課金五十七万円目。イゼルローン砦
王都まで安全に進む道は二つある。
一つ、王国軍を持つ、ありとあらゆる集落が自然の要塞と化して阻む道。その道は大なり小なりのたくさんの兵力が集まっており、通りだけでも国境警備兵に呼び止められる。困難な道。
もう一つは簡単に通ることができる野原。草原を駆ける抜けるだけで辺境から王都まで一直線に進むことができる。ただし、帝国を恐れた王国側が強固な砦を設けた。名をイゼルローン砦。その砦に精鋭を配置し、一直線に王都までの侵入を阻害している。
前者は紆余曲折が多く、戦力が多いがバラバラ。後者は一本道で戦力が少ないが精鋭を有する。
過去に歌子がイゼルローン砦を攻めたときはエピックの戦略に敗れ、逃げ帰った。しかし、王国の兵力が分散しているときは砦を落とし、拠点にするのが王都陥落への近道となっている。
そこで王都解放軍は、片方をイゼルローン砦、余りを局地へ分けて攻め入った。イゼルローン砦攻略班は太郎とタイガのみ二名。片や、歌子の一万七千は街から街へ王都を目指している。
「一万七千の兵力は後で合流すればいい」
太郎は戦略を示した。
名無しノクターンが先導する形で、全軍がゆっくりと王都を目指す中、たった二人の、太郎とタイガは砦の攻略に向かった。歌子の一万七千は二時間足らずでルートを変更し、砦に合流する抜け道を知っていた。
つまり王都解放軍は、イゼルローン砦を攻略する本命の太郎&タイガ、ブラフである一万七千を二手に分けた。もちろん途中で一万七千の兵力が失われることは避けなければならない。そのために名無しを飛ばせた。
「全軍を遊ばせながら俺たち二人で砦を攻略する。そしたら、王都の目と鼻の先に拠点が築ける」
「魔王の情報によると砦は食料も武具も揃っているから安心ね」
草原を駆けるタイガ。その背にしがみつきながら太郎は戦略を再確認する。
いくら難攻不落の砦だからといって、レベルMaxのチート二人で攻めれば、のじゃロリ様サイドはエピックを出さない限り、砦を守ることはできない。エピックは大将を任されているので王都を離れることはできない。太郎たち二人だけでも砦を落とすことは容易に思えた。
馬が時速80キロで駆ける中、タイガはそれ以上の速さで草原を走り去った。
「タイガ、もし俺たちが敗れるとしたら、相手はどんな布陣だ?」
「そうね。一、九、十の三人がかりで来られるとやばいかも」
一はちょっと戦って強かったのを覚えている。けれども九と十の名前があがったのは意外だった。
「九と十はそんなに強いのか?」
「ええ、私よりも弱いけど二人ともチート級の化け物よ」
『元気か、おぬしたち?』
「のじゃロリ?」
もう少しでイゼルローン砦に到着するところで脳内に声が聞こえた。テレパシーによるのじゃロリ様の通話だった。
『砦は九と精鋭の兵士だけで守っておる。ぬしたちなら楽勝じゃな』
「あんたに一つ聞きたい」
『なんじゃ?』
「俺たちは仲良しだ。でも日本に戻ろうとする敵同士でもある。どうして相手の得になることをする」
太郎はハンデをくれるのじゃロリ様を見極めたかった。なぜ太郎のチートを促し、親切をするのか、どうしても知りたかった。
『それはの、勇者様に助けられたからじゃ』
「え?」
この世界に来る前、のじゃロリ様は普通の日本人だった。天使になった後も左も右も分からない赤子同然の転生者だった。そこにあらわれたのが太郎の前の体の、勇者様だった。
『勇者様は孤児育ちじゃった。孤独なわしを共感し、妹のように扱ってくれた。お世話してくれて、救われたのじゃよ』
「救われた?」
『そうじゃ。だからわしも誰を救える人になりたい。そう願った。ぬしの以前の体の勇者様に恩返しをするためじゃよ』
のじゃロリ様は仏様のような勇者に救われ、求道心を持った。どうすれば勇者様にお世話になった恩を返せるのか? そして、答えた。ライバルに対等の条件で戦えるように尽くすことだった。
『人のために働きなさい。人間は、人のために行動すると幸せになれるのじゃ』
「嘘だろ?」
太郎は絶句する。だってここまで尽くしてもらったのは勇者のおかげ。太郎は何にもしてない。友であるのじゃロリ様に何にも尽くしてないのにたくさんのものをもらっている。恩をあだで返すように歌子も太郎も王国に反旗を翻している。
「俺はあんたにも幸せになってもらいたい! みんなで日本に帰りたいんだ!」
『ルールを破ってはダメじゃ。帰れるのは一人のみ』
「嫌だ、嫌だ、嫌だ。名無しも歌子もみんな良い奴なんだ。あんたなんて100%聖人じゃないか。そんな人が幸せになれない世界なんて嫌だ」
『悲しいことを言うてくれるな。勇者様へ、太郎のために尽くす。わしはこれで幸せなのじゃ』
「太郎、私もあんたに尽くしたい」
下から声がした。
天使サイドと戦っているはずなのに涙が出そうだ。すっげえ温かみを感じた。
「俺はみんなが幸せになれる結末がいい。誰も死なないで、帝国も王国も竜も天使も腹から笑って宴会できるような未来が欲しい」
のじゃロリ様は勇者にもらった恩を返すために延々と太郎の味方をしてくれた。太郎も恩返ししたい。
『なら、のう。祈るのじゃ。目の前にいる九を倒してみせよ。太郎の成長を見せてほしいのじゃ』
イゼルローン砦の外壁が見えた瞬間に上から巨大なものが降ってくる。
タイガがすんでのところで躱し、土煙から大きな牛が見えた。
ブルである九の登場。太郎は剣を握った。




