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サモナー・オブ・サモナーズ  作者: まさひろ
第2章 意気揚揚の夏休み(前編)
39/103

ドラッグ

「ハッハッハッハッ」「じぃーーーーー」

「いやもう、何から何まで申し訳ございませんでした」


 土下座からの土下座のコンボ。


 荒ぶる神を前にしたちっぽけな人間は、唯額を地面にこすりつけ嵐が過ぎるのをじっと待つ事しか許されていなかった。


「まったくアデムさんは、注意力が足りないと思います」

「全くね、腕は立つのにどうして大事な所で外すのかしら」

「いやもう、面目ない」


 痛い痛い、少女たちの視線が痛い。ついでにカトレアさんの視線が重い。


「はぁ、まあいいわ。今日の所はこの辺で勘弁してあげる」

「ほっ本当かヘンリエッタ」

「しょうがないわ、アデムはアデムだもの」


 ヘンリエッタは横を向きながらそう言ってくれる。


「ヘンリエッタさんがそう言うなら、私から言う事はもうありません」


 続いてアプリコットが困ったような笑顔を浮かべながらそう言った。


「ところで、2人は何時の間に仲良くなったんだ?」


 ツーカーの呼吸で俺を責めていた二人の姿に疑問を抱いた俺に、ヘンリエッタが事の顛末を話してくれた。





「そうか、ありがとうヘンリエッタ」


 俺は彼女の手を取り、勢いよく振る。


「べっべつに、私は、あいつらの事が気に食わなかっただけよ」


 振られる手を、俺に任せたまま、彼女はもごもごとそう呟いた。きっとマフラーの下は顔を赤くしているだろう。まったく相変わらず優しい子だ。


「ところであのゴロツキ連中は、なんであんなに元気なんだ? それにあんなにいっぱい生息してたっけ?」


 俺は素直な疑問を口にする。すると、ヘンリエッタが不穏な回答を返してきた。


「奴ら、最近ヤバイ薬を捌いてるって噂なのよ。藪をつついて火傷したくないから、私達みたいな弱者は見て見ぬふりをしてるけどね」

「薬?」

「そう、海向うのモノート連邦から流れてくるブツって言う噂だけど、詳しい事は知らないわ」


 ふむ、それは剣呑な話だ。俺の村の近くでなんてものを流行らせてやがる。どうしたものかと思っていると、その話は意外な所に着火した。


「許せません!」

「「あっアプリコット?」」


 俺と、ヘンリエッタが声の主の方へ眼をやると、そこには両手をぎゅっと胸元で握りしめたアプリコットの姿があった。


「植物科の末席に携わるものとして、違法薬物なんて断じて許せません!」

「ちょっと落ち着きなさいってアプリコット、これはあくまで噂。なんの確証も無い与太話なんだって」


 ヘンリエッタが慌てて、アプリコットを諌めようとするが、俺も覚悟が決まった。


「けど、火のない所に煙は立たぬって言葉もあるぜ」

「アデムまで、正気なの」

「ああ、以前にも言ったが、俺の故郷はここから3日の距離だ、ご近所さんの問題がいつ飛び火してくるかも分からねぇ」


 飛び火は言い過ぎかもしれないが、近郊で最大の町の景気が悪くなれば、俺のとこにも何らかの影響があるだろう、見過ごすわけにはいかない。

 時間が無いので少し探りを入れておいて、後は神父様にお任せすれば全部まとめて粉砕してくれるだろう。


「取りあえずそいつらのアジトを教えてくれないか?」

「……駄目だよ、ホントにヤバいんだって」


 ヘンリエッタは口を噤む。まぁ仕方がない、明日にはここを発ってしまう俺たちとは違い、彼女はここで暮らす住人だ、下手に波風を立て、明日からの生活に支障をきたしてしまうと恐れるもの分からんでもない。

 ヘンリエッタは、だ。


「どうなんだスプーキー」

「うぉ! 兄貴俺の事に気づいてたのかよ!」


 俺は物陰に隠れて、聞き耳を立てていたスプーキーにジト目を向ける。


「俺を嘗めるんじゃねぇよ、胡散臭い視線は見逃さねぇよ」


 物陰からは、スプーキーとチェルシーがすごすごと現れて来た。


「いやー、なんか出ていきがたい雰囲気だったから……それにしても無事でよかったアプリコット」


 チェルシーは、照れ隠しの笑みを浮かべながら、アプリコットを抱きしめる。俺は二人の事を、目を細め見守った後、スプーキーに向き直る。


「そんで、お前はどうなんだ、スプーキー?」


 スプーキーは暫しの沈黙の後、決意を込めた目で俺を見返してきた。


「頼むぜ兄貴、この町であんな奴らをのさばらせちゃ駄目だ」

「よく言ったぜ、スプーキー」


 俺は奴の肩をバンバンと叩き、ありったけの勇気を称賛する。


「まぁ俺に任せとけ、悪いようにはしないさ。それで、奴らのボスはどんな奴なんだ?」


 さっきは結局見つけることが出来なかった、中々賢く慎重なヤツと言う印象だ。しかし、俺がそう尋ねると、スプーキーは言い辛そうに口を噤む。

 そして、スプーキーの代わりに答えたのはヘンリエッタだった。


「ナイトメアよ、どっからからやって来た流れ者の極悪人」


 ボツリと反吐を吐く様に呟かれたそのセリフに、アプリコットたちの体は硬直する。

 ナイトメアはその偏見と悪意に満ちた環境から、大人になれる者は数少ない。しかし無事大人になるまで生き延びられたもの達には、その悪運をもって大悪党に成長する例が多々あった。


「その類の奴か」


 幼いころから悪意の中で育てられ、真っ当な人間に育てと言うのが無茶な事だと言うぐらい分かる。

けど、中にはヘンリエッタの様にナイトメアとして生を受けながら真っ当に暮らしていける例もあるんだ、生まれ持った正邪をなど無視してその本質と向き合わなくてはいけない。

 それが、どんなに無茶な事を言っているのか少しは分かるつもりだが、それでも俺はサモナー・オブ・サモナーズを目指す人間だ、これだけは曲げる訳にはいかない。


「アデム様、本当に行かれるおつもりですか」


 それまで黙って見守ってくれていたカトレアさんが口を挟む。


「大丈夫ですよ任せてください、奴らに見つかる様なへまはしないですし、俺は下調べに止めておいて、後は神父様にお任せするつもりです」


 カトレアさんは、暫し俺の目を見つめた後、「そうですか」と引き下がった。まぁアプリコットに危険が及ぶ可能性を少しでも減らしておきたいのだろう。それは理解できるが、これは俺の故郷の問題でもあるのだ。ここは引いてもらいたい。


 俺は一旦アプリコットたちを安全なホテルまで送り届けて、スプーキーと共に、奴らのアジトへと向かったのであった。

アプリコットに特定分野における熱血属性が追加されました。

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