真昼の決闘
「轟」とスカルドラゴンが架空の喉を振るわせる。それは生者への恨みに満ちた死の咆哮。
そして、そこから放たれるのは漆黒の魔弾。人間など優に包み込む程の大きさの、瘴気の塊だ。
「かわせサン助!」
高速で飛来する魔弾をかわす、かわす、かわす。
紙一重でかわしていては、その余波に巻き込まれる。必然的に大きく回避せざるを得ない。
「くっ、詰められねぇ」
矢襖の様に降り注ぐ魔弾が眼前を埋める。流れ弾を船に漏らすわけには行かないので、位置取りに気を遣う。
かと言って、距離を取り過ぎれば、奴は躊躇なく船を狙うだろう。にやけた顔がそう物語っている。
すすむは地獄、引けば見殺しの、絶望の二択だ。
ドラッゴはそんな俺を見てほくそ笑む。
「どうしたアデム! 顔色が悪いじゃねぇか!」
「うるせぇ馬鹿! 今すぐテメェをぶん殴ってやる!」
威勢よく啖呵を切るも、打開策は少しも思い浮かばない。
奴は唯その場に浮いて魔弾を放ち続けるだけ、俺はそれを必死にかわし続ける。
駄目だ、サン助じゃ、この魔弾の雨を突破するには力が足りない。
「がっ!」
魔弾がサン助の翼をかすり、俺の指先が黒く染まる。ジリジリとした傷みは火傷のそれに似ているが、体温が奪われた様な感覚は凍傷のそれにも近い。
ドンドンドンとそれを幸いと、奴は魔弾の密度を濃ゆくする。
これは本格的にヤバいかもしれない、俺がそう思ったその時だ。
「私たちは大丈夫です! この船は私が守ります!」
船首で、完全武装のコレットさんがそう叫んだ。
「信頼してるぜコレットさん!」
あの魔道鎧の防御力は要塞クラス。アースドラゴンの突進を受け止めたと言う逸話は伊達じゃない事は知っている。
加えて、種々の防御機構により、魔術耐性も極めて高い。一発二発の流れ弾ならば対処できるかもしれない。
問題は船の大きさに比べてあまりにも小さすぎると言う事だが。
「はっ! 女ぁ! そう大口を立てるなら、こいつを防いでみやがれ!」
特大の魔弾が船を襲った。
直径にして2m半はある魔弾が一直線に船へと向かう。
「コレットさん!」
「どっせぇぇえええええええええ!」
それに対して彼女はタワーシールドを捨て、両手に持ったウオーハンマーを大きく振り絞り、全力の一撃を持ってそれに答えた。
光と闇の衝突が船の舳先で行われる。
バチバチと激しい衝撃が白黒の火花を散らす。
「女ぁあああ!」
「はああああああああ!」
ゴウンと豪風。軋みを上げる船首の上で、コレットさんはウオーハンマーを振りぬいた。
魔弾は軌跡を背後にそらし、そして霧散していく。
「くはっ、くははははは。やるじゃねぇか女! 逃げ回ってばかりのアデムより性根が座ってやがるじゃねぇか!」
「どこ見てやがるドラッゴ!」
「何!」
俺はコレットさんが時間を稼いでくれている内に奴の頭上を取っていた。
「やれ! サン助全力だ!」
「雷など!?」
俺の背後には眩く光る太陽がある。それに加えて。
「キュオ!」
サン助が全力の稲妻を叩き込む。
「ちぃ!」
ドラッゴはそのあまりの眩しさに目を瞑る。その隙に俺たちは一気に急降下した。
「吠えろ! スカルドラゴン!」
奴は目を庇いながら、当たれば幸いと頭上に魔弾を連射する。
「はあああああああ!」
今度はコレットさんのターン。彼女は甲板にあった大樽を物理保護の魔術を掛けた上で、ウオーハンマーでもって打ち飛ばした。
ゴシャンと大きな音と衝撃をたて、その大樽はスカルドラゴンへと激突し粉砕する。とは言え、所詮は単なる樽、スカルドラゴンにダメージこそほとんどなかった。だが、その破片に襲われるドラッゴには話は別だ。
「クソが!」
目をつぶったままのドラッゴは、突然横方向から襲ってきた攻撃に体を固くする。
「サン助! 戻れ!」
俺は十分に加速が付いた頃合いを見計らって、サン助を帰還させる。
サン助の巨体なら直撃は免れない魔弾も、俺単独ならなんとでもなる。俺は魔弾の隙間を一直線に通り抜け。
「ああああああ!」
全力の蹴りを、スカルドラゴンの大きな眉間へと蹴り込んだ。
「がはッ!」
俺と同じく、類まれ無き同調力を持っているドラッゴはそのダメージをフィードバックさせ、大きく頭を後ろにそらす。
魔弾分布の都合から、ドラッゴへと直接攻撃は出来なかったが、何とか奴にダメージを与えつつ、スカルドラゴンへ張り付くことに成功した。
ドラッゴは額から血を流しつつ、俺を睨みつける。
俺は無茶の反動で足を痛めつつ、奴を睨みつける。
「アデムー!」
「ドラッゴー!」
右足一本使えなくなっても戦闘には支障ない。俺は左足の踏み込みに魔力爆破を利用して一気に奴との距離を詰める。
「来い! デュラハン!」
奴は俺との間にデュラハンを即時召喚するが。
「邪魔だテメェ!」
奴の剣筋はとうに見切っている。俺は飛び込みつつも体を丸めて剣をかわし、行きがけの駄賃とばかりに、黒馬の横腹に肘をお見舞いする。
「がっ!」
先ほどの、スカルドラゴンの分厚い頭部などよりも、遥かに柔らかいその部位に、深々と俺の肘はめり込んだ。
ドラッゴは体をくの字に折り曲げ、苦悶の叫びを漏らす。
「これで終わりだーーー!」
俺は、突進の勢いをそのままに大振りに振った拳を奴の顔面に叩き付けた。
「ちく……しょう……」
ドラッゴは、ガードする間もなくその一撃を受け、大きく吹っ飛んだ。そして、奴が気を失ったのをきっかけに、スカルドラゴンの姿が消える。
「へっ、どんなもん……」
そして、その事は俺の足元も消える事を意味していた。
「わっわわ、サン――」
太陽が中天にかかる昼下がり、ボシャンボシャンと二本の水柱がユーグ大河に立ち上ったのだった。




