真なる召喚術
「アーデームー! 待っていたぜこの時を!」
スティールシャークの包囲が完成した時、ドラッゴはそう雄たけびをあげる。
「はっ、性懲りも無くのこのこと現れやがって。何の用だドラッゴ!」
スティールシャークは凶悪な魔獣だ。奴の突進に掛かれば、船体に穴が開いてしまうかもしれない。
サン助を呼んで戦わせるか? しかし相手はこの船をぐるっと包囲している。片側をやっている間に逆サイドから狙われればどうする? サン助の雷で一気に全滅させることが出来るか?
俺が考えを巡らせていると、奴はニヤニヤ笑いながらこう言ってきた。
「安心しろよアデム、こいつ等は唯のギャラリーだ、お前が逃げ出さなきゃ手出しはさせねぇよ」
なんだと。5匹ものスティールシャークを召喚しといて、尚切り札があると言うのか。
奴と戦ってまだそれほど日が立っている訳じゃない。それなのにどれだけ腕が上がったと言うのだ。
そんな事、そんな事を出来る手段なんて一つしかない。
「テメェ……魔女と契約しやがったな!」
俺がそう叫ぶと、奴は返事代わりに裂けるように口を歪めた。
「ぎゃはははは! こいよアデム! ぶっ殺してやる!」
「はっ! 上等だこの外道!」
魔女は俺の召喚獣程度抑えてあるだろう、当然サン助の電撃対策も備えさせてある筈だ。
「来い! サン助!」
とは言え、俺には水棲魔獣の知り合いはいない。俺の友の中で最も機動力に優れるサン助に頼るよりほかは無い。
俺は召喚を重ねて同調力を高めたサン助を詠唱破棄して呼び出し、その背に跨った。
「コレットさん! 万が一の時は頼みます!」
「了解ですアデム君、執行機関の名に懸けて!」
とは言え、完全に陸戦型のコレットさんに水中船は荷が重い。ドラッゴの気が変わらないうちに何とか決着を付けなければならない。
「って訳だ! 痺れて消えろ! サンダーストーム!」
サン助の全力の稲妻がドラッゴに叩き込まれる。しかし……。
「はっ、来ると分かっている手が通じるかよ!」
案の定奴には何のダメージも与えられなかった。電撃に対する強度の耐性を有したアイテムを装備しているのだろう。
だが、こうなってしまえば千日手だ、空中と水中では戦いがかみ合わないと言う話ではない。
俺のそんな表情を読んだのだろうか、奴は腰からまがまがしい短剣を取り出してきて、眼前に構えた。
「くっくっく、安心しろよアーデームー。俺はお前を一方的に蹂躙してやると決めたんだ。血反吐吐かせて、サメの餌にしてやるよ!」
奴はそう言うと、自分が乗っていたスティールシャークにその短剣を突き刺した!
「ぎゃはははははは! 深淵臨む虚ろなる体! 天を睨みし飢えた瞳! その腕は何も捕えず! その翼は死を振りまく!」
奴がその短剣を突き刺したスティールシャークから漆黒の炎が4条の線となって噴き出す。
そしてそれは船を囲むように並ぶ他のスティールシャークまで達したと思いきや。
「なっ!?」
その炎は奴の召喚獣であるはずのスティールシャーク達を一瞬で飲み込んだ。
「てめぇ! 何を!」
俺がそう叫んだ時だ。
「清浄なる光よ! 我が祈りに答え、我ら信徒をお守り下さい! ホーリーウオール!」
船上のコレットさんがそう叫び、彼女を中心に光の壁が立ち上がり、船を覆う。
「はあああああああ!」
「くそっ! コレットさん頼んだ!」
スティールシャークを使っての邪悪な炎が彩る五芒星、俺たちの乗って来た船はその中心にあった。
俺の脳裏にあの時の夜会がフラッシュバックする。
「こんなもんが真なる召喚術だってのかよ!」
生贄を使った召喚術、そんなもんは認めない!決して!
俺は奴の詠唱を止めるために、一直線に突っ込む。
「叫べ! 叫べ! 雄たけびを上げろ! 貴様の飢えは満たされる事無く! 貴様の欲は果てること無き!」
「させるかよ!」
ところがだ、奴の眼前に差し迫った時に、何故かサン助の動きが止まる。
「どうした! サン助!?」
だが、サン助からは何の反応も帰って来ない、おかしい、おかしい! 何か邪魔者が!
ゾワリと背筋を悪寒が走る。
邪魔者? 何か邪魔者? 何寝ぼけたことをそんな奴しかいない。あのくそッたれの魔女野郎だ!
「汝の名はアンブレ! 永久に飢えし者よ! エサの時間だ!!」
「くそがッ!!」
焦る俺を尻目に、奴の詠唱が完了した。ゴポリと見る者に吐き気を催させるような漆黒の泥が水面に立ち上る。
ゴポリ、ゴポリ、それはドラッゴの前に進んでいき、その漆黒の泥の中から、白い何かが現れる。
「ひゃっはっはっはっは! どうだアデム! これが俺の新たなる力! これが俺のスカルドラゴンだ!」
泥の中から現れしは、骸となった邪竜。雪よりなお純白の骸骨竜、それは空虚なる殺意の塊、スカルドラゴンだった。
奴は皮膜の無い翼を大きく広げ、魂を振るわせるような咆哮を上げる。それは生者への恨みと憎しみに満ちた暗黒からの雄叫び。そして、その眼窩には赤々とした嫉妬の炎が燃えていた。
「くっ、コレットさん達は!?」
俺は夜会の悪夢を思い出しつつも背後を振り返る、だがそこには弱々しくもありながら、確かに清浄な光に包まれた船があった。
「コレットさん! 一生感謝する!」
生贄が足らずに無理矢理召喚したとしたら、そこに付け入るスキがあるかもしれない。俺はスティールシャークの骸からスカルドラゴンへと乗り換えたドラッゴを睨みつけ大声を張り上げる。
「行くぞサン助! 舞台の準備は整っちまった! お前の翼が! 奴の翼に負けない事を見せてやれ!」
「キュォオ!」とサン助は俺の声に答える、そして急加速。どうやら、魔女の戒めは解けたようだ。
勝機は一つ。召喚獣同士の戦いに勝ち目がない以上、直接召喚師をぶちのめすより他は無い。
不完全な召喚により、奴のスカルドラゴンは、末端にノイズを走らせている。持久戦を選択すれば勝てるかも知れない。だがその場合しびれを切らしたドラッゴがどんな行動に出るかは、火を見るよりも明らかだ。
コレットさんは召喚の余波を防ぐだけで疲労混倍、とてもじゃないがスカルドラゴンの一撃を防ぐことなんて出来ないだろう。
そうなってしまえば、船ごと大河の藻屑。つまり、俺が取る手は唯一つ。
「最速で、最短で、ぶっ潰す!」
ニヤニヤと余裕の表情を浮かべている奴目がけ、俺とサン助は一直線に飛びかかったのだった。




