十三話:迷子
獣人か。
とくに珍しくもない。 この村にだっているし、普通に人族と獣人の子供とで遊んでいるのも見るしな。 しかし大きな獣耳だ。 くすんだ灰色の髪と同化するような大きな獣耳が、おかわりの定食に湧き踊っている。
「美味いか?」
「うん!」
十歳ぐらいかな? 良い返事が返ってきた、元気が出たようでなにより。 子供に道端で餓死されちゃ寝覚めが悪すぎる。
「なんでいき倒れてたんだ?」
「父ちゃんとはぐれた」
おうファザーしっかりしてくれ。
しかし、良かった。 なんか重い理由とかめんどくさそうな理由とかじゃなくて。
「はふっ、がふぅ!」
ガッツく子供を放置して、俺は今後の活動方針を考える。
ギルド設立の為に、まずなすべきことはなにか?
第一に、自身の安全の確保。 己の力を理解し情報を手にいれ仲間を作る。
かつて最高の仲間と共に築いた栄光のギルドを思い出す。 もちろんゲームのなかなのだけども。
第二に、金策だ。
薬草の採取だけでも日々の生活費は稼げる。 しかし、怪我をした時や装備にも金がかかる。 そしてギルドの設立にもだ。 いわゆる資本金ってやつかな? これがないと冒険者ギルドから大口の依頼を受けられない。 失敗した時の賠償金が払えないからね。 それに金に困ってるような奴らは何をするかわからない、特に力を持つ者たちは。 冒険者ギルドとしてはギルドとして認めた、いってしまえば傘下の者たちの不貞は避けたいのだろう。
「にーちゃん、うまかしあわせちゃ」
どこの方言だよ?
大盛の定食を二つ完食し満足げな獣人の子供は、幸せそうな表情でお礼を言ってきた。 はふぅ……と椅子に背をもたれローブの上から腹をさすっている。 そんな光景に俺はエールを呷りながら僅かに微笑んだ。
「よかったな。 しかし、どこで父ちゃんとはぐれんたんだ?」
「わかんない」
「え?」
俺は思わず聞き返した。
「わからない?」
「うんー、父ちゃんと旅してっちゃ、気づいたら眩しい光襲ってきて、気づいたら知らないところおっちゃ」
「……」
なんじゃそりゃ?
まるで一週間前の俺と同じような……。
『渡り人』。
この獣人の子供もそうなのか? 地球以外からも、日本人以外でも渡り人っているんだなぁ……と、じゃあ神父のところに連れて行ったほうがいいんだろうか?
そう考えて、獣人の子供を見る。
すると、凄く、嫌な胸騒ぎがした。
「にーちゃん?」
あぁ。 これはフィーリングだ。 この子を、神父に、聖光教会に見せてはいけないと、俺の【直感】が囁く。
「……」
情報が足りない。
普通に共存しているように見えるが、それは表面的だったりするのだろうか? この世界について、俺は何も知らないと少し焦る。