四十五万円目。省略
「ちょっといつまで触ってんのよ!」
「痛っ、ごめん」
慌てて体を起こす。
太郎はタックルの際に八の腰のあたりに思いっきりぶちかました。結果、双方が倒れることになり、太郎の額がちょうど八の胸のあたりに接触する形となった。故意ではないにしてもレディの膨らみにいつまでも頭をつけておくわけにはいかない。パッと見、貧乳なのだが、あるものはしっかりある。起き上がってから再三謝罪した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「もう許さないから。半殺しよ」
「ええ?」
「冗談」
八は常に怒っている顔であり、冗談が分かりづらい。きっと胸を触れられた怒りよりも太郎が成長した喜びの方がまさっていたに違いない。最後の最後で機転をきかして八の④その他、足元を崩す、を選んだ太郎の戦術勝ちだ。
八は斜めを向きながら激励を飛ばす。
「なかなかやるじゃない。ま、本番でも頑張りなさいよ」
「は、はい!」
「今度は手加減しないから、ふんっ」
八の顔が照れて赤くなる。一時でも彼女の上を行くことで彼女に認められたのだ。
「顔、赤くなってますよ」
「顔見るなー。だいたいあんた女の子っぽいのよ。私より綺麗なんじゃない?」
「すみません。前の世界で女装していたものですから」
前の国で顔を整形させられ、髪型は伸び、潜入調査から女装させられていた。そういえばそうだったと思い出す。
「八さんはこの顔、嫌いですか?」
「別に」
またまたそっぽを向く八。生意気な妹みたいで可愛かった。
「お二人でイチャイチャですか? 男女異性交遊は禁止されていませんが、ちょっといい加減にしてください」
「――な!?」
太郎の横から女の人が姿をあらわす。まったく気配を感じなかった。
「あら、一。何かしら?」
一と呼ばれたメイド服の女性は、アラサーの十よりは若いものの、百戦錬磨の空気を漂わせていた。
「せっかくのトレーニングルームが破壊されていて私は若干不機嫌なのであります」
「そういえばそうね。このお城はあなたが作ったんですものね」
苛立ちを見せる八。稽古? の邪魔をされて不機嫌になっている。
「ええ、私が作りました。学ぶは真似ぶ」
一の変身能力。さきほど見せた瞬間移動は空気になって移動してきた彼女が元に戻っただけの結果に過ぎない。そして、彼女の変身能力は他人や無機物にも変化を及ぼす。
手に持った豪邸のパンフレットを真似ながら、金持ちのトレーニングルームを再現する一。
再現性のある部屋が出来上がった。
「すごい。床があっという間に元に戻った」
「この屋敷はエピック様のお気に入りです。直るとはいえ不用意に破壊しないでください」
「す、すみません」
太郎は一礼。ちょっと怖い一
「それからブログ勝負は太郎さんの勝ちでよろしいでしょう」
「は、どうして? 私はまだ本気で戦ってない」
「いいですか、八。仮契約というものがあります」
仮契約。動画配信サービスの無料お試しキャンペーンや青汁のお試し用セットのことだ。
「八、仮契約ではすでに個人情報が取引されるのです。そこから広告やダイレクトメールが届く。そして業者が潤う。一見させていただきましたが、今の勝負で太郎さんの成長は確認できました。次の段階に入ってもよろしいでしょう」
「嫌よ」
八の七人の分身はフリーランス勝負で無敗を誇る。引きこもって集めた情報、人脈、そして数。これ以上の優位性は絶対に覆らない。にもかかわらず、一は太郎の勝利で良いと宣言した。
「八、目的を見失ってはいけません。あなたの恋人探しをしているのではありませんよ」
「べ、べ、べ、別に、恋人とかいらないから」
動揺する八。彼女の顔が沸騰する。
は~、と溜め息を履く一。
「いいですか。太郎様は商人になるために合成人間と戦っているのです。商人にとって時間は命。無駄は省きましょう。延々とあなた方のラブコメを見せられてはこちらがかないません」
「むきー」
八が、ちょっと不憫に思えたので太郎が助け舟を出す。
「分かりました。俺の勝ちでいいです。だから八さんをいじめないでください」
「別にいじめられてないし!」
「コホンッ。よろしい。では次は私と勝負です。詳しい内容は彼女から聞いておいてください」
――学ぶは真似ぶ。
そう唱えた一は空気を真似して空気となり、そよ風になって去っていった。
嵐のように来ては嵐のように去っていく御仁だ。
やかんのように沸騰した八の熱はおさまらず、矛先は一に向けられた。
「あいつはエピック派の人間。のじゃロリ様よりエピックを信用しているわ。だから絶対に勝つのよ」
「お、おう」
「いい? 死んでも勝ちなさい!」




