課金十九万円目。女装
『必ずお前に復讐する。花嫁に行かずに屋敷で待ってろ』
と手紙を残して太郎は去る。
ピーンは『直感◎』があり、直情型でドS。また、プライドが高い。
奴隷のイケメン男たちを殺されたら黙っているはずがない。むざむざ逃げるような性格はしていない。
必ずお気に入りの太郎を再び奴隷にするために動く。
それを逆手に取り、ピーンを屋敷に縛り付けておくことにした。
「ファンタジア家は強力な魔法使いを雇っているっす。今は引いて一旦宿に戻りましょう」
名無しの提案を受け入れ、太郎はトラジコメディの古びた宿に入る。
宿の中は屈強な男たちがたむろしていた。護衛だ。トラジコメディで商売をする場合、有力な盗賊の傘下になるか護衛を雇うかしなければならない。この古びた宿は後者だった。旅人と財産、食料を確保するために数人の屈強な男を金で雇っている。
上半身裸でスキンヘッドの男。頬に傷のある男。大きな斧を構えた髭もじゃの男。
どいつもこいつも癖のある護衛ばかりだった。
ニヤニヤした目つきで太郎を眺める。
名無しが宿代を払うと、カウンターの男がこう言う。
「男性が一名様と奴隷の女性が一名様ですね」
――奴隷の女性?
そんなものは連れていない。忍者の服に着替えた名無しと古びた布に覆われた太郎、2人の男性がいるだけだ。
「ええ。そうっす」
「かしこまりました。二階の部屋をお使いください」
カウンターの男が礼をする。
なぜ奴隷の女性を見間違えたのか? その答えは部屋について鏡を見てから判明した。
「俺の顔が変わってやがる!?」
太郎は悲鳴を上げる。元の男前だった勇者の顔はどこへやら。
今はピーン好みの貧乏そうな、薄幸の美少女が鏡に映っている。
「拷問の間に整形させられたっすね。なかなか綺麗な顔ですよ。ククク」
「笑うな。俺は大変ショックを受けている」
そうだ。顔を殴られ変形された際、ヒールで何度も何度も治してもらった。あの最中にピーンの部下は余計な真似をしてくれたらしい。
勇者の男前が台無しだ。どころか男性ですらない。完全に女の顔だ。薄幸の美少女なのが、これまた、憎たらしい。
「ピーンの好みだな。暴力による拷問から性的な拷問に移ったのはこれが原因だったのか。くそっ」
太郎はここ数日ろくなものを食べていない。そのせいで体は汗細り、体型は女の子みたいに華奢。
髪型も1か月切っておらず、ショートヘアになっている。
本当に、鏡で見て驚いたが、どこからどうみても貧乳の女の子にしか見えなかった。
名無しが心配そうに太郎の下半身を凝視する。
「チ〇コは付いてるっすよね?」
「当たり前だ。馬鹿野郎!」
「ははは。冗談っすよ」
「チ〇コまで取られたら、俺はピーンを殺していた」
太郎はピーンを生かすつもりでいた。生かしながら地獄を与えてやるのだ。ピーンの持っているファンタジア家の名前は何かと役に立つ。今後ファンタジア家の権力を最大限に利用しようと目論んだ。
「名無し」
「はいっす」
「とりあえずの生活費はどうするんだ?」
「ここは盗賊の支配する街トラジコメディっすよ。後は分かるっすね?」
「まあ……」
なんとなく予想は付く。奪うのだ。金がなければ奪う。それがここの掟。
しかし、無罪の人から金品を巻きあげるのは気が引けた。
だから。
「なあ、どうせなら悪人からカツアゲしようぜ」
「例えば、今、廊下にいる連中っすか?」
廊下から声が聞こえた。下にいた護衛の連中だ。太郎を美少女と間違えて狙っている。奴隷の女を貸してもらうぜ、という会話が聞こえた。
「それは良い提案だ。今後、女を襲うような連中から金品をふんだくる」
「了解っす」
「お前は手加減しろよ」
「太郎さんの修業は見守るっすけど、悪人退治は本気出すっすよ」
「やれやれ。仕方ない」
太郎は傍観した。名無しが腹パンで次々と屈強な男たちを沈め、金品を奪う姿を、ただただ静かに傍観した。
次の日。
トラジコメディの役人が懸賞金の張り紙を配っていた。発行元はファンタジア家。逃げ出した奴隷を捕まえてほしい、という趣旨の張り紙だった。
元の勇者の太郎の顔が張り出されている。性別は男。奴隷の適性検査の時に撮った写真。
ピーンは拷問で顔を変えたことを考えていない。ただ単に、奴隷の男に懸賞がついていた。
太郎はしまったと思った。顔を治したら、いずれバレる、と。
「仕方ない。顔はこのままで。変装するか」
「じゃあ女装しましょう」
「はぁ……やっぱりそうなりますよね?」
「自分は最高レベルのアサシンっすよ。変装はお手の物っす」
女の子ようなショートヘア。やせ細った華奢な体。薄幸の美少女。この被害を利用するしかなかった。
太郎は名無しの提案を受け入れ、女装し、トラジコメディでは美少女として生きていくことにした。
村人(太郎) レベル20
HP:D
攻撃:D
速さ:D
守備:D
魔防:D
追記。毒耐性◎




