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四十二万円目。VS八(稽古)

 剣道の我流ルールが採用された。何でもなりの変則ルール。もちろんお互いがプロなのだから死傷か軽傷かの加減はできる。ダメージを負っても絆創膏で治る範囲で戦うことにする。


 これは稽古。これは稽古。何度も繰り返し、太郎は自分に言いきかせる。


 中段に木剣を構える両者。


 静止を払いのけるように、八が、「始めっ!」と宣言する。


 太郎のフェーズ。


 最初に太郎は、面を狙うか、胴を狙うか、籠手を狙うかを数秒で考える。一度、八の上段から下段に振り下ろされた木剣を斜めに受けて、相手の力量を見極めつつ、三点のどれを狙うか考える。


 数秒だ。けれども、剣道の試合では物凄く長い。


 八の斬撃を三回受け止め、防御に徹すれば確実にやられると踏んだ太郎は、一歩前に進み出た。


(八はプロ級に強い。受けに回れば十秒後にやられる。攻めることこそが最大の防御。我流で倒す)


 剣道において面、胴、籠手の三点を狙った場合、勇者クラスならば安易に無力化できる。相手の狙いが三点集中である限り、木剣による受け行動と体を左右に振る回避行動で簡単に捌ける。


 実践において相手は殺しに来る。一方、剣道は基本に忠実な動きしかしないため、加減のできる稽古ではほぼ優位性は保たれない。


(コペルニクス的転回。剣道ならば、剣道じゃない勝負にしてしまえばいい)


 剣道と真逆の発想。パッと思いついたのは柔道。太郎は試合開始から四秒後に柔術を使おうと決断。


 交差する木剣。響く音。静止。お互いに一歩、後ろに下がる。滑る足元。右足のふくらはぎに力を溜めて太郎は一足飛びに前進する。


(稽古において八の意識は面、胴、籠手の三点に集中している。ならば意識の外からの一撃が有効!)


 突き。


 剣道において邪道とされる喉元を狙った攻撃。


 太郎は左の片手で持った木剣をジャブの要領で突き、八がどのような反応をするかを確かめる。


 八の目玉が斜め左へ。木剣の切っ先を見つめたところで太郎は待ってましたとばかりに木剣を手放す。


 ディーヴァ戦で使った戦術。


 剣に意識をとられている相手へ。打撃で追撃する我流の剣術。


 空になった左手をめいっぱい引き、一秒後に前に突き出して、右足を蹴り上げる。


 八の胴体を狙った一撃に、彼女は飛んでくる木剣を撃ち落とすことに夢中になっている。勝った。そう思った太郎は、けれども、すごく後悔する。


 衝撃波。太郎の渾身の蹴りは八の横腹にクリーンヒットした。手ごたえあり。しかし、八は動かざること山のごとし。不動のまま、ニヤリと笑う。


「見事ね。が、私の体幹の強さを甘く見ていたようね」


「ひゅう~」


「あなたの蹴りなんて避けるまでもないわ」


 直後、八の突きが太郎の左肩を襲った。


(わざわざフェイクを入れて腹を蹴ったのに動じないとは化け物かよ)


 女の子の体幹ではない。彼女はお相撲さんのような筋力を誇っていた。


「ぐっ、本当に引きこもり?」


「ん、そうよ」


 八は右手を離し、手の甲を太郎の方に向けてクイックイッと挑発する。


「戦える引きこもりですが、何か?」

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