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エピックの独り言

 エピックの屋敷。弓道場。


 ツインテール、袴姿のエピックが矢を引く。静から動へ。動きを止めていたエピックは手を放し、弓を射ては的に命中させる。


「お見事です。エピック様」


 メイドの一が拍手をする。エピックの放った矢が真ん中に命中し、賞賛を送る一。


 彼女の能力は、ざっくばらんに言うと、変身能力。エピックに化けて外界に赴いては敵将ディーヴァである歌子を退却させた。


 一はエピックと瓜二つの姿で話しかける。


「歌子の軍は始まりの村まで撤退しました。報告をさせていただいてもよろしいですか?」


「うん。頼むよ」


 日課の弓道を終え、エピックは片付けに入る。その間に、一は淡々と告げる。


「今回、エピック様の申しつけ通り始まりの村から王都までの間。すべての村で食料を破棄させました」


 エピックに化けた一が出した指示は以下のもの。


 始まりの村から王都にあるすべての村の食料を燃やす。田畑を燃やす。農民の貯蓄を最低限度まで減らし、すべての衛兵を王都まで撤退させる。


 エピックの出した策略は単純だ。歌子の帝国軍に村々を無血開城させたのだ。


 一方、帝国側の歌子は、王国本土への侵攻と解放を実行に移した。


 始まりの村を降伏させ、帝国軍の傘下に入れるまでは良かったが、のちの侵攻は悲惨なものだった。


 なぜなら敵兵はいない。無血開城ができるけれども村人たちは飢えていた。


 今後、帝国市民となる村人を飢えさせたままにすることにいかず、歌子は帝国からの補給をすべて村人に与え続けた。


 一つ、二つ、三つと次々と侵攻するたびに歌子は王国の村を吸収したのだが、すべての民が飢え、なおかつ帝国軍は現地調達を命じられた。


 王国深くまで侵攻した歌子の軍は、仲間を増やすたびに食料を浪費する味方に頭を悩まされ続けた。


「最後に補給路を潰しました」


 一が説明する。


 帝国の最高戦力である歌子が王都まで半分ほど侵攻したところで、エピックの軍が始まりの村で帝国の支援軍を待ち伏せした。そして、奇襲をかけ、歌子の補給を完全に絶ったのだ。これは、たまらない、と感じた歌子はエピックの軍と一回も戦うことなく始まりの村まで逃げていった。


「お見事です。エピック様。最強ディーヴァと戦わずして勝ってしまうのはエピック様だけです」


「ありがとう」


 弓を片付け、水筒に入ったアクエリアスを飲むエピック。彼女は優れた頭脳で歌子を懲らしめた作戦の根幹を説明し始める。


「僕の戦略、すなわち総力を上げた焦土作戦の結果、歌子ちゃんの前線から総司令部への補給線には極めて過大な負担が生じた。帝国軍の輸送能力を圧迫するどころか要求を満たすだけの物資自体が始まりの村には無かった。帝国の補給路を奇襲したから当たり前の帰結だね。不足分は当然新たに王国領内から調達する必要があり、更に国家財政を圧迫することになるため、歌子ちゃん軍内部では撤兵論が飛躍的に勢力を増した。しかし結局は、僕たちに一撃どころか一戦すら交えていないという現状が歌子ちゃん軍に完全撤退をためらわせることになる。始まりの村で食料を確保し、また、やってくるだろうね。歌子ちゃんは軍略にも優れている。一時撤退だよ。今度は精鋭のみで王都に攻めてくるはずさ」


「さすがです。エピック様」


 エピックに化けた一が再度、拍手をする。甲冑服が金属音を立てる。


 王国の村総出で行った焦土作戦は成功を喫した。歌子は今作戦を日米戦争に例えたが、エピックは銀河英雄伝説の帝国領侵攻作戦を真似た。銀河英雄伝説では市民の反感を買ったため、余儀なく現地民と不毛な争いをして兵を無駄に消耗させたのだけれど、歌子の帝国軍はいち早くエピックの策略に気づき、物資が枯渇する前に始まりの村まで撤退した。というのが今回の顛末。


「で、彼はどうだい?」


「はい。十と麻雀を」


 一の言葉を聞き、エピックは最後に意味深長な言い回しをした。


「弱々しいけれども、歌子ちゃんも主様も魔王も強敵だ。太郎には商人としてガンガン資本主義を勉強してもらおうじゃないか。励めよ、異世界人。金こそが正義だ」

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