課金六十万円目。歌子の抵抗
王都にて。エピックはのじゃロリ様から九が負けたことを告げられる。
「イゼルローンが落ちましたか」
想定の範囲内。太郎と八の二名を相手に九はよくやったと褒めるべきところ。
「おぬしの戦略的にそろそろ結果が出るころかの?」
「ええ、あるじ様。そろそろ我々の勝ちです」
王城で作戦指揮をする大将のエピックは、イゼルローンの守りを捨てた。少数精鋭部隊と牛に変身した九がいたとはいえ、太郎と八の相手はきついと最初から考えていた。負けるのは想定内。
「私は魔王を倒すことに全力をつぎ込んでいました」
初手、龍。
十をドラゴンに変身させて黒竜となった魔王を倒す指示を出した。
「彼女はクールながら戦闘力はタイガーに匹敵します」
「そうじゃろうの」
エピックの指示通り、十は見事、黒竜を倒して凱旋した。つい先ほど、ドラゴンから城に戻る通信が入った。
エピックの命令は王都解放軍の全滅。黒竜を倒して、それに追随する一万七千の兵を皆殺しにすること。
作戦も戦略もへったくれもない。ただのゴリ押し。タイガーに匹敵するドラゴンが、タイガー不在の中、相手の兵力を一網打尽にする方法だった。
エピックはのじゃロリ様に微笑んで見せる。
「配下をすべて失えば太郎さんも負けを認めるでしょう。初手でこちらの最大戦力を雑魚にぶつければ木端微塵です」
前回の優勝者、魔王。その魔王をしのぐチートキャラ十。ドラゴン一人だけで王都解放軍を壊滅できた。
「ふふふ、なかなか考えておる、エピック」
「どういたしまして」
「しかし、それほど単純かのう?」
「それは、一体どういうことで?」
疑問を口にする前に、空を切る音が城の中に響き渡る。十が帰ってきた。
出迎えるためにエピックとのじゃロリ様が中庭に出ると、龍の姿をした十が人間の姿に戻った。手には気絶した名無しを抱えている。
「ただいま戻りました。命令通り、魔王を捕らえました」
「よくやりました」
エピックが褒めたたえる。すると十が困った顔になり、
「申し訳ございません。王都解放軍を壊滅できませんでした」
「何?」
「残っていたのはディーヴァ。歌子さんただ一人だけでした」
エピックの策は外れた。魔王を倒したついでに残りの一万七千の兵をすべて倒してもらう予定が、当てが外れた。
「なぜだ? なぜ王都解放軍は姿を消した」
「はい、やつら、逐次イゼルローン砦に向かっていたようです」
エピックは王都解放軍の本体を一網打尽にするために初手、龍を放った。しかし、相手の頭脳である歌子が戦力を一か所に投入する危険性を感じて、一万七千の兵を各個、別動隊として次々にイゼルローン方面に向かわせていた。
ドラゴンが魔王を倒したころには、
「しんがりの歌子さんのみでした」
「それで君は魔王だけを連れて戻ってきたんだね?」
「はい、歌子さんを相手にすると時間を食われる恐れがあったため、王城防衛のため戻ってきました」
「してやられましたか」
「ほっほっほ、流石は太郎&歌子じゃ。こっちの予想を超えてきおった」
のじゃロリ様が敵を褒める。
エピックはイゼルローンの守りを手薄にし、おとりになった一万七千の兵力を壊滅させようと考えた。しかし、相手は一枚上手だった。
イゼルローン砦をしっかり占拠しながら、おとりにした一万七千をドラゴンの迎撃よりも速いスピードで分断させ、イゼルローン砦に送りこんだ。
もしイゼルローン砦が太郎たちに占拠されず、無事だったならば、一万七千の兵は王国兵に囲まれて孤立し、壊滅していた。また、仮に離脱するスピードが遅ければドラゴンの手で全滅していた。
十は十で、ごっそり消えた一万七千の兵が王都にまでやってきていたら一大事だったので、すぐに戻る必要があった。エピックから受けた命令は、王都解放軍の全滅であって歌子を殺すことではない。
早くてもダメ遅くてもダメなタイミングで王都解放軍は見事にイゼルローン砦に逃げることができた。
「この戦術は太郎さんではありませんね」
気絶した名無しを肩で持ち上げながら十が相手を絶賛する。
エピックは悔しい表情で顔を歪めた。
「これは歌子さんの独断とみるべきだろう。やられた」
「はっはっは。見事じゃのう」
場面は切り替わり、
一方、しんがりの歌子は、
「し、死ぬかと思った」
ドラゴンに睨まれて冷や汗で凍りつきながらも何とか一人、イゼルローン砦へと帰還に成功した。
たった半日ほどの行軍で、魔王を捕虜にされながらも王都の横のイゼルローン砦へ一万七千の兵力を無傷で移動できたのは奇跡に近かった。これも太郎の頑張りと歌子の機転の利くおかげだった。
攻めのかなめの砦を奪ったのは大きな功績だったが、しかし、いまだに、天使サイドとの戦力の差は大きい。




