十一話:これがギルドマスターか
ナーシ村に来る一週間前。
迷宮都市フォッジの冒険者ギルドは活気に満ちていた。
俺は聖光教会から出た後、冒険者の登録を済ませると、そのロビーでパーティ募集をしてみた。 『PT募集! 当方初心者ローグレベル1!!』と、ネトゲでは遠慮したら負けの精神で堂々と言ってみたのである。
「レベル1……」「はぁ? おっさん、何歳だよ?」「ぶひゃ、ぶひゃひゃひゃ!」
おっさんではない、まだ30歳だ。
たしかにロビーにいる奴らは若い者が多く、そしてガラが悪い。 どいつもこいつもギラついた瞳をして、自信に溢れ、弱者に厳しいらしい。
高難易度のAランクダンジョンを攻略しようとする奴らだ。 命知らずのクソッたれどもである。
『渡り人』であることと、ユニーク【ミニマップ】の情報は伏せて、どこかのパーティーもしくはギルドに入りたかったんだが、難しいか。
「はぁ……。 おっさん、元商人か農民か? それでもレベル1なんてめったにいないぜ? 悪いことは言わねぇ、田舎に帰ってシコシコ畑でも耕してろよ」
獣人の青年に、ドンと肩を押され俺は尻もちをついた。
冒険者ギルドのロビーに笑い声は響き、蔑んだ瞳が一斉に向いてきた。 あ、これはアカンやつだ。 冒険者だけでなくギルド職員たちの憐憫の視線を受けて、俺は逃げ出した。
「チキショー!!」
俺はおっさんじゃない。
ちょっとM字がキテ、精神的に疲れた顔をしているだけで、まだおっさんと呼ばれるような歳ではない。 下半身なんてもう絶好調だぜ! 雑踏駆け抜け、怪しげな――ピンク方面で――店が立ち並ぶ一角に無意識に行ってしまうほどに。 露出の多い綺麗なお姉さん。 ファンタジー世界の住人。 褐色肌のアマゾネスに兎耳のバニーちゃんが男たちを誘っている。
「うぬぬ!」
俺は神父からもらった当面の生活費一ヵ月分を握り締めて、比較的安全そうな酒場兼キャバクラっぽい場所に足を踏み入れた。 まぁ安全かどうかなんて、外見で分かるわけないのだけど。
「ウーロンハイ!」
「うーろんはい?」
ウーロンハイは無いようなのでエールを頼み俺は考えた。
他にプレイヤーはいないのか? こいつらは本当にNPCなのか? 本当にゲームの世界なのか!?
「がははっ、がはははは!」
用意されたぬるいエールをチビチビと口に付けながら、女の子のお尻を観察していると、禿げ頭の髭面のおっさんが一角のスペースを陣取って女の子を何人も侍らせている。 足を組みソファーにのけ反り、両手に抱えるは激しく震える双丘。 どこかで見た光景のような、スケベな雑誌の裏表紙か広告に出てきそうな絵ずらだった。
「なぜだ……?」
禿げた髭面のおっさんに乳を揉まれ恍惚の表情を見せる巨乳美女。 そんな巨乳美女を羨ましそうに、熱い視線を向けて見ている周りの美女たち。 それはとても上玉のお客を手にいれてたからといった雰囲気ではなく、大スターに熱を向けるファンのような。
「えっ知らないの? 【獅子裸王】のギルドマスター、≪アックスロード≫のレオンハルト様よ??」
禿げた髭面のおっさんの癖に、めっちゃカッコイイ二つ名だなオイ。
お酒を持ってきてくれた女の子に聞くと、熱のこもった視線で禿げた髭面のおっさんを眺めている。
「やっぱりギルドマスターになられる方はオーラが違うわね。 一度でいいから抱かれてみたいわぁ……」
「マジで!?」
女の子は赤くなった頬を両手で押さえて逃げていった。
俺は美女を侍らす男を観察する。
果たして言うようなオーラなどあるのだろうか?
「んッ!?」
禿げ髭面そして筋骨隆々の体躯。 ギロリとその鋭い双眸がこちらに向く。 その瞬間全身の鳥肌が立ち呼吸すら困難になる。 持っていたエールは震える手から零れ落ちる。
「がはははは! すまんなぁ、坊主。 ずいぶんと熱い視線を送ってくるから、答えてやったんだがなぁ、――がっははははは!!」
そう言って髭面は巨乳美女を抱きかかえ正面へと移動させた。 対面座位の体勢である
きゃあ! っと黄色い歓声が美女たちから漏れた。
巨乳美女の肩越しに、禿げた髭面のおっさんがこちらを見抜く。
「羨ましいか?」
「あんっ♥」
禿げた髭面のおっさんは、膝の上にいる美女の豊満な双丘を弄りながら問いかけてくる。
「分かるぞ。 お前も俺と同じ側の人種だ」
同じ……どういう意味だ?
「願うなら、勝ち取れ」
そこから先の光景は、少々刺激が強すぎた。 とてもではないが口にはできない。
禿げた髭面のおっさんの膝の上の巨乳美女が、上下に激しく揺れ動いていたとだけ言っておこう。
「すげぇ……」
その後、この世界のモテる職業ナンバーワンはギルドマスターだと聞いた俺が、ギルドマスターを目指すことになったのは、間違いない。