アルデバル家の日常
「ごめんね、お嬢様たちをこんなボロ屋に招待しちゃって」
イルヤはそう言ってアルデバル家にシャルメル達を案内する。しかし、彼女が玄関のドアを開けようとした際、内側から1人の男が興奮した顔で現れた。
「おお! あんたがアデルの嫁に来てくれた人か!」
「え? ええ?」
その男はゴツゴツした両手で、シャルメルの手をありがたそうに握りしめた。
「あらあらうふふ。興奮しすぎですわお父さん」
続いて奥から現れて来た女性が、その男の耳をつまみ上げつつそう言った。
「痛! 痛たたたた! 痛いよ母さん」
「あらあらうふふ、まったく相変わらずあわてん坊で困ったものですわ。
初めまして、お嬢様方、私はサラ、アデムの母でございます。そしてこのあわてん坊さんがアデムの父のミラン。どうぞよろしくお願い致しますね」
「はっはぁ」
シャルメル達はあっけにとられてそう挨拶する。
「痛たたた。まったく何してくれるのよ、この馬鹿親父」
ドアの隙間から抜け出したイルヤが、ミランの尻に蹴りを入れつつそう言った。
「はぁ紹介するわ――」
そして、イルヤはため息まじりにシャルメル達を両親に紹介する。
「ほーう……ってミクシロン家のお嬢様だって!?」
「ええ、ですが今の私はこの通り、王立魔術学園の一生徒、アデムさんの友達でしかありませんわ」
シャルメルはそう言って学園のマントを優雅に翻す。
「はぁー、そんなたいそうな人がアデムの嫁に来てくれるって言うのか? けどそんな事が可能なのか?」
「いっいえ、ですから、その」
「そうですよお父さん、流石に身分が違い過ぎます。あちらのお嬢様方ではないのですか?」
「「いっ、いえ、私は、その」」
話を振られたアプリコットたちは、顔を赤らめながらパタパタと両手を振る。
「おお、母さん。どうやらまんざらでも無いようだぞ?」
「あらあらうふふ。おめでたい事ですねぇ」
「こらこらそこのおめでた夫婦。乙女の内心を勝手に詮索しないの」
「全くです、お兄ちゃんみたいにガサツな人には勿体ないのです」
浮かれ上がる両親に対して、イルヤたちは呆れながらそう返す。そして、そうこうしている間に、玄関のドアが開いた。体のあちこちに擦り傷を作ったアデムである。
「痛つつつ。全く今日は何時にもまして切れがありやがる。ホントにあの神父様から一本とれたのか疑問に思えて来たぜ」
「お兄ちゃん、お帰りなのです」
そのアデムに、真っ先に飛びついたのは妹のミントである。両親とイルヤはそれを優しく見守りつつ、お帰りと声を掛ける。
「それで、アデム? 誰が本命なんだ?」
「ん? 本命ってなんのことだ?」
「なーにを言ってる、お前嫁さんを紹介しに帰って来たんだろ?」
「……はぁ? なっ何を言ってるんだぜ。俺はサモナー・オブ・サモナーズになる男、女に現を抜かしている暇はないんだぜ」
「おい、口調がおかしくなってるぞ。やはり、この中にいると見た」
「本当なのですか! お兄ちゃん!」
にやけ顔のミランに、突っかかるミント、あらあらうふふと微笑むサラに、あきれ顔のイルヤ。人数過多のアルデバル家はがやがやと姦しい時間を迎えていた。
「はぁ、騒がしくて済まないな」
アデムは子供部屋に皆を連れて避難して来た。
「いえいえ、仲が良くていいことではありませんか」
「そっそうです、素敵なご家族で羨ましいです!」
皆の同情が痛い。と言うか微妙な空気が場を覆う。その中でジム先輩とカトレアさんの冷めた瞳が俺の心を刺激する。
「こっここがアデムさんが暮らした部屋なのですね」
その空気を無理矢理吹き飛ばすように、シャルメルが話題を変える。
「ああ、とは言っても姉貴と妹との3人部屋だけどな」
「えっ? アデムってお姉さんたちと一緒の部屋だったの?」
何を言うんだろう、見ての通りベットが3つあるではないか?
「それは……どうかと思いますが」
おお、アプリコットまでも! 姉弟一つの部屋で住むことがそんなにおかしい事なのだろうか?
狭い家なんだ、勘弁してくれ。
「けどわかったわ」
「ん? 何がだ?」
「アンタの女性に対する扱いよ」
チェルシーの一言に、シャルメルとアプリコットが同時に頷く。うう、俺はごく普通に生活をしていただけなんだが。
「ってそこ! 盗み聞きしてんじゃねぇよ!」
俺が一括するとドアの向うで慌てふためく音が響く。やはりこの家は駄目だ、無駄に騒がしすぎる。
仕方がない、帰って来たばかりだが、もう一つの目的地へと向かおう。
「慌ただしくて済まないが、教会に案内しよう」
俺はため息を吐きつつそう言った。
わいわいがやがや。
うーん。まるで凱旋したスーパーヒーローだ、あるいは街で人気の大道芸人か? 俺たちが行く先々に人だかりが出来る。流石は滅多に余所者が来ない辺境の村。
「遠路はるばる、お疲れ様でした皆さん」
と言う訳で、ギャラリーをぞろぞろと引き連れた俺たちを、神父様が歓迎してくれた。
「あー、取りあえず紹介するよ――」
俺は先程しそこなったシャルメル達の紹介をする。神父様はいつも通りニコニコと笑いながら、一人一人と握手を交わしていった。
そしてそれが終わった時、俺は長い間貯め続けた思いの丈をぶつける事にした。
「ところで神父様、さっきは口より先に手が出ちまって聞きそびれたんですが」
「なんです? アデム」
「なんで召喚師の現状について教えてくれなかったんですか!?」
その所為で、どれだけ苦労したことか!
「はっはっは、良いではありませんか。そんな事」
「そんな事って神父様!」
「世間一般の召喚師に対する風評がどうであろうと、この村では英雄であった。それでいいのではないのですか?
それにアデム、貴方は召喚師の評判が悪ければ、それを気にして、夢を諦めたのですか?」
「う……いや」
そんなことは無い、幼い俺が目にしたあの姿は瞼の裏に焼き付いている。例え世間がどう言おうと、俺はこの道を進み続けただろう。
俺が答えに窮していると、チェルシーがおずおずと手を上げる。
「あの神父様、質問があるのですが」
「おや、何ですかチェルシーさん」
「あの、アデムがいつも言っているその英雄の事なのですが、神父様はその正体をご存じありませんか」
「ふむ……質問に質問を返して悪いのですが、その事にエドワードは何と言っていましたか?」
「神父様は父をご存知なんですか!?」
「おや、聞いていませんか? 私と彼は若いころ一緒に冒険した仲ですよ」
これは意外な展開だ、あの何時も自信の無さそうにしているエドワード先生が、笑顔のバーサーカーとパーティを組んでたとは。
「……父は、若いころの話は何もしてくれなくて」
「彼らしい。あの旅は楽しい事も多かったですが、同時に暗く厳しい旅でもありました」
神父様は遠い目をしながらそう語る。
「……そうですね。彼が今回の旅を許したと言う事は、そういう事なのでしょう。
では、少し勿体付けさせてもらいましょう」
「えっ? どういうことですか神父様」
「この話を聞くには、それなりの資格が必要だと言う事です」
神父様はにこりと笑ってそう言ったのだった。
学園の制服はホグワーツの方にある学校とクリソツです、多分




