで嘘をつくと根っこに捕まるとか』言われているんだよ。だからそれが本当かどうか試してみようとしてたんだ」
アオ隊員の冷静な対応に、リス君も冷静に自分の状況を説明します。
コテン
何を言っているんだとばかりに頭を傾けるアオ隊員。
「ふむ。この広場は『根っこ広場』というのじゃな。初めて知ったのじゃ。面白い広場もあるものじゃ。おぬしの言う通り、何事も試してみる事は大事じゃぞ? わしらも毎日色々検証しておるのじゃ。
じゃが、おぬしの言う事が本当なら、おぬしは嘘をついておると言う事なのじゃな?」
さすが冷静なアオ隊員です。リス君の置かれている状況をしっかり理解したようです。
「……う。そ、そ、そ、そんな事ないんだよ? ほ、本当だよ? 僕は嘘なんてついてないんだよ? 信じてよぉ。……ぐっ! あれあれ~~」 にょきにょきにょき ズズズズズ
嘘なんてついてないと話すリス君ですが、木の根っこは何でもお見通し? どんどんリス君の体に木の根っこが絡みついてきました。
「ほう。凄い根っこなのじゃ。まるで意思があるようなのじゃ。これは見物なのじゃ」
リス君の様子も気にせずに、木の根っこの方に興味を持ったアオ隊員。そこは冷静になる場所が違うような気もしますが、リス君も痛がったり苦しんでいるようには見えないので、命の危険まではないのではないかと判断したようです。本当に大丈夫かな?
「ちょ、ちょっとちょっと! アオ君! 助けてくれてもいいんじゃないの? 僕がこんな感じで動けなくなってるから、それを心配して話しかけてきてくれたんじゃないの?」
アオ隊員がまったく自分を心配していない事を不思議に思いながらも、リス君はあわてて助けを求めました。
「ふむ。そうだったのじゃ。この森を見回っている時に難しい顔をしながら根っこに捕まっているリス君を発見したからやってきたのじゃ。何か変化があれば飛びつけて確認する。それがわし達ちゅん鳥戦隊の任務なのじゃ!」 バサッ!
ちょっと格好つけて右手を左斜め前に挙げてポーズを決めるアオ隊員。本人は心から格好いいと思っています。
「へ、へえ。そうなんだ。それは大変そうな任務だね? ぼ、僕にはできそうもないのかな? あはは」
満足そうにポーズを決めるアオ隊員を見て、そこには何も触れずに話を進めるリス君。大人です。
「ふむ。そうじゃろうのう。その状態のおぬしなら、すぐに駆けつけるのは難しそうなのじゃ。ふっふっふっ。おっ。なんじゃ? 根っこが少しゆるんできたではないか」
さすが冷静なアオ隊員。根っこの状態を見極め、この状況を分析しています。
「えっ? あっ。本当だ。少しだけど根っこがゆるんできたみたいだよ?」
嬉しくなったリス君は体を動かそうとしますが、まだそこまでは自由には動けないようです。
「ふむ。どうやらその根っこは、嘘をつくと絡まって、本当の事を話すとゆるまるのではないかの?」
おお。さすが冷静なアオ隊員。簡単にこの木の根っこの仕組みを解いてしまいました。
「わあっ! じゃ、じゃあ、僕が本当の事しか話さなければ、この根っこはキレイに解けていくんだね?」
これでようやくこの根っこから脱出できそうだと思ったリス君です。でも、世の中そんなに甘くはないですよ?
「ふむ。確かにそうかもしれんのじゃが、これもせっかくなのじゃ。もう少し検証してみるのじゃ。何事も検証は大事じゃぞ?」
さすが冷静なアオ隊員? しれっとひどい事を言っているのですが、そんなひどい事を言っているとはまったく思ってもいません。冷静過ぎるのも時には怖いものですね。
「ええ~~っ! そんなのイヤだよぉ! もうずっとこの状態だったんだよぉ! もう許してよぉ! もういたずらばっかりしないからぁ! え~~ん、え~~ん。…………」
あーあ。やっちゃいました。アオ隊員。そんなつもりはなくても、リス君にはお仕置きになっちゃいましたね。これまで散々いたずらばっかりしてきたのですから、これもいい薬になったのかもしれません。
ズズズズズ スルスルスル
すると、どうした事でしょう。あんなに絡みついていた木の根っこがキレイさっぱり解かれていきました。もうリス君は自由に動けます。良かったね。
「ふむ。どうやら、涙を流すくらいしっかり反省すれば、すぐに根っこは解けるようになっておるのじゃな。ふむふむ。これはまた面白い根っこなのじゃ」
どこまでも冷静なアオ隊員。嘘をつくのはよくない事だと分かっているのです。かわいいいたずらだけならまだしも、嘘をつくのはいけません。相手を思っての嘘でも気をつけないといけません。
言葉の受け取り方も人それぞれです。お母さんの作ってくれた料理に、『まずーい。こんなの食べたくなーい』なんて言ってもいけません。せめて、『うん。こういう味もあるんだね。僕はもう少しうすあじの方が好きかもしれないよ?』くらいの事は言えるようになりましょう?
かわいい冗談で済むような検証も必要です。それは、これからもずっと試していくしかないのです。ふふふふふ。ね、アオ隊員? あれ?
…………冷たい空気が流れた気がします…………
アオ隊員は氷魔法の使い手ですからね?
そんな事も知らずに、根っこの仕組みが分かった事と、リス君が無事に解放された事に満足し、アオ隊員はいつものように冷静な態度であいさつをして、さっそうと飛び去っていくのでした。
「それではまたの。リス君、さらばなのじゃ!」 パタパタパタパタ
その後、毎日取っ替え引っ替え現れるちゅん鳥戦隊によって、リス君の『いたずら好き』は少しずつ改善していくのでした。小さな事からこつこつと? 小さな小鳥のちゅん鳥戦隊だから上手くいったのでしょうか?
そうです。それもあるかもしれませんが、アオ隊員の冷静な判断力があったからこそ、何事もなく無事に済ませる事ができたのです。そんな気持ちがアオ隊員にあったのかどうかは分かりませんが?
ぱっと見、ちゅん鳥達の違いが分からずに、みんなアオ隊員だと思って接していたリス君。すぐに気づいたようですが、それでもみんなちゅん鳥戦隊の一員です。なんでも検証するのが楽しくて仕方ないのです。そんなのに捕まったらたまりません?
細かい事は気にしない。自分の体を使って検証するのはいつでもできますが、他者の体を使って検証するのは、ちょうどいい相手がいないとできません?
もうある意味『お友達』だと思ってみんな接しています。検証相手にぴったりなんですよ? サイズ的に?
だからリス君も気が休まらずにいたずらなんてしている余裕はありません? これもやれやれですね。
逃げて! リス君。いたずらするのは好きでも、いたずらされるのはイヤだよね? 分かります。そういうものですから。
だから、自分がされてイヤだと感じたいたずらはしちゃいけません。こんな気持ちになりたくないよね? でも良かったね。リス君。他者の痛みが分かるリスになれたんだよ? 今の気持ちを忘れないでね? ふふふふふ。
今日もまた、ちゅん鳥戦隊はそれぞれにあった出来事を報告し合ってから安らかに眠るのでした。これも『ちゅん鳥戦隊のルール』の1つだからです。情報の共有は大切ですからね。
これにて任務完了です。おやすみなさい。
…………つづく
次回『アイ隊員、歌上手のコマドリさんを発見する?』
お楽しみに!