十四話:混沌
「グラン・ルルナ・シャルルカ、12歳」
魔法でも放てそうな名前が獣人の子供の名前だ。
食事を終えてどうしたものかと、宿へと向かう途中で聞いてみた。
「グランて呼べばいいのか?」
「ううん。 グランは父ちゃんが、ルルでいい」
「そうか」
ルルはルルナからなのか、シャルルカから取ったものなのか?
まぁいいや。
とりあえず、一旦保護。 情報を集めてから神父のところにつれていくか決める。
あの神父はどうにも胡散臭い。
イケメンだからというわけでなく、NPCだと思っていたから気にしていなかったが、ほんとう、作り物のような表情だった気がする。
俺はぼうっとしながら、泊っている宿についた。
「にーちゃん。 ありがと、ご飯の恩は必ず返すますです」
ぺこりと頭を下げたルル。
フードは落ち獣耳が露になるが、飯を食っていた時のようには元気がない。 それでも頭を上げると、ニカっと子供らしく笑ってみせた。 そしてフードを被り村の中へと消えて行こうとする。
「……」
いやいや、違うだろう? 子供は子供らしく、大人に甘えろよ。
「飯代はしっかりと働いて返せ」
「ひにゃ!?」
俺は軽い獣人の子供を、猫の首を掴むようにつまみ宿へと連れていく。
「あわわ! 体で返せなんて、にーちゃん鬼畜外道っちゃーー!?」
おいぃ!! 宿に入ったタイミングでなんてことを……。
宿のおばちゃんが、どえらい形相で睨みつけてくるけどぉおおおおおお!?
「お客さん。 犯罪は困るよ?」
「ち、違ッ」
周りの視線に耐えきれず、俺は追加分の代金を叩きつけ部屋に逃げ込んだ。 くそったれ! 俺はナイスバディのドS系お姉様が好きなのに、断じて、ロリコンやショタなどではないというのに。
「とうちゃんの言う通りなの、人族は優しくして油断させてから襲ってくるって……。 ルルはもう終わりなのぉ……」
ずいぶんと喋るようになったな。
「いっぱいゴハン食べさせてもらえたの、命の恩人なの。 ルルは、ルルはにーちゃんを殴れないの! うぅ……困ったちゃぁ……」
いやいや、殴らんでいいだろ。
「とりあえず、脱げ」
「あわわ!?」
俺は問答無用でルルのボロマントを剥ぎ取った。 しかし、マントだと思ったそれはローブで、中はすっぽんぽんだった……。
「あっ」
俺がやっちまったと思う前に、右こぶしを後ろに引き半身で構えたルルの拳は放たれた。
「にーちゃんの、――――エッチ!!」
「ぐほっ!?」
十二歳にしては胸がある。
将来有望だなと思いつつ、俺は自身の息子に別れを告げた。
硬い床に崩れ行く中、視界に映ったモノ。
ツイテるのに、ワレてる?
朦朧とする意識は混沌の坩堝に呑み込まれていった……。