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サモナー・オブ・サモナーズ  作者: まさひろ
第1章 疾風怒涛の新学期
15/103

勝利の弁当

「なっ何をするんですか貴方は!」

「何をするはテメェだこの馬鹿! 俺の召喚獣に手を出すんじゃねぇよ!」

「召喚獣ですって? このような化け物を人間が制御できる筈が――」


 残りかすの力を振り絞ったアデムを振りほどき、逃走するサンダーバードに向き直ったジムが目にしたのは。


「筈が……」


 静かに毛繕いをするサンダーバードだった。


「ジッ、ジム。これは一体どういうことですの」


 まるで鳥かごで飼われる文鳥の様に大人しくなったサンダーバードに対し、シャルメルが恐る恐るジムに尋ねる。


「お嬢様、まだ危険です」


 ジムは剣を構え、シャルメルを守る様に立ちふさがる。

 ジムにとってシャルメルよりも大切なものは何もない、彼女を守るためにあらゆる不確定要素を排除することこそが彼の行動指針だった。


「はっバーカ、危険もくそもあるか、こいつはたった今俺の相棒になったんだ」


 それを笑うのは、地に付したアデムである。彼は右手を大きく天に掲げると勝利の余韻に浸りながら……気を失った。





「やったぞこらおらーこんちくしょー!」


 知らない天井……いや毎朝見てる天井だ。あれっ? 俺は森にいた筈じゃ……。


「この馬鹿! あんた何やってんの!」「大丈夫ですかアデムさん!」


 うぎゃ! 耳元でステレオで何か叫ばれた俺は反射的に耳をふさ――


「いでででででで!」


 全身これ筋肉痛。体中がバキバキのべきべきになっていて、動かすと痛みでびりびりと来る。


「つぅーあー、そうかあんなに長い事電撃を浴び続けたことは無かったからな」

「はぁい、おはようアデム君。いい夢見れたかな~」


 俺が1人サンダーバードとの激闘の余韻に浸っていると、物凄く良い笑顔をしたシエルさんが視界に入って来た。


「……おはようございます、シエルさん」

「はいはーい。君、お姉さんとの約束はちゃんと覚えて出かけてった?」

「……危なくない、範囲で、行動するって」

「はーい、よくできましたー、じゃあなんでー、君の可愛い可愛い同級生たちが泣きながら私を頼って来ちゃったのかーなー?」

「……いやまぁ、結果的に命があるから大丈夫の、範囲、じゃ、ない、か……と……」


 シエルさんに、言い訳をしている最中。俺を泣きそうな顔で睨みつけるチェルシーとアプリコットの顔が目に入り、段々と語尾が沈ん出来てしまう。


「ん~~~~???」


 とニマニマ顔でこちらの顔を覗き込んでくるシエルさんに、俺はついに降参した。


「済みません、ちょっと無理しました。チェスターとアプリコットもごめんな」

「はいよくできました。正直者のアデム君にはそのお礼として私直々に回復魔術を掛けてあげましょう♪」

「回復……やっやめてくれ! こんなものちょっと寝てればすぐ治る! それだけは、それだけは!」

「まーまーまーまー」


 シエルさんは碌に動きのとれない俺を素早くうつ伏せにさせた後、俺の背中に乗っかり、両手をそこに当てる。


 シエルさんの呪文詠唱が続いていくと同時に、その掌から熱が全身に広がってゆき――


「痛だだだだだだだああだあああ!!」


 激痛が俺の全身を襲った。

 回復魔術は、一声かければ瞬時に傷が癒える様な万能魔法ではない。体の治癒力を外部から強制的に引き上げるため、激痛、発熱、体力消耗、その他もろもろの副作用がわんさか飛び出てくる荒治療だ。


「あっははー、アプリコットちゃんは、植物科だったわよねー。いつか貴方も同じことをする時が来るかもしれないから、よーく見ておくのよー。後適当に要所要所で水でもぶっ掛けてアデム君の体温を下げといてねー。重大な後遺症が残っちゃうかもしれないから」

「はっはい!」

「あでででで、アプリコットをあでででで、脅さんででででで、くだだだだださい」


 そして悪魔の様な治癒魔法は、小一時間俺に地獄の苦しみを味わせた。





「本当に申し訳ございませんでした」


 全力の土下座。シエルさんのありがたい回復魔術によって傷が癒えた(体力精神力激減した)俺は。もろ手を挙げて降参した。


「まったく、心配させるんじゃないわよ」

「ホントに、なにも無くて良かったです」


 初めて回復魔術を試行している所を見たのだろう、チェルシーは若干引き気味に。シエルさんの手伝いをしたアプリコットは、疲労困憊の様子で俺の謝罪を受け取ってくれた。


「そっそれで! 肝心かなめのサンダーバードは何処にいる!」


 一息ついた俺は、肝心な事を思い出した、サンダーバードだ、激闘の末に俺の相棒とした奴はどこに行った!


「は? シャルメルさんの話によれば逃げていったそうよ」

「……え?」

「だから、貴方が気を失って、シャルメルさん達が混乱したちょっとの隙に逃げていったって」

「俺の、召喚獣が?」

「いやいや、きちんとした契約の手順も結べてないのに召喚獣もなにも無いわよ」

「じゃあ、俺のやった事は?」

「無駄足ってことね、まぁジム先輩がサンダーバードの目撃証言をギルドにしたみたいだからしばらく先はあの森は騒がしくなるかもしれないけど」

「やっやめてくれ! サン助はサン助は俺の大事な相棒なんだ!」


 俺は必至の思いでチェルシーに縋り付いた。


「ちょ! やっやめなさいよこのスケベ! そんなの私に言われてもどうしようも無いじゃない! ってかアンタネーミングセンス無さすぎ!」


 回復魔術直後で赤子の様な体力の俺はいとも簡単にチェルシーから引き離され、床にダイブする。


「そっ、そんな事はありません!」


 心身ともに憔悴しきった俺に優しい声を掛けてくれたのは、アプリコットだった。


「シャルメルさんは今回の狩りはアデム君の勝ちだと言ってくれました。そしてジスレアさんの事も取り持ってくれるそうです」

「ジスレアの事もって、どういうことだ?」

「それは、私から説明させていただきます」


 すっ、と今まで壁の華の様に風景の一部となっていたカトレアさんが一歩前に出た。


「アデム様、今回はお嬢様の為にご尽力いただき、誠にありがとうございました」


 カトレアさんはそう言うと、感謝の言葉と共に、完璧な一礼をする。


「お嬢様が入寮なさってから私の目の届かない所へ行かれてしまったとは言え、この様な事態を放置してしまったとは、このカトレアの不徳の致すところ。皆様方には何度お礼を申し上げても足りません。

 ジスレア様のご実家のヒューダンバー家とは昔から何かとトラブルの絶えない場所で、それが今回の引き金となってしまったのでしょう。

 しかし今回のアデム様のご尽力でシャルメル様に貸を作ることが出来、それを機に私が交渉を致しました」

「……はぁ」


 セリフが長いので今一疲れ切った頭には入って来なかったが、要はカトレアさんが言いくるめたって事か。

 しかし、と言う事は。


「アプリコット、お前心配かけたくないからって内緒にしてたの話しちゃったって事か」

「はい、申し訳ございません」


 アプリコットはしょんぼりと肩を落とし、カトレアさんを眺めながら消え去る様な声で

そう言った。


「いや、俺はどうでもいいんだよ。けどそうか、まぁそうするのが一番よかったのかもな」

「その通りでございますアデム様、幾ら由緒正しき学生寮とは言え今回のようなことがあった以上――」

「やめてカトレア、私は大丈夫、大丈夫だから」

「お嬢様……」


 アプリコットがカトレアの袖を掴みそう懇願する。まぁ確かに家を借りて生活をしている学生も中にはいる。しかし、しかしだ。


「大丈夫ですよカトレアさん。今後同じような事があった場合、アプリコットは第一にカトレアさんに相談すると思いますし、俺たちだって今回と同じ様に力を貸します。

 アプリコットは独りぼっちの籠の鳥じゃない、だから大丈夫です」

「……アデム様」


 そう、いじめが良い事だなんて口が裂けても言えないが、それは何処でだって同じこと、寮から出たとしても、学校生活は続くし。社会に出てもいじめはあるだろう。特に彼女の様に領主の娘と言うのなら尚更だ。

 ここでまた籠の中に戻しても、それは彼女の為にならない。彼女にはそれを乗り越える力あるし、俺たちだって力になる。ならばここは彼女を信じて、力をはぐくむ手助けをしてやる方が正解だと俺は思う。





 カトレアさんは俺達の意を汲んで、今日の所は引き下がってくれた。これで万事一件落着目出度し目出度しで今回の話は幕を閉じたのだ。


 そして次の日の昼休み。


「アデムさん! 私アデムさんのお弁当を用意してきました!」


 俺は、とびっきりにニコニコと上機嫌なアプリコットに肉が山盛りに詰まれた弁当をご馳走になったのだった。

ジムは生真面目系イケメン枠。

きっと泣き黒子とかある。

自害はしない。

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