サモナー・オブ・サモナーズ
「何なんですの! 奴の魔力は底無しですの!?」
今まで何体の未確認魔獣を倒しただろう。しかもそれぞれがとびっきりの強敵だった。
「お嬢様! 危ない!」
シャルメルの背後から迫る、犬型の魔獣の攻撃にジムは強引に割り込み肩を負傷する。
「ぐっ」
「気を抜くな嬢ちゃん!」
一閃。アンジェロは魔獣の触手めいた舌を切り裂き。返す刀でその頭部を真っ二つにする。
「助かりましたわ」
倒れた兵は数知れず、残った兵も満身創痍。もう少しすれば戦線は崩壊し、教会から街へと異形の怪物たちがあふれ出す。誰もが、そんな悪夢を夢想した。
「アデムはまだですの!?」
シャルメルとて無理を言っているのは承知の内だ、でも無理の一つや二つ潜り抜けないと、この局面はどうにもならない。
皆絶望の内に沈んでいくより他は無い。
先ほどから、無尽蔵と言える魔獣を召喚しているものの、魔女自体は沈黙している。アデムもまた同じく、座り込んで無言のまま。
何かをやっているのは確かだが、その何かは分からず、終わりの見えない戦いを延々と続けている。
「くっ!」
シャルメルは魔力切れにより、眩暈を起こしかける。もう無理だ、とあきらめかけた時だった。
「へ?」
突然、魔獣の姿は掻き消えて、教会内に静寂が訪れた。
「これは、一体」
意識をもうろうとさせつつ、地面にへたり込んだシャルメルはそう呟く。
「終わった……のでしょうか……」
当の昔に剣は折れ、傷だらけになりつつも、その身を盾にしていたジムは、肩を抑えつつ、そう呟く。
「もう、限界ですー」
皆の盾として、最前線で魔獣の攻撃を引きつけていた鉄塊が自慢の鎧を半ばスクラップにしつつ、大地に倒れる。
「私も、少し老いましたね」
たった一人で、規格外の魔獣と戦っていたロバート神父は、さっきまでいた触手の塊の方を見つつそう呟く。
「どういう事だ、終わったのか?」
執行機関の隊長として、鬼人の如き戦いぶりを発揮していたアンジェロは、安堵の息を漏らしていいのか困惑しつつ、残心を取る。
「……終わった、ようですね」
戦闘力を持たない身でありながら、魔女対策の責任者として戦いの全てを観察していたカレンは、アデムの息を確認しつつ、そう呟いた。
「ん……」
「おや、お目覚めですかアデム君」
「あっ! シエルさんぶじだったたたたたたたた!?」
俺は全身を襲う痛みに、悶絶する。
「はぁ、そう来ますか、これは興味深い」
「いや、感心してないで、タスケテ」
「そうは言ってもですねー。カレンの見立てだと、アデム君は精神世界で何か大乱闘してきたのでしょう?
魂レベルで、大けがを負っているので通常の回復魔術や鎮痛剤では効果が無いとのことですよ」
酷い、いや、酷くない、これも自業自得と言う事か?
「ともあれ、アデム君のおかげで助かりました、ありがとうございますね」
そう言ってシエルさんは頭を下げる。よく見ると彼女は多少やつれており、まだまだ本調子とは程遠い状態のようだ。
「魔女は……どうなったんですか?」
止めは確かに刺した、手ごたえもばっちりだった。ただ掛け値なしの全魔力を叩き込んだ俺は気絶してしまい、後の事は何も分からない。
「魔女は消えました。とは言え、私も意識を失っていたので、人聞きの話ですけどね」
シエルさんはそう言って、困ったようにはにかんだ。そう言えばそうだ、シエルさんは魔女空間から瀕死の状況で助け出され、魔女との戦いには参加してないんだった。
「なんなら、カレンから説明させましょうか?」
「そうですね、っと言うか、ここは何処なんです? 俺はどれくらい寝てたんですか?」
「ここはアデルバイムの教会で、貴方が寝ていたのは1週間ですよ」
さらりとシエルさんはトンでもない事を言う。
「一週間!?」
「ええ、その間のアデム君のお世話は、交代で行いました。ああ安心してください、ご学友の方達には、下の世話までは任せていませんよ」
勘弁してくれ、そんな事をされていたら、これからどんな顔をしてあいつらと会えばいいのか分からなくなる。
いや、ちょっとまて……。
「方達にはって……」
誰が……してくれたんだろう
「私とカレン、そしてロバート神父です。まぁ聖職者なので慣れたものです」
なんてこった。俺はニヤニヤと笑うシエルさんを見て絶望する。
「まぁ冗談は兎も角、改めてお礼を言います。アデム君、世界を魔女の手から救ってくれてありがとうございました」
「いや、皆の助けが合っての事ですよ」
そう、ここまで来れたのは俺一人の力ではない。皆の助けと絆が合っての事だ。それは最終決戦の事だけではない。
俺が召喚師になる為に見守ってくれた村。出来の悪い俺を見捨てずにフォローしてくれた学園。大切な仲間、そして召喚獣たち。全ての絆を束ねた勝利だ。
「シエルさん。交代の時間ですわ……ってアデム! 目が覚めたのですね!」
「おう、シャルメル、無事で何よりだ」
交代として入って来たシャルメルは、俺を見て大声を上げる。その声に導かれ、仲間たちがぞろぞろと集まってくる。
俺は、皆の顔を見て、ようやく魔女との戦いが終わった事を実感した。
王国歴382年、表の歴史書にはアルデバル内乱と記された戦いの裏で行われた、魔女との決戦はこうして幕を閉じた。
内乱は、国王の引退と共に、急速に幕を閉じた。
町では、新国王による事実上のクーデターとの噂が流れたが、それは魔女の存在を隠すために意図的に流されたものだと、一般の市民は知る由も無い。
「アデム君! マルギー先生が大激怒してましたよ! なんだあのテスト結果はって!」
「勘弁してくださいカッシェ先生」
「あんたねぇ、このままだと土下座のアデムって渾名が付くわよ?」
「気にしてるんだから黙ってて、チェルシー!」
また、その解決の為の最大の立役者が、まだ十代の少年召喚師など、想像も及ばない事だった。
この後、アデムは、多くの試練に当たり、多くの仲間と共にそれを乗り越えてゆく。
そして、若くしてサモナー・オブ・サモナーズの二つ名で称えられるようになるのだが、
それはまた、別の話である。
サモナー・オブ・サモナーズ 完
続きました
サモナー・オブ・サモナーズ2
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と言うわけで第1部、完結でございます。
100話越えの長編作品に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
個人的な目標の100話越え、と毎日更新の両方を達成できました。めでたい!
これもひとえに、読者の皆様と、長時間座席を占領したコメダ珈琲のおかげでございます。
皆さんも是非お近くのコメダ珈琲でごゆるりとお楽しみください。
それでは、次回作でまたお会いしましょう。