アズキ隊員、『食いしん坊のヘビ』さんを発見する?
今日の『逆さ虹の森』の担当は、アズキ隊員です。
今日も見落としがないようしっかり警戒しながら見回り中です。すると、森の木陰でなにやら苦しそうにお腹をふくらませている『ヘビ』を発見しました。
ちゅん、ちゅん、ちゅん
パタパタパタ
「……こんにちは、ヘビさん。そんな所でお腹をふくらませてどうしたんですか?」
「……ん? ぐぐぐ。き、君は誰? ど、どうして僕に話しかけてきたんだい? ふう」
「え? そうでした。失礼しました。自己紹介がまだでした。こんにちは。初めまして。私の名前は『アズキ』。この森の先にある岩山で暮らしている『ちゅん鳥戦隊』の一員です。よろしくお願いします」
お腹がポッコリふくらんで動きにくそうにしているヘビさんの様子を気にしながらも、しっかりていねいにあいさつするアズキ隊員。
「これはごていねいにどうも。僕は『ヘビさん』って呼ばれてるよ。よろしくね。アズキさん? ふう。それにしても、ちゅん鳥戦隊って格好いい名前だね。なんだか強そうだ」
ポッコリお腹がまだ苦しいので、少し動くだけでも大変そうなヘビさんです。どれだけ食べたらあんなお腹になるのでしょうか。アズキ隊員はそこを気にしながらも、隊の名前を格好いいと言われた事が嬉しくなりました。
おやおや~。いつもの警戒心はどこに行ったのでしょうか?
「はい! ありがとうございます。この隊の名前は、『ご主人様』につけていただいた名前で、みんなのお気に入りなんです! ふふふ。この名前が格好いいって言ってくれるって事は、ヘビさんはいいヘビさんなんですね? 良かっです」
「う、うん。そうだよ。僕は悪いヘビじゃないからね。本当だよ? ちょっと今は食べ過ぎちゃって動きにくいけど、普段はもう少し早く動けるんだよ?」
隊の名前を格好いいと言っただけで『いいヘビ』認定してくれたアズキ隊員に少し驚きながらも、今の自分の現状を説明するヘビさん。そんな素直な所がアズキ隊員の良い所?
「そうなんですね。悪いヘビさんじゃないけど、食べ過ぎヘビさんなんですね? それも良い事だとは思いませんけど、大丈夫なんですか?」
あくまでもヘビさんの言う事を信じて、動きにくそうな体を心配するアズキ隊員。優し過ぎです。自分が獲物認定されているとも知らずに。大丈夫なんでしょうか。
「そ、そうなんだよ。食べ過ぎはあまり良い事だとは言えないよね。でも仕方ないんだよ。目の前に美味しそうな獲物がいれば、食べてしまうのが癖なんだ。でも、今はもう動けないから、これ以上は無理なんだよね。残念だよ? ふふふふふ」
「はあ、そうですか。つい食べてしまうんですね? 私の『ご主人様』の1人に似てるかもしれません。ふふふ。じゃあ、ヘビさんのそのお腹の状態は大丈夫なんですね? いつもの事なら平気なんですね?」
どこの世界にも『食いしん坊属性持ち』はいるのですね。アズキ隊員は『ご主人様』の事を思い出し、また少し嬉しくなりました。
「う、うん。このお腹の事ならいつもの事だから平気だよ? それを心配して僕に話しかけてきたのかい?」
アズキ隊員がまったく自分を警戒しない事を不思議に思いながらも、ヘビさんは素直に思った事を聞いてみました。
コテン
何を今更と言わんばかりに頭を傾けるアズキ隊員。
「そうですよ? この森を見回っている時に苦しそうにお腹をふくらませているヘビさんを発見したからです。何か変化があれば飛びつけて確認する。それが私達ちゅん鳥戦隊の任務です!」 バサッ!
ちょっと格好つけて右手を左斜め前に挙げてポーズを決めるアズキ隊員。本人は心から格好いいと思っています。
「そ、そうなんだ。そんな任務もあるんだね? 凄いや。僕にはできそうもないかな? あはは」
満足そうにポーズを決めるアズキ隊員を見て、そこには何も触れずに話を進めるヘビさん。大人です。
「そうですか? まあ、確かにその状態のヘビさんだと、すぐに駆けつけるのは難しそうですね。ふふふ。私達は戦うのが目的の隊じゃないですけど、毎日『ご主人様』達と特訓してますから、私の攻撃でも案外簡単にやっつけられちゃうかもしれませんね? うーん。どうでしょう?」
とっても素直なアズキ隊員。しれっと自分の力を主張しているのですが、そんな事をしているとはまったく思ってもいません。素直過ぎるのも時には怖いものですね。
ちゅん鳥戦隊の隊員達が持っている『特別な力』。アズキ隊員が持っているは『土魔法の力』です。まだまだ力は弱いけど、自分や仲間達を守るために特訓しているのです。
今では『土魔法』で身を固めて、ドーンッと体当たりまでできてしまいます。もちろん自分にもダメージが入るのでやりませんけどね? 本来は守りに使うための魔法です。
「げっ! マジなのか! ちゅん鳥戦隊って言うくらいだから、戦うのが目的の隊じゃないって言いながらもそれなりに戦闘力もあるって事だよな?
…………ま、まずいのか? 俺はなんとか時間を稼いで食べてやろうとしてたのに、逆にやっつけられてしまうのか? ああ、どうしよう! まだ動けないぃっ!!」
アズキ隊員が本気で色々と考えている最中で良かったですね。ヘビさん。その心の叫びはアズキ隊員には聞こえてないみたいです。黒い気持ちが丸出しで、口調まで変わっちゃってますよ?
「ん? どうしたんですかヘビさん? やっぱりお腹が苦しくて辛いんですね? 良かったら私がお腹をドーンッてしてあげますよ? ちょうど私の特訓の検証もできますし、ヘビさんもその苦しみから解放されるかもしれませんよ? 正に一石二鳥です。ふふふ」
とってもとっても素直なアズキ隊員。またまたしれっと怖い事を言ってます。これもまったくその気はないのでしょうが、もしそんな事をしたら、お腹がいっぱいの苦しみから解放されると言うよりは、ヘビ生の残りの命を解放してしまう事になるかもしれませんよ?
おお怖い。その素直な微笑みも逆に怖く見えちゃってますからね? ね、ヘビさん?
「いやいやいや! ごめんなさいっ! そんな事されたらお腹が破けちゃうかもしれないよぉ! もう食べ過ぎないようにするから許して下さい! ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
あーあ。やっちゃいました。アズキ隊員。そんなつもりはなくても、ヘビさんには効果てきめんでした。泣きながら謝っています。まあ、このヘビさんはアズキ隊員を食べようと考えていたのですから、これも当然の報いなのかもしれません。
相手を攻撃するのは、何も物理的な物だけではありません。もちろん魔法攻撃だけでもありません。口で攻撃する『口撃』も立派な攻撃方法です。
今回は良い方向に働きそうだからよしとしますが、使い方を誤ると大変な事にもなりかねません。自分の知らないうちに相手には大きなダメージが入っているかもしれません。十分に注意して使って下さいね?
ちゅん鳥戦隊だけに、しっかりちゅんいして下さいね? あれ?
…………冷たい空気が流れた気がします…………
コテン
そんなヘビさんを見て、また不思議そうに首を傾けるアズキ隊員。なんでこうなっているのか本気で分からないようです。でも、もう食べ過ぎないようにするって言ってくれているので、特に問題はなかったと判断したようです。これはこれで幸せなのかもしれません。
ヘビさんの中で色んな思いがあった事も知らずに、アズキ隊員はいつものようにしっかりていねいなあいさつをして、さっそうと飛び去っていくのでした。
「それではヘビさん。またお会いしましょう。ごきげんよう!」 パタパタパタパタ
その後、毎日取っ替え引っ替え現れるちゅん鳥戦隊によって、ヘビさんの『食いしん坊』は少しずつ改善していくのでした。小さな事からこつこつと? 小さな小鳥のちゅん鳥戦隊だから上手くいったのでしょうか?
そうです。それもあるかもしれませんが、アズキ隊員の素直で裏表のない言葉でも、時には打撃や魔法攻撃よりも効果があるのかもしれませんね? そんな気持ちがアズキ隊員にあったのかどうかは分かりませんが?
ぱっと見、ちゅん鳥達の違いが分からずに、みんなアズキ隊員だと思って接していたヘビさん。さすがに途中で気づいたようですが、それでもみんなちゅん鳥戦隊の一員です。それぞれに色んな魔法の使い手でもありますから、そんなの相手にしちゃいけません?
ちゅん鳥戦隊達もちゅん鳥戦隊達で、隊の名前を格好いいと言われただけで嬉しくなって『いいヘビ』認定です。もうある意味『お友達』だと思ってみんな接しています。
だからヘビさんも気が休まらずに食べ過ぎる余裕なんてありません? これもやれやれですね。
よく噛んでゆっくり食べれば、必要以上には食べなくても済むものです。なんでも丸呑みしてしまうヘビさんには辛いかな? でも良かったね。ヘビさん。命もあるし、健康的にもなってきたんだよ? ふふふふふ。
今日もまた、ちゅん鳥戦隊はそれぞれにあった出来事を報告し合ってから安らかに眠るのでした。これも『ちゅん鳥戦隊のルール』の1つだからです。情報の共有は大切ですからね。
これにて任務完了です。おやすみなさい。
…………つづく
次回『アオ隊員、いたずら好きのリス君を発見する?』
お楽しみに!