転移門
ブーン、ブーンと低い駆動音を立てる巨大な設備の前に俺たちの姿はあった。
「この転移門には召喚術の技術も使われているのよ」
チェルシーは目を輝かせながらそう教えてくれる。なにやらこの設備の設計にはエドワード教授も関わっている様で、その喜びと誇らしさは一際だった。
門を主人と見立て、利用者を召喚獣として召喚するイメージなのだろうか。まぁ実際にはもっと複雑な事を行っているのだろうが、今の俺としちゃその程度だ。
「お嬢様、手続きは終わりました」
受付に行き、あれやこれやと雑務をやってくれたジム先輩が戻ってきてそう言った。まったくシャルメル様々だ。まさか在学中に実家に戻れるとは思っても居なかった。
「ありがとうな、シャルメル」
「おーっほっほっほ、よろしくてよアデムさん。それよりも道案内よろしくお願いしますわ」
うん、今日も彼女は絶好調、高笑いが良く響いている。
「おっ、お嬢様、本当に大丈夫なのでしょうか」
逆に落ち着かないのが、アプリコットの従者であるカトレアさんだ。ミクシロン家に借りを作るなんてとか何とかごねていたが、アプリコットが何とか押し切り今回の旅の許可を出してくれた。
大丈夫、シャルメルは金持ちの桁が違う。俺たちならば目ん玉が飛び出るような旅費も、おこずかいから楽々捻出できる程度のものだ。
「大丈夫よカトレア、チェルシーのお父様を信頼して。教授は頼りになる方だわ」
まぁ、何時も肩を丸めて小さくしているあの人の姿を見ていると、あまり信頼出来そうにないのも事実だが、そんな事を態々彼女に言って不安にさせても意味は無い。やる時はやる教授だと思いたい。
「そういや、シャルメルは使ったことあるのか?」
「いえ、残念ながら今回が初めてですわ。何時も移動は馬車ですの。ですからとても楽しみですわ」
まぁそうか、貴族の移動ともなれば大荷物を抱えての移動になる、転移門はそこまで便利な装置ではない、転移できるのは、人間とその手荷物程度のものだ。ずしりとバカでかい背嚢と手提げ鞄を両手に持ったジム先輩を見ながら、アレが最大限度かとそう思う。
「ところで、カトレアさんは今回はお見送りに来てくれたんですか?」
「いいえ、お嬢様を御一人で旅に行かせてはローゼンマイン家の名折れ。今回は無理行ってシャルメル様に私の席も用意して頂きました」
ようやく覚悟が決まったのか、彼女は鼻息荒くそう言った。大人の彼女が付いて来てくれるなら何かと心強い。俺やジム先輩の様な野郎連中ではフォローしきれない問題も彼女に任せられる。
「それでは準備が整いましたので、皆様おそろい下さい」
係の人の呼び声がホールに響く、今はまだ高価な事もあり、利用者も限られているが、そのうち技術が進めば安価な移動手段として普及していくのだろうか。そんな未来に召喚師として携われれば最高だが、理屈っぽいのはどうも苦手だ、そう言った事はチェルシーにお任せしよう。
俺たちはジム先輩を先頭に列に並ぶ。
「お嬢様、先ずは僕が先行して安全性を確かめてまいります」
「そうですわね。少し残念な思いもありますが、ここは貴方の忠義を尊重しましょう」
しかしあの山盛りの荷物を持ちながら体幹が崩れないとは、あのダンジョンでも思っていたがやはり中々に鍛えこんでいる。だが一体何が入っているのだろう、俺の家は舞踏会を開けるようなホールは備えていないのだが。
まぁ今回の旅のスケジュールは完全にシャルメル任せなので俺は言われた場所について行くだけだ。
転移門が本格作動に入ったのか、駆動音が大きくなりそれに伴い魔素の奔流が立ち上る。
「それでは、先行します」
ジム先輩がずしりずしりと重たい足音を響かせながら転移門を潜っていく。そして蒼く輝く魔法陣をすり抜けると、その姿は掻き消えて来た。
「どっ、どうなったのですか」
シャルメルが緊張した面持ちで係員に尋ねる。
「無事成功でございます、もし異変が生じた場合きちんと印が出る様になっております。しかし現在までこの装置は完璧にコントロールされており、異常は起きたことがありませんのでご安心ください」
にこりと、彼女は完璧な笑顔でそう言った。
「ええ、ここは聖王国の技術の粋を集めた場所ですもの、我が家も出資しておりますし、勿論信頼しておりますわ」
「それではお先に」と言い残し今度はシャルメルが門に消えた。
「それじゃあ俺たちも行くか」
まぁ初体験は誰でも怖いもの、俺はそれを押し殺し門へと進む。基本ルールの一つ『恐怖を楽しめ』だ
転移門を潜ると、体が蒼い光に包まれる。それは何処までも澄んだ水の中に落ちるかのよう小名、はたまた大空を泳ぐような、不思議なフワフワとした感覚に身をゆだねる。
グミ助は何時もこんな感覚を味わっているのだろうか。そんな益体も無い事を思いつつ、係員に言われた通りリラックスして身をゆだねる。
「おう、着いたのか?」
「ええそうですわ、アデムさん。ようこそ水の都ネッチアへ」
そこには先行したシャルメル達が俺を出迎えてくれた。
「ああ、もう着いたの」
「はわわわわ」
「…………」
その後3人無事転移に成功し、俺たちはジョバ村近郊の都市である、水の都ネッチアへとたどり着くことが出来た。
「シャルメルはここに来たことあるのか?」
俺は神父様との修行中に何度かここを訪れた事がある。『やはり上級クエストは都会でなきゃ中々巡り合えない』とか神父様は仰っていた。
「ええ、幼いころに一度。ここはトラッティア山脈を挟んだ王国の南端、その時は船でまいりましたわ」
船か、そう言うルートもあったのか。神父様に連れられ彼方此方歩き回った俺だが、その行動範囲は王国の南に限られていた。機会があれば乗ってみたいものではある。
「それで申し訳ないのですが、ここの議長に少し用件がございまして、少しお時間を頂きたいのですが」
「ああいいぜ、金を出してくれたのはシャルメルだ、俺は黙って従うよ」
封筒を取り出しながらそう言うシャルメルに俺たちは頷いた。しかし議長と言えばこの都市のトップだろうに、全く金持ちと言うのも色々と大変なものである。
少し時間が掛かるかもしれないと言う事で、その日は自由行動として、俺たちは町の散策に向かったのであった。
どーこーでーもードーアー!(何処でもではない)




