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三十万円目。VS十

「ふう」


 十との勝負。麻雀ルームに行く前に深呼吸をする太郎。


 相手の能力を反芻する。


 画竜点睛を知る。


 画竜点睛とは、竜を描いて、その瞳を書き加えたところ、竜が天に昇ったという故事。転じて物事全体を生かす中心、また、物事を完璧なものにするための最後の仕上げを指す。


 画竜点睛を欠く、は物事の最後の仕上げを欠いたために、全体が生きないことであり、画竜点睛を知る、は物事の最後を知ることができる。


 麻雀でいえば、最後の上がり牌を把握する一種の予知能力に近い。


 十は自分がどうすればあがれるか、どうすれば相手があがれないかを最初から知っているのだ。


 麻雀とは降りるゲームだ。防御に徹して失点を防ぐ。けれども一度もあがらなければ勝ちはない。いかに相手より早くあがるゲームにおいて、四暗刻だの大三元だのを聴牌したところで意味はない。


 あがらなければ勝てないゲーム。それが麻雀だ。


 太郎は聴牌の形まで持っていくことができたが、画竜点睛を知る十は最後の当たり牌を決して掴ませてはくれなかった。


 麻雀というゲームにおいて百%勝てる能力。それが画竜点睛を知る。未来予知に一寸の隙もない。


 けれども。


 けれども、だ。


 太郎はやり遂げなければならない。商人になって日本人同士のバトロワに勝ち、元の世界に戻るのだ。


「こんなところで立ち止まっているわけにはいかない」


 ゆっくりとドアを開けて麻雀ルームに入る。「待ってました」と十が迎える。勝負服のメイド姿。昨日会ったジャージ姿の自堕落な女は存在しない。妙齢の凛々しい戦闘メイドが顔を見せた。


「秘策ありという顔ですね。楽しみです。勝負を始めましょう」


「ああ、これがあなたとの最後の戦いだ」


 着席。サイコロを振り、牌を立ちあげる。十の麻雀は、親番は必ず太郎から。親の連荘なしの半荘変則ルール。


 だからこその光明。ルールが変則的であるならば、合法でも違法でもないグレーゾーンとなる隙をつけばいい。


 ――金持ちは合法的に脱税する方法ばかり考えている。彼らはけち臭く、国税局を目の敵にしている。だからこそ、強いのじゃ。国そのものと戦っておるからのう。


 のじゃロリ様の言葉が浮かぶ。


 太郎の相手は十だ。しかし、十ではない。本当の相手は太郎に圧倒的な不利を敷くルールの方だ。


 ならば、ルールそのものを合法的に打ち破る!


 手配を見て、太郎は静かに告げた。


「負けです」


「へ?」


 困惑する十。太郎は負けを認めて、再度、サイコロを振る。


 再び配られる手牌。そして、


「負けです。再戦を希望します」


「は?」


 当惑する八と九。彼女らはゲームマスターである十の顔色を確認する。十は薄ら笑いをして再戦を許可する。再び立ち上がる配牌。太郎は、また、負けを認める。手牌を見て、好配牌でなければすぐに負けを認める作戦に出た。


 何度目かの再戦。「負けです」と太郎が言うと、我慢できなくなった十が口を出す。


「ちょっと待ってください。ダブリーができるような手牌を待つのはルールに反していません。ですが、いくらやっても私には勝てませんよ? 親の役満はせいぜい18000点。無駄なあがきです」


「十さん。違いますよ」


「え?」


 太郎は作戦の本質を話す。


 これは好配牌が来るのを待つだけの麻雀ではない。もっとだ。親の跳満では生ぬるい。もっと、上の、一撃で十にダメージを与えるような、もっと上の役をあがるために太郎は何度も再戦をしている。


 その役の名は、


「天和。俺は神様からの贈り物と言われる役満、てんほうをあがるまでずっと打ち続けます」


「世迷言です!?」


 十が立ちあがって怒る。無理もない。てんほうとは、親の第一ツモであがる役。点数は役満の48000点。てんほうをあがる確率は、33万分の1であることが知られており、毎日半荘を5回ずつ打ったとして61年に一度しかあがれない役なのだ。


「嘘だ。無理です。不可能だ。太郎さんは天和をあがるまで同じことを繰り返すと言うのですか?」


「ええ。俺は10年でも20年でも、配牌で天和が出るまで戦い続けます」


 親の役満は48000点。十のルールは親の連荘がない。太郎が天和をあがり、ずっと国士無双と七対子狙いをして不要牌を持ち続け、終盤で逃げまくれれば勝算は十分にあった。


 冷静さを取り戻した十が座る。


「意味不明です。無計画すぎます、が、嫌いではありませんね。33万分の1を勝ち取りに行く姿勢。見事。ギャンブラーの鏡です」


「そりゃ、どうも」


 ゲームマスターの許可は得た。あとは太郎が天和をあがるまで永遠と親の一局を繰り返すだけ。


 が、十は画竜点睛を知るという能力がある。麻雀で最後の仕上げがどうなるのかを予知してしまった。


「太郎さんは11万弱ほどの起家で天和をあがり、あがらず振らずの一位を取ります。私の負けです」


 十は立ち上がり、微笑みながら太郎の横にまで来て握手を求める。太郎は素直に応じた。


「よくぞ、合成人間ドラゴンを倒されました。あなたの勝ちです」


「ありがとう。十さん」


 VS十。麻雀勝負。太郎の勝利。

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