仄暗い洞窟の横から
閉鎖空間において、急激な燃焼が起こると、室内の気体の体積は一気に膨張しようとし、空間内の圧力は急激に高まる。そして圧力に耐え切れなくなった弱い部分から一気に高圧の気体が噴出する
つまりは爆発である。
「けほ、けほっ大丈夫かみんな」
「えっ、ええ、俺はなんとか、ありがとうございますリリアーノ先輩」
「わっ、私も無事ですわー」
「同じく」
やばかった、とっさにリリアーノ先輩が魔術障壁を張ってくれなかったら、勢い余ってお陀仏だったかもしれない。
「はは、ははは。これで勉強できたなシャルメル嬢、閉鎖空間での大規模魔術の行使は慎重にな」
おお、懐が広い。一歩間違えば大惨事間違いなしの出来事だったのに、笑って流すなんて。
「ははは、私も新人の時は色々とやらかしたもんだ、新人の面倒を見るのは先輩の特権だよ
にしても此処までの事はやらかした覚えはないけどな」
リリアーノ先輩はそう言ってシャルメルの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「もっ、申し訳ございません」
逆にシャルメルはしょんぼりと萎縮モード。まぁ無理はない、一歩間違えれば爆死か生き埋めかのどちらかの運命を辿るところだったのだ。
「にしても、天井が崩壊しなくて良かった……」
「ん? どうしたんですか?リリアーノ先輩」
先輩の視線の先に目を合わせてみると。
「なあアデム君。あんな隙間あったかね?」
そこには小さな隙間が口を開けていた。
「先輩……これは」
「いや、私もこんな穴はしらない……ははっ怪我の功名だな、新発見だ!」
リリアーノ先輩は、喜びを抑えきれないと言った風に、そう笑う。
だが、その喜びは疑問へと変わる。
「……変だな」
「えっ? 何がですか?」
「うーん、おいジム。お前は鉱石系の単位も取っていたよな、ちょっとここを見てくれないか」
「了解ですリリアーノ先輩」
2人は光量をあげて穴を入念に調べる。こうなってしまえば俺とシャルメルは役立たず。仕方ないので2人して周囲の警戒をしつつ待ちぼうけだ。
「しかし、凄かったなあの魔術は」
「もう、止めて下さいまし恥ずかしい」
シャルメルは顔を赤らめるが、あの威力は大したものだった。召喚術以外はさっぱりだが、一年であれだけの魔術を行使できるのは、並大抵のものじゃないのではなかろうか。なにしろ数十のゴブリンたちを纏めて跡形も無く消し去ったのだ。
「はっはっは、まぁ済んだ話だ。リリアーノ先輩の様に笑い話の教訓にしていけばいいさ」
「まったく、全く自分の短気っぷりが嫌に成りますわ」
「まぁ人間少しぐらい欠点があった方が、付き合いやすいってもんだ」
「はぁ、色々と言いたいことはございますが。今日は素直にその慰めを受け取っておきますわ」
シャルメルは、何か言いたげな目で、じっとこちらを見つめた後、静かに胸に手を当てた。その様子は何時もの高飛車な彼女とは違い、大輪の薔薇と言うよりも、野に咲く一輪の野草と言った感じで、そのギャップにドギマギしてしまう。
いかん、先輩たちが真面目に調査している間に、考える事じゃない。俺は気持ちを切り替え周囲を見渡す。
しかし丈夫な洞窟だ。話によると数千年ほど前に作られた古代遺跡らしいがよくもまぁあの爆発を耐えたものだ。
グミ助の警報が沈黙しているので崩壊の恐れはないだろうが、ちゃんとギルドに点検しておくように言った方が安全だろう。
それにしても壊れたのがあそこだけでよかった……あそこだけ?
俺がそう思った時だ。
「どうやら新発見と言う訳ではないらしい」
リリアーノ先輩は残念がりながらそう言った。
「最近塞がれたって事ですか」
「ほう、鋭いな。まぁ最近と言っても何十年単位らしいが、詳しい事は私達では分からなかった」
既に枯れた洞窟だから、崩壊したところを掘り返さずに、放置しておいたと言う事か。
「まっ、ダンジョン探索なんてこんなものだ」
やれやれとリリアーノ先輩は肩をすくめる。
「一応その奥も見てみますか? グミ助に先行させれば安全に探索できますよ」
「そうだな、折角シャルメル嬢の大手柄なんだ。全くの新発見と言う事ならば、安全を期して、一度報告に戻るつもりだったが。近年埋もれたと言う事ならば、危険なトラップ等も無いだろう。行ってもらえるかな?」
「了解です。グミ助頼んだ」
むぎゅるむぎゅると、グミ助は横穴を進んでいく。俺は地面に座り込み同調を最大にしてグミ助の五感を借りる。
そして暗闇の中を進むこと暫く、穴を抜けた先には小部屋があった。
「小部屋ですね、敵勢反応は無し、他にはえーっと」
危険はない、グミ助はそう言っている。しかし何か気にかかる。
むぎゅるむぎゅると、前に進む。小部屋は小部屋だが、グミ助の足だと調べるのに時間が掛かる。
そして、俺は物陰にあるものを見つけた。
「死体です、白骨死体があります!」
それは、部屋の隅。物陰に隠れる様に倒れていた。死体は1体、先輩たちの見立て通りなら数十年の月日をたった一人この暗闇で過ごした事になる。
「そうか、ソロで探索に訪れて、崩壊に巻き込まれてしまったのかもな」
「何か手に持っています、身元が分かるかもしれません」
「そうか! 今更の話だが、きちんと弔ってやれるかもな」
「ええ、そうで――」
ゾワリと背筋に悪寒が走る。
「戻れ! グミ助!」
グミ助の警報を感じ、素早く召喚する。この何処までも冷たく空虚な悪意には覚えはある。
生者を恨み、呼吸する様に命を狩る、命無き生命。
「スケルトンです!」
俺の声と同時に、数十年ぶりに外界とつながったその穴より、漆黒の波動がほとばしったのであった。
シャルメル嬢のツンデレ期間はもっと長くなる予定だったんですが、不思議ですね。




