四話:そそる
死ぬ。
「くそっ!!」
突進してくるウリボウを前に、そう直感した俺は決死の覚悟で迎え撃つ。
眉間だ。 奴のプリティフェイスのど真ん中に拳を叩き込んでやる! 風の壁に阻まれないよう、全力で。 俺は歯を食いしばり地面を力の限り踏み切った。
「なっ!?」
彼我の距離が詰まり、激突、といったところで俺は急停止を余儀なくされた。 燃えたのだ、ウリボウは。
「ふぎぃぃいッ!?」
断末魔の叫び声を上げてウリボウは炎に包まれる。
俺がその光景を呆然と見ていると、声が聞こえた。
「おーい! 大丈夫かぁ〜〜?」
人の声だ。
声の方を向くと焦げた草の道の先に人が立っていた。
二人組の男女。
こっちに近づいてくる。 しかし、男の方はかなり重装備で剣を持っているんだが? 助けてくれたであろう人物にたいして、俺は本能的に身構えていた。
「あぁ、警戒しなくていい。 そんな装備で魔物の領域にいるなんて、君は『渡り人』だろう? 混乱していると思うが、俺たちは君を保護する」
『渡り人』? プレイヤーのことだろうか。
重装備の厳つい偉丈夫。 保護してくれると言っているけど、低い声で威圧感が凄い。 彼に見つめられると胃のあたりがキュッとするぜ。
「ルーク、怖がってるわよ?」
落ち着いた声。
厳つい男の隣で、美女は一つ溜息を吐いた。
愁いを帯びたその表情は思わず見とれてしまうほど。
肩口辺りまでの艶やかな薄紅色をした髪。 切れ長の瞳は碧く、髪留めの宝石よりも美しい。
体の線に沿ったロングコートから覗く御御足は是非踏まれたい。
「……アナタ、とりあえずついてきなさい」
脚をガンミしてたら、刺し殺せるほどの視線で美女は俺を見下していた。 ……そそる。
「……はい」
いいよなぁ。
こんな美女を連れて一度でいいからデートしたい。
もちろん夜のダンスタイムも含めて。
「アーリャの方が怖がらせているぞ?」
「……」
他愛もない会話をしているようだが、仲の良さが伝わってくる。
イチャイチャしやがって……!
先導する二人の後を俺は拳を握り締めながら追いかける。
そして丘を越えた先。
城壁が見えてきた。
「なんだ……アレ?」
高層ビルを見慣れた現代日本人である俺ですら、おもわず息を呑むほどの建物は城壁の中から天を突くように建っていた。
「あれは『アグラーのオベリスク』、そう呼ばれるAランクダンジョンだ。 何百年もの間、数多くのギルドが攻略を目指しているが、未だにダンジョンボスまで到達できていない」
ダンジョンにギルドとは。
まさにゲームの王道。
やはりこれはVRMMOの世界のようだ。