五話:神父
ピンチになったら颯爽とお助けユニットが助けてくれる。
うん。 ありがちなRPGのチュートリアルイベントだな。
きっと、チュートリアルが終わればログアウトできるだろう。
「ここは迷宮都市フォッジ。 多くの冒険者が集う都市だ」
そう思ったのだけど、フォッジという名の都市に辿り着いても一向に終わる気配はない。
二人の後について先へと進む。
「すべての渡り人は一度、聖光教会に保護してもらうことになっている。 ステータス鑑定をおこない問題なければ、この世界で自由に生きる権利を得られるぞ」
城門を抜けると、周囲の視線がこちらに向いているのが分かった。 俺にというより、この二人に向いているようだ。
「問題があったら?」
「はははっ! それはもちろん」
「ルーク」
ルークと呼ばれている男は、思いっきり美女に耳を抓られている。 そのまま引きずられように連行されていく。 美女が遮った言葉は気になるが、どのみちついていくしかないのだ。
俺は諦めて美女の尻の後を追いかけた。
城門を抜け雑踏を進んでいく。
行きかう人々はまさにファンタジー。
獣耳を生やした人や全身毛むくじゃらの獣人、丸太のようなずんぐりとした体躯のドワーフに、二メートル半以上ありそうなデカイやつ。 多種多様な人種が往来を闊歩している。
前を行く二人と同じく、NPCなのだろうか?
「着いたぞ」
『聖光教会』
猥雑としていた街の中に、荘厳な建物が現れる。 白を基調とした美しいシンメトリー。 ここだけ時が止まったようで、教会の中からは美しい音色が聞こえる気がした。 幻聴だ。 実際はきこえない、それくらい見事な建物だということ。
俺は石階段を上り二人の後について中へと入った。
「おぉ……」
中は予想以上に広かった。 長方形の建物なのか奥行きがあり天井も高い。 左右の壁には旗がいくつも垂れている。
「さぁ、はやく鑑定してもらいましょう」
俺が辺りをキョロキョロと窺っていると、二人は先に進んでいく。 特にアーリャは早く済ませたいようだ。
祭壇にいる人物がこちらに気づくと同時、ルークが手を上に声を掛けた。
「神父様。 無事に渡り人を保護しました」
「ご苦労様です。 ルーク殿」
司祭様、か。
ヨボヨボのおじいさんではなく、ずいぶんと若い青年だ。 服はイメージ通りの司祭服であるが。 今どきのゲームにありがちな、爽やかイケメンNPCである。
「私は聖光教会司祭アレドロと申します。 渡り人殿のお名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
彼の態度は高圧的ではないのにそう感じてしまうのは、俺がイケメンに卑屈になっているからだろう。
祭壇の横に置かれている真実を映し出しそうな姿見には、いつもの疲れ切った顔をした男が映っている。 顔は普通、しかし額の後退は……。 ストレスにより酒を飲まないと眠れない影響で、体もプチメタボだし。
どうせゲームならイケメンプレイがしたかった。
「トーヤ……です」
彼の神父帽の下は円形に剃ってあるのだろうか? などと考えつつ、俺はゲーム用のニックネームを神父に答えた。