ネッチアにて
「はぁ!? エフェットの家が反乱!?」
情報から隔離された、船からネッチアの街に上陸した俺たちを待ち受けていたのだ、そんな知らせだった。
そしてそれを知らせてくれたのは。
「ええ、我が家にも討伐軍として才を振るうように王命が来ていますわ」
ものっっっっっっすごく不機嫌な表情で腕を組んだシャルメル様であった。
「そうか……まぁ時間の問題、と言う事だったのかな」
「あのー、アデム君? なんで私も土下座をさせられているんでしょうか?」
俺とお前は一蓮托生である。
相変わらず、何もない所ですッ転びそうになったコレットさんを助けた後、予防的処置として、2人で手を繋ぎながら船から降りた先で、俺たちはシャルメル達の待ち伏せに出会ったのだ。
炎も凍る様な視線を俺たちに向ける彼女に、俺は条件反射的に土下座に移行。俺と手を繋いでいたコレットさんもついでに土下座に付き合わせた。なぜかその所為で更に気温が下がったのは気のせいだろうか?
「あっあの、シャルメルさん、そろそろ人目が」
わいわいがやがやと、見世物を覗く様な視線に耐えられなくなったアプリコットが仲裁してくれて、俺たちの額は漸く地面からおさらばすることが出来た。
俺たちはシャルメルが利用している宿にやってきた。前回利用したところとは別だが、勿論最上階のスイートルームなのは変わりない。
「はぁ、教会のシスターですの」
「あっはい! コレット・マカデミッツと申します! アデム君のお守を任されたものです!」
コレットさんはそう言って胸を張る。いやどちらかと言うと、俺が問題児を押し付けられたと思うんだが。
「まぁ教会の内部事情には首を突っ込みたくありませんので、今はそれを素直に受け取っておきますわ」
シャルメルはそう言って肩をすくめる。
「それよりシャルメル。今の状況を教えてくれないか」
「いいですわ。アデムさんに関わりない事じゃありませんし」
彼女はそう言って一連の流れを説明してくれた。
「じゃあ、まだにらみ合い状態で、開戦には至ってないって事か」
「ええ、そうですわ。けれどそれも時間の問題。国王派と反国王派がアデルバイムに集結している状態ですわ」
ふむ、しかし動きは鈍いな。あの切れ者そうな爺さんの事だ、本気で反旗を翻すとなれば、王手がかかった状態で翻すだろう。
「時間稼ぎの茶番だな」
おれが漏らした言葉に「えっ何がです?」とシャルメルが反応する。
「あー、話が通じづらいな。ちょっとお前ら、口外したら生涯見張られる様な話を聞きたくないか?」
俺は色々と面倒くさくなって彼女たちに魔女の事やアリアさんの事、その他俺が聞いて来た事全てを洗いざらいぶちまける。
コレットさんはその事をとめもしないで「へー」「なんと!」と相槌を打っているのが不安だ、お前これを吹聴させないために同行してるんじゃないかと、突っ込みたくなったが、俺に都合がいいので黙っておいた。
「なんてこと聞かせてくれたのよアンタ」
俺と同じく平民出身のチェルシーがどんよりと頭を抱える。まぁ彼女も真実を探求する学徒の身だ、そのうち消化してくれるだろう。
反対に憤っているのはシャルメルだ「御爺様許しませんわ」と怒りをあらわにする。
「まぁまぁ落ち着けよシャルメル、俺だって色々と思うことが無いではないが、今の価値観でその時の判断を責めるのは酷ってもんだ」
戦乱の極限時でギリギリ出した答えだ。安全地帯からゲルベルト爺さんを責めるのは酷だと言うモノだろう。
「アデムさんがそう言うのなら」
魔女に関わって、と言うか一方的にかかわられた挙句、指名手配犯になっている俺の身を慮って彼女は引いてくれる。
「それで、アデムさんは一体どうするつもりなんですか?」
アプリコットの問いかけに、俺は暫し悩んだ挙句こう答えた。
「フィオーレ翁は、本格的な戦いには入らない筈だ。あくまで時間稼ぎに徹して、その間に裏で魔女を何とかしようとするだろう。
俺が出来る事は、魔女との戦いに勝つ手段を一刻も早く探し出すことだ」
「そのためのヒントがあの遺跡にあるって言うの?」
チェルシーがそう疑問に思うのも無理はない、アレは枯れ果てた遺跡。その上俺たちもまた行ったばかりの遺跡だ。
「けど俺の勘があそこには何かあるって言ってるんだ」
アリアさんの事について色々な事が分かったが、未だに判明していない事がある。それは時間のズレだ。
彼女が自らを犠牲にして魔女を封じたのが20年前、とすると、10年前に俺たちの村を救ってくれたアリアさんは、一体どのアリアさんなのだろうか?
どのアリアさんと言うのも訳が分からない話だが、事実訳が分からない事なので仕方がない。
そしておそらくそのヒントは神父様が握っている。
王都に出てから分かった事だが、教会の最大戦力である神父様があんな辺境の村で燻っていたのは、その謎を探すためじゃないんだろうか。
村の教会を漁ってみれば、何か神父様の残したヒントが見つかるかもしれない。
「はぁ分かったわよ、付き合うわよ」
「いやいや、チェルシー? 今までの話を聞いてたのか? いつ魔女に襲われるか知れたもんじゃないんだぞ?」
「そんなもんアンタの話を聞かされた時点で手遅れよ!」
言われてみればその通り、俺は先走ってとんでもない事をしでかしてしまった。
「けっけど、王都で大人しくしてれば無視すると思うぞ?」
奴とは短い付き合いだが、深い付き合いでもある。奴の興味は退屈な人間には向いて行かない。このまま嵐が過ぎ去るのをじっと待っていればちょっかいを出してこない予感がある。
まぁ俺を除いての話だろうが。
「そう言う訳には参りませんわ」
シャルメルは髪を掻き撫でつつそう言った。
「その魔女とやらが、国に害意をまき散らしているとなれば、それを誅するのがミクシロン家のお役目です。お爺様が動けない今、その役割は私にあると判断いたします」
彼女は挑戦的な目でそう言った。
「わっ私は……アデムさんの力になりたいです」
そして、アプリコットもまた、膝の上で拳を握りしめながらそう言った。
皆の決意はありがたく思うが、悔しい事に俺では魔女の脅威から皆を守り切れない。
いや、俺どころかあの人類最強の神父様だって魔女には手も足も出せずにやられてしまったのだ。人間では魔女に太刀打ちできないと言うのが現状だ。
「それは……重い話だな」
ジム先輩がそう呟く、この中で一番の神父様ファンの彼としては、神父様が敗北したと言う事実をことさら深く感じていた。
「あら、逆よジム」
「逆とは」
「彼のロバート神父が敵わなかった、それ即ち人類が崖っぷちの状況であると思いなさい。つまりは――」
「撤退は許されないと」
「そういうこと」とシャルメルは、挑発的な笑顔を浮かべる。肝の座ったいい女性だ。彼女の周りに取り巻きの壁が出来上がるのも納得できる。
「そうね、同じ召喚師の先輩であるアリアさんの意思を継ぐと言う意味でもね」
「学術関係は私に任せなない」とチェルシーが腕まくりをする。
「わわっ私も頑張ります!」とアプリコットも負けじと頬を膨らませる。
「へへっ、家探しなら俺に任せてくれよ」とスプーキーも歯をきらめかせる。
「しょうがないわね、付き合ってあげるわよ」とヘンリエッタがそっぽを向きながら答える。
こうして俺たちは再度ジョバ村へと歩を進めるのであった。




