三話:ここは?
匂い。
緩やかな風は頬を撫で青草の香りは鼻孔を擽った。
「……」
俺は立っている。 大草原にたったひとりで、ポツリと。
「うむ?」
ここはゲームの世界?
さっきまで自分の部屋にいた。 そしてVRMMOにログインしたはずなのだ。 つまりここはゲームの中ってことになるのだが……。
「どうしよ……」
圧倒的なリアリティ。
視界は実写としか思えない鮮明さで、五感は完全に機能している。 リアルとまったく差異がない。
なんだか凄く、恐怖心が湧いてきた。
「ほんとうに……コレはゲームなのか……?」
ゲームでなければなんなのだ。
壮大なドッキリだろうか?
もしくはVR機器の不具合で死亡して、ここは天国とか。
地獄かもしれんけど。
とりあえず、俺は歩き出した。
そして気づく。 恰好が変わっている。 着心地の良かった部屋着はゴワゴワした布の服に、素足だったはずがゴツゴツした歩きづらい皮の靴に。
いわゆるRPGの初期装備だ。
「んっ?」
移動していると、視界の右上に十字マークが点滅する。
マークに指を合わせスワイプさせると、地図が出てきた。 ゲームのオーソドックスな索敵用のミニ地図だ。 自分の周囲を表示しているらしい。
「……やっぱゲームか」
俺は安堵した。
会社を辞めて現実逃避に読み続けたWEB小説の影響で、異世界転移してしまったんじゃないかと、ドキドキしていたのだ。
思考は巡る途中で遮られる。
地図に現れた光点。
真っ赤な丸がこちらに向かってきている。
「うっ!?」
奇襲と呼ぶには猪突猛進。
草を掻き分け突っ込んできたのは、ウリボウだった。
「ラブリー!」
「ふぎゅぅッ!!」
あまりの見た目の可愛さに、緊張は一気に解けた。
シマ模様の毛を逆立たせ、クリックリの瞳で睨みつけてくるウリボウ。 ここはウリボウゲットだろう? ペットにするしかあるまい。 ペットシステムがあるか不明だが。
「ぐぇ!?」
「ふぎゅう!!」
突進してくるウリボウを捕まえようと思ったら、見えない壁のような、暴風に吹き飛ばされる。
小型犬程度の体躯の割にパワフルである。
俺は草原の大地を滑るように転がった。 受け止めようとした両手は痺れ、体全体が痛い。
(痛覚……設定、高すぎだろ……?)
転がる勢いが弱まるとすぐに起き上がった。
服はボロボロ。 手足は擦り傷だらけ。 両腕は痺れているし体はズキズキと痛む。 あれ、なにこれ……?
「ふぎぃ!!」
ウリボウの突進。
俺のフィーリングが、――『直感』がヤバいと告げる。
後一撃喰らったら、死ぬッ!?