課金五十九万円目。VSブル②
タイガとの特訓を思い出していた。
「いい? あいての裏をつくと思うと後手に回る」
タイガは思考停止するな、とは言っていない。しかし、動きを止めるな、とは言った。
「体が硬直した瞬間、負ける」
タイガとの言葉を覚え、太郎は動きながら考える。
太郎にできる手はその他を入れて三つ。
一つ、剣術をフェイントに使った体術。
一つ、地面を陥没させて相手の動きを止める。
一つ、その他。
ただ闇雲に突進してくるブルを止めるには、体術だと心もとない。けれど下を崩壊させればどんな堅い相手でも動きは止まる。
(地面をなくしてもその後が続かない。防御マックスの相手にダメージを与えられない)
逃げながら考える太郎。しかし、相手は待ってくれない。
「うっ!?」
相手の『二兎追うものは一兎を制限する』が発動する。太郎から、逃げる、選択肢を消す。
足が止まる。猪突猛進するブルと対面を張らなければならない状況になる。
「いい? 何も考えが思いつかなかったら、一番得意なことをやりなさい。十八番の必勝パターンをつくるの」
「それ思考停止してない?」
「何もしないよりマシ」
走馬燈のごとくタイガの言葉が耳に流れる。十八番? 必勝パターン? このまま立ち止まっていてもブルの突撃に轢かれるだけ。ならばやるしかない。
太郎は剣を構え、ブルよりも下へ、地面に向かって振り下ろす。
「天空!」
剣先から放出された斬撃が地面を深く抉る。ブルの頭に比べれば豆腐みたいに柔らかい。面白いように地面がなくなり、ブルが足場を失う。モー、と驚きの声が上がり、けれどブルは余裕がある。モーモーと泣きながら、落ちていく。
何か手はないか、何か手はないか、何か手はないか?
太郎の頭はフル回転し、打開策を練る。ほんの数秒、けれど、ここで考えつかなければ勝ち目はない。相手はチートキャラなのだから、当然二回目の足場攻撃を許してはくれない。必死になって脳みそを働かす。
「太郎、もし考えつかなければ、」
そこへタイガのアドバイスを思い出す。
「タイガ、もし考えつかなければ、」
「いい? 全部試すのよ。その他に近づくには消去法からどんどん消していくの」
「了解」
試行錯誤、終了。太郎はやる気を出して落下したブルに接近を試みる。
頭を攻撃して無傷なら違う場所を攻撃すればいい。
地面の真下。仰向けに倒れたブルに対して様々な攻撃を繰り出す。
頭、胸、手足、横腹へ。天空、天空、天空、天空と必殺技のオンパレード。
持てる力を出し尽くしてブルの弱点を探る。
「モー」
相手はまったく効いていない。
(頭ダメ、胸ダメ、手足ダメ、横腹もノーダメージ、じゃあ、ここは?)
選択肢をどんどん削っていく。
太郎のやっている攻撃は総当たり攻撃と呼ばれるもので、暗号や暗証番号などで、理論的にありうるパターンのすべてを入力し、解読する暗号解読法に通ずる。
頭からつま先のほとんどを攻撃し、太郎の攻撃力でブルの防御力を突破できる箇所を探している。もちろん時間制限があり、20ほど攻撃したところでブルが起き上がる。
「モー終わりだよ、太郎さん」
(ダメか)
諦めかけたその時、太郎に天啓が走る。
総当たり攻撃の利点ともいえる。すべてを出尽くそうとすると、思わぬ箇所が見つかる。最後の力を振り絞って天空を連発した太郎に、神様からの贈り物だった。
まだ攻撃していない箇所、それは口の中。
ブルが突撃体制に入る刹那、太郎は素早く移動し、剣先をブルの口に突っこむ。
「モ~!?」
動揺を見せるブル。どうやらビンゴだったらしい。
「天空!」
巨大な衝撃波がブルの口内を襲う。風船みたいに膨らんだ彼女は、目を白くして気絶した。牛の姿から人の姿に戻る。裸になった九に対して太郎は優しく上着を置いてあげた。
「よっしゃ!」
『お見事なのじゃ』
のじゃロリ様からの言葉をもらい、太郎はイゼルローン砦を目指した。




