プレゼント・フォー・ユー(後)
「はいこれプレゼント、色々と世話になってるお礼だよ」
「まぁありがとうございますわ、アデムさん」
「お開けしても宜しくて」とシャルメルは微笑んだ。
中身は薔薇の香水、一応予算の範囲内で一番いいものを選んだつもりだがどうだろうと、ドキドキしていると、彼女はそれを大事そうに両手で包み、抱きしめる様に胸に当てる。
「ありがとうございますわ、アデムさん。何かお返しをしなければなりませんね」
目を瞑り、思いにふけるシャルメル。
「いやいやいやいや、今までのお礼で手渡したんだ、そのお返しをされちまったらキリが無くなる」
こっちの懐具合も考えてくれ。
「まぁ、そう言う訳には参りませんわ。お返しをしないようではミクシロン家の名折れ、どうか覚悟をしてお待ちしてください」
彼女はそう言ってニコニコと笑うが、後が怖い。
後が怖いと言えばこの後の事だ、あの時とは比べてお互い手の内は分かっている。さてどうしたものやら。
従者へのプレゼントは主の後で、そう言う訳で俺たちは頭に疑問符を浮かべるシャルメルを引き連れて、シャルメル家の裏庭へと足を運んだ。
「いったいどうしたのです?」
「ああ、ちょっとジム先輩へのプレゼントをな」
「ええ、そう言う事です」
いつもはそこでジム先輩が鍛錬をしているのだろう、硬く踏みしめられ、芝生がはがれた一画があった。
「さて、それでは始めますか」
先輩は訓練用の木剣を手にして自然体で話しかける。
「こっちは何時でも大丈夫ですよ」
『常在戦場』は基本ルールの一つ、いつ何時でも体が動く様に準備はしてる。
「はぁ、全く殿方と言うのは困ったものですね」
ここに来て、何がプレゼントかを察したシャルメルがやれやれと肩をすくめる。
「それでは、私が見届け人となります、2人とも用意はよろしいですか?」
「御意に」「もちろん」
俺たちは3m程の間を開け相対する。ジム先輩は半身になって木剣を構え、俺はゆるりと力を抜き、自然体で構える。
互いに無手であったあの時とは異なり、ジム先輩の手には木剣が、俺の頭の上にはグミ助がいる。
「それでは、停止は私の判断で行わせていただきます。これはあくまで試し合い、その事を忘れずに」
「御意に」「オーケー」
お互い手の内が分かっている以上、危険域が何処までかは分かっている。さて、何処までやるか。
「それでは、始めッ!」
シャルメルが手を振り下ろす。
それと同時に、俺たちは間合いを詰める。
シュッと、風を切る音がして、先輩の突きが来る。
俺はその横っ腹を払おうとして――危ねぇ!寸前で手首を返し、刃を横に向けて来やがった!
シュンシュンと剣が踊る、変幻自裁に柔らかく振るわれるそれは、俺の払いを警戒してのもの、一撃の重さは無い、守りの攻めだ。
先ずは様子見、ウオーミングアップと言う所。変幻自裁の剣を体捌きで細かくかわす。
「行け! グミ助!」
俺はグミ助を先輩の顔面に召喚するが。先輩は俺が叫んだと同時に、体を落とし、足を狙ってくる。
グミ助はなにも無い所に召喚されてそのまま落下。くそ、案の定手が読まれている。
だが、俺も先輩の剣筋は散々見てきている、一旦後ろに大きく飛び、間合いを量る。勝負は振りだし。いや、ここからが本気の勝負だ。
「来い! シルバーベアー!」
俺はジム先輩の背後に熊の助を召喚する。
「挟み撃ちだ! 悪く思うなよ先輩!」
「くっ!」
詠唱破棄の高速召喚、風切虫退治では2体連続召喚と召喚術のアピールの為詠唱有での召喚だったが、こういう事なら話は別、クラス2程度なら無詠唱で召喚できる!
先輩はとっさに横に走り、挟み撃ちを避けようと立ち回るが、そうはさせない。
「俺のが早いぜ先輩!」
魔力爆破による高速移動にて、先輩の逃げ道を潰して行く。
「轟!」
熊の助が一吠えして注意をそらす。一瞬乱れたその隙間に俺は距離を詰め足を払う。
「しまっ!」
「そこまで!!」
「ふぅ、やられたなアデム」
「まぁ所詮は、木剣での模擬試合ですからね。本身を使っての真剣勝負だと話はまた別でしょう」
俺は、尻もちをついた先輩に手を伸ばしながらそう返した。
全力の真剣勝負なら、先輩は容赦なく召喚直後の熊の助を一刀両断しているだろう。そうなった場合俺はフィードバックで大ダメージを食らってしまい、動くこともままならなくなるはずだ。
高い同調能力のおかげで、無詠唱での召喚が出来る代わりに、召喚獣が負った傷をフィードバックしてしまう。中々良い所取りとはいかないのが難しい。
薄く微笑む先輩を見ると、得るものがあったと思われる模擬戦だったが、俺としても得るものが有る戦いだった。
等と考え事をしていると、シャルメルが拍手をしながら近づいて来た。
「素晴らしかったですわ、お2人とも」
彼女の合図で、ハウスメイドの人たちが俺たちにタオルを差し出してくれる。
「ジム、お疲れ様でした、いつも以上の剣の冴え見事でしたわ」
そう言って彼女は先輩とハグをかわす。うむ、流石は上流階級、実に手馴れている。
「アデムさんも、お見事でしたわ、ジムが一本取られたところなんて初めて見ました」
彼女はそう言って、悪戯っぽい笑顔を浮かべ、俺ともハグをかわす。薔薇の良い香りと至上の柔らかさに包まれる。たった一瞬の抱擁は、俺の脳内に深く刻まれた。
「とても良いものを見させて頂きましたわ。2人ともお疲れ様でした、お茶を入れてありますので感想戦とまいりましょう」
夏休み最後の日々はこうして過ぎていった、明日から始まる新学期に備え、俺は極上のお茶に舌鼓を打ち英気を養ったのであった。
偶にはなんて事のない日常を。
と言うわけで、夏休み最終日は過ぎ去り、3章終了です。




