アカ隊員、『怖がりのクマ』さんを発見する?
今日の『逆さ虹の森』の担当は、アカ隊員です。
今日もにこにこ元気で楽しそうに空から見回り中です。すると、『よく澄んだキレイな池』のほとりでなにやら難しい顔をしながら頭をひねっている『クマ』を発見しました。
ちゅん、ちゅん、ちゅん
パタパタパタ
「……やあ、クマさん。そんな所で難しい顔をしてどうしたんだい?」
アカは、いつものにこにこ笑顔で話しかけます。
「……え? き、君は誰? ど、どうして僕に話しかけてきたの?」
大きな体のクマさんは、なぜか恐る恐る体の小さな小鳥のアカ隊員に話し返します。
「ん? おっとそうだったね。自己紹介がまだだった。こんにちは。初めまして。僕の名前は『アカ』。この森の先にある岩山で暮らしている『ちゅん鳥戦隊』の一員なんだ。よろしくね?」
クマさんの様子も気にせずにアカ隊員は平然とあいさつをしました。
「う、うん。ちゅん鳥戦隊ってなんだろう? よく分かんないけど、まあいいか。アカ君って言うんだね。僕は『クマさん』って呼ばれてるんだ。アカ君は怖くなさそうだから平気かな? 良かった。よろしくね。へへへ」
やっぱりアカは怖くなさそうだと思ったクマさんは、少し笑顔になって返しました。
「う、うん。僕は見たとおりの小鳥だから怖くなんかないよ。本当だよ? じゃあ、『クマさん』さんって呼べばいいの? 変だよね? 普通にクマさんでいいのかな?」
少し冗談を言いながらアカ隊員はクマさんに話しかけます。
「あはは。面白いね。アカ君は。そんな事言われたのは初めてだよ。クマさんさんなんて? あはは。変なの」
アカ隊員のおもしろくもない冗談に安心し、クマさんはやっと打ち解けてきたようです。これが笑いの力です。これが普通にできる所がアカ隊員の良い所?
「う、うん。変だよね。僕もそう思うよ? あはは。それで、クマさんに話しかけたのは、この森を見回っている時にこんなにキレイな池のほとりで難しい顔をしたクマさんを発見したからだよ?
何か変化があれば飛びつけて確認する。それが僕達ちゅん鳥戦隊の任務だからね!」 バサッ!
ちょっと格好つけて右手を左斜め前に挙げてポーズを決めるアカ隊員。本人は心から格好いいと思っています。
「う、うん。そうなんだ。大変そうな任務だね? 僕にはできそうもないや。へへへ」
満足そうにポーズを決めるアカ隊員を見て、そこには何も触れずに話を進めるクマさん。大人です。
「そ、そうなのか? クマさんならもっと凄い事ができそうに見えるけどね。体が大きくて力もありそうだし、話し方が優しそうだからみんなから頼られてるように思えるよ?」
「え、え? そんな事ないよ。僕なんか本当に怖がりで、体が大きいだけで何にもできないクマなんだよ? はあ……
それでね。この池は『ドングリ池』って呼ばれてて、『ドングリを投げ込んでお願い事をすると叶うという噂』があるんだ。だから僕もお願い事をしてたんだよ?」
「へー。そんな名前がついてる池だったんたね。知らなかったよ。じゃあクマさんは、この池にお願い事をしてたんだね。ちなみに、どんなお願い事をしたんだい?」
ズカズカと人の心に踏み込んでいくアカ隊員。今回は大丈夫だったみたいだけど、時と場合を考えようね?
「う、うん。アカ君なら話してもいいのかな。うーん。まあいっか。僕はね、こう見えてとっても怖がりなんだ。みんな僕を見るとすぐに走っていっちゃうから、誰かと話をするのも怖いし、夜の暗闇も怖いんだ。だからこの森から出た事もないんだよ。自分でも情けないと思っているから、少しでもこの怖がりが治ればいいなあと思って、この池にお願いしてたんだ」
なにも気にせずあっけらかんと話をしてくるアカ隊員を見て、クマさんは自分の悩みを打ち明けました。
コテン
アカ隊員は首を傾けて考えます。そんな事が怖いの? この体が大きくて優しそうなクマさんがそんな事で悩んでるの?
アカ隊員には不思議でなりませんでした。自分よりも大きくて力もあるクマさんの悩みが、あまりにも意外だったからです。でも、アカ隊員は思い出しました。『ご主人様』が前に言っていた事を。
『人を見掛けで判断しちゃいけないよ? 考え方も感じ方も人それぞれなんだ。話を聞いてみないと本当の気持ちは分からないし、話してくれたからと言って本当の事を話してくれてるとも限らないんだ。
だから見掛けや言葉だけで人を判断しちゃいけないよ。よく時間をかけてじっくり付き合ってみないと、お互いに本当の気持ちは理解し合えないからね』
そうか。そういう事だったのか。アカ隊員はようやく理解できました。『ご主人様』が言っていた言葉の意味を。まさにこれがそうなんだと気がつきました。
「そうだったんだね。初対面の僕にクマさんの悩みを打ち明けてくれてありがとう。僕の事を信用してくれたんだね。ふふふ。でも安心して。クマさんの悩み事は誰にも言わないし、僕が協力できる事なら手伝うよ」
「……あ、ありがとう、アカ君。そんな事を言われたのも初めてだよ。なんか嬉しくなるね。へへへ」
色んな初めての事に驚きながらも、クマさんは嬉しくなっていつの間にか微笑んでいました。
「うん。こちらこそありがとうだからね。クマさん。クマさんのお陰で僕も大切な事に気づけたよ。ふふふ」
そんなクマさんを見て、アカ隊員も嬉しくなって微笑みました。
「へへへ。ありがとうだなんて、照れちゃうね? アカ君、僕の方こそありがとうだよ?」
こうやって打ち解けて笑い合う2人。ありがとうの力は凄いです。それに気づいたアカ隊員が更に話します。
「ふふふ。こうやって初対面の僕とも普通に話ができて、そんな素敵な笑顔を見せてくれてるんだから、クマさんの願いは1歩前進したって事になるんじゃないのかな?」
「……あっ。そうかもしれないね。きっとそうだよ! この池の噂は本当だったんだよ! やったよ! この池が僕に1歩前に進める勇気を与えてくれたのかもしれないよ!」
あまりの嬉しさにクマさんは少し興奮しながら喜びます。
「うんうん。きっとそうだよ! クマさんのその笑顔があれば、見掛けただけで走っていっちゃうなんて事はないと思うよ?
あっ。でもクマさんに『ニタぁ』って牙を出して笑われたら、食べられると思って走って逃げちゃうかもしれないね?」
せっかくいい話になっていたのに、余計な事に気づいたアカ隊員。でも、それも大事な事だからグッジョブ(今回は『よく気づいた。よくやった』という意味ですよ?)なのでしょうか?
でもでも、もう少し言い方はあると思います。またまたズカズカとなにも気にせずあっけらかんと話をしていくアカ隊員。これは治りそうもありませんね? クマさんもあ然としています。
「……え? 僕は何でも食べるわけじゃないよ? 本当だよ? 好き嫌いも多いから何でも食べるつもりはないんだよ?」
それでも何とか我に返ったクマさんは、本当の事を打ち明けます。でも、食べ物の好き嫌いが多いのはいけませんね? 分かってるなら尚更です。色んな物を工夫して食べる努力は必要です。
「……そう言われてもねぇ。クマさん相手に誰も勝てないと思うから、捕まる前にみんな逃げちゃうんだよ。きっとそうだったんだよ」
クマさんの食べ物の好き嫌い問題には一切触れずに、アカ隊員は話を続けます。きっとアカ隊員にも食べ物の好き嫌いがあるのでしょう。同類のようです。
「…………そ、そうなの? だからみんな僕からすぐ逃げるように走って行ってたんだね? はあ……」
クマさんも、食べ物の好き嫌い問題は大した問題とも思ってないみたいですね。やれやれな問題児達です。
「だ、大丈夫だよ! ほら、僕が協力できる事なら手伝うって言ったでしょ? 僕達は『約束は守る』のも『ちゅん鳥戦隊のルール』の1つなんだ! だから任せてよ!」 バサッ!
おっと。いつの間にか話がまとまりそうになっていましたね。やれやれでした。ごめんなさい。
「…………う、うん。凄い自信があるみたいだから、アカ君に任せてみようかな? 今更だしね? お願いできる? へへへ」
「そ、そうだよ。今更何を言ってるのさ。僕達はもう『お友達』だよ? これだけ話ができて笑い合えて、相談事まで聞いてるんだから間違いよ。うん。間違いない! そのお願い、僕に任せてよ!」 コクコク バサッ!
「……へへへ。……ふふふ。…………あはは!」
この何とも言いようのないアカ隊員の自信に、クマさんもちょっとだけ何とかなりそうな気がしてきたのでした。
何の根拠もない自信だけど、この笑顔は間違いない。僕をだまそうとしている笑顔じゃない。クマさんはそう思うと、アカ隊員と同じように何の根拠もない笑顔を見せて笑うのでした。
「さすがに今日1日でどうこうできる問題じゃないからね? こんなデリケートな僕とこうして初対面で話ができたんだから、クマさんの怖がりもこれから少しずつ良くなっていくと思うよ。それに、僕の仲間にも話してクマさんと仲良くしてもらうように伝えておくからね?
そうすればもっといっぱい話せるようになるから、どんどん良くなっていくと思うよ? ふふふ。でも安心してね。クマさんの悩み事はもちろんナイショだよ? 男と男の約束さ! 任せておいてよ!」 バサッ!
またまたその気になって格好つけてポーズを決めたアカ隊員でしたが、実はクマさんは『女の子』だったのです。
…………冷たい空気が流れた気がします…………
「……こ、ここは反論しちゃいけない場面だよね? 僕は男じゃないのにね? 僕って言ってた僕も悪いから? はあ……」
そんな事も知らずに、アカ隊員はいつものように元気なあいさつをして、さっそうと飛び去っていくのでした。
「じゃあね! またねクマさん!」 パタパタパタパタ
その後、毎日取っ替え引っ替え現れるちゅん鳥戦隊によって、クマさんの『怖がり』は少しずつ改善していくのでした。小さな事からこつこつと? 小さな小鳥のちゅん鳥戦隊だから上手くいったのでしょうか?
そうです。それもあるかもしれませんが、アカ隊員の根拠のない自信でも、時には人のためになるならと思っての善意からの自信なら、こうして誰かの役に立つ事もあるのかもしれませんね? そんな気持ちがアカ隊員にあったのかどうかは分かりませんが?
ぱっと見、ちゅん鳥達の違いが分からずに、みんなアカ隊員だと思って接していたクマさん。アカ隊員が色々気を使って話し方を変えてくれていると思ってたみたいです。やれやれですね? 慣れって凄いです。
ちゅん鳥戦隊達もちゅん鳥戦隊達で、そんな事は気にせずに接していたのも凄いと思います。どっちもどっちだったんです。そんなものです。これもやれやれですよ?
細かい事は気にしない。ちゅん鳥達の処世術、上手な世渡り方法の1つです。そんな方法、誰から学んだんでしょうかね?
今日もまた、ちゅん鳥戦隊はそれぞれにあった出来事を報告し合ってから安らかに眠るのでした。これも『ちゅん鳥戦隊のルール』の1つだからです。情報の共有は大切ですからね。
これにて任務完了です。おやすみなさい。
覚えていますか? 『ドングリ池』の噂。
『ドングリを投げ込んでお願い事をすると叶う』という噂でしたよね? もしあなたがこの池を見つけたらなら何を願いますか? ふふふふふ。
…………つづく
次回『アズキ隊員、食いしん坊のヘビさんを発見する?』
お楽しみに!