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十二話:ナーシ村 ③


 ナーシ村の冒険者ギルドで換金を終えた俺は、今日の夕飯は何を食べようかと村をぶらついていた。 ギルド併設の酒場でもいいのだけど、ちょっと面倒があったので今日は別のところにする。

 長閑な田舎村であるが、冒険者がそれなりにくるので普通の農村よりは店の数が多い。 とはいっても迷宮都市フォッジとでは比べ物にならないが。

 

「うぅ……ぅぅ……」


 歩いていると何かを発見する。

 ボロ雑巾。

 いや、薄汚いマントで身をくるんだ誰かが土の地面の上で寝転んでいる。 そんなところで寝ていると、体バッキバキになるぞと思いながら、俺は横を素通りする。


「ぬお!?」


 ボロ雑巾から手が生えて足を掴まれた。

 痛い!? 万力のような力で肉が潰される。


「おぃいい!? 放せ!!」


 言葉に反応して、というよりは力尽きて足から手が離れた。

 ボロ雑巾はピクリとも動かない。 伸ばした手は力なく地面にだれている。 ただただ間抜けな音が、『ぐ〜〜〜〜ぎょるるるるる!!』と魔の森の不思議な鳥の鳴き声に似た腹の音だけが、長閑な村に響いた。


「……」


 ボロ雑巾をつつくが反応はない。


「なんか食うか?」


「ぎゅるる! ぎゅるるるるる!!」


 腹の音で返事するんじゃねぇよ……!!


「はぁ、しょうがねぇ……」


 俺はボロ雑巾を引きずり飯屋に向かう。

 まったく食事をしていないのか、ボロ雑巾は物凄く軽い。

 野良猫に餌をやるのは良くない、ましてホームレスなんぞには慈悲など与えてはダメだ。 しかし、足を掴んだ手は細く小さかった。 おそらく子供かストリートチルドレンなどこの世界珍しくもない。 

 しかし足を握ったあの『力』。 たしかな足掻き、生きたいと、俺の足と心に爪痕を残した。


「うぉ、血がでとる……」


 マジで爪痕残ってた。

 どんだけ必死だったんだよ……。


「おーい、着いたぞ?」


 結構大きめの酒場。

 村への旅人や傭兵など多くの人で賑わう。 煮込み料理がうまいらしい。 

 さすがに店の中まで引きずって入るわけにはいかない。 店の人に嫌な目で見られるからな。 


「お」


 ふらふらと立ち上がったボロ雑巾。

 被ったフードの中で鼻をスンスンと動かす。 顔全体は見えないが、やはりあどけない感じがした。


「おばちゃんのおすすめを、大盛で二つ」


「あいよー!」


 中に入って文字の読めない俺は席に座りながら恰幅の良いおばちゃんウェイトレスに注文した。 一応、数字と通貨だけは覚えたので、他はそのうち勉強しようと思う。 まぁ文字が読めないからと、騙そうとしてくる者はこの村ではいなそうだ。 冒険者なんて字の読めない奴ほかにもいるだろうし、自ら進んで冒険者の反感を買うようなマネはしないだろう。

 この村で気に入らないところがあるとすれば、芋っぽい村娘か恰幅の良いおばちゃんしかいないところぐらいか。 長閑ないい村である。

 

「ほら、食べていいぞ?」


 五分もしないうちにおばちゃんが『フォレストウルフの煮込み定食大盛』を二つ持ってきてくれた。 

 

「ゆっくり食えよ……」


 ズゾゾゾゾ! と盛大な音を立てお皿にかぶりつくフード。

 誰も取らないからゆっくりたべなってのぉ! 周りから見られて恥ずかしいぞぉお!!


「あ、美味い」


 トロトロになるまで煮込まれたフォレストウルフの肉。 村でとれた野菜と一緒にワインで煮込まれハーブで味付けをしてあるようだ。 パンとサラダとエールで銀貨一枚。 結構いい値段というか、村の外から来る人向けの値段だな。 俺は採取でたんまりと稼いでいるから問題ないが。 ギルド設立の為にあまり無駄遣いはしたくないけれど。


「しばらくは無理だな」


 ギルドの設立には金がかかる、それに冒険者ギルドでの実績も必要だ。 会社を作るようなものだな。 それにはなによりメンバーが――。


「まずはパーティ……」


 そこで俺は顔を顰める。

 先ほどの冒険者ギルドでのことを思い出したから。

 査定待ちの際に誘ってきた奴らのことだ。

 自分たちのPTに入れてやるから分け前をよこせだの、どこで採取したのか教えろだとか、ありえない奴らだったなぁ。


「どうしたものかなぁ?」


 考え事をしながらゆっくり食べていると、すでに食べ終えたボロ雑巾はフードの中からこちらを窺っている。


「もっと食うか?」


 ブンブンブンと凄い勢いで縦に首を振る。

 そして外れたフード。

 

「っ」


 くりっとした大きな蒼い瞳はキラキラと、頭から生えた大きな獣耳はピコピコと期待に踊っていた。




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