課金十四万円目。トラジコメディ
路地で生活するホームレス。追いはぎ。男を誘う娼婦。ケンカ。トランプによる賭け事。
場所に揺られながら、太郎はトラジコメディの景色をぼにやりと眺めていた。
全身傷だらけ。口の中が切れて鉄の味がする。馬車の運転手に尋ねる。
「あの、おじさん。どこに行くんですか?」
「知るか。奴隷が口出しするんじゃねえ」
一蹴される。
その通り。太郎はトラジコメディに着く前に野党に襲われ、身ぐるみを剥され、下着姿で奴隷馬車に乗っている。周囲は鉄の檻。乗客はみんな奴隷。
それは30分前の出来事。一人歩いている太郎に野盗が襲い掛かる。
初めての実践。太郎は剣を振り、野盗を撃退しようとした。けれど、できなかった。
太郎に人を斬ることはできなかった。
結果。ボコボコのタコ殴り。何発殴られたか分からない。
顔面が赤く腫れあがるまでパンチをもらいつづけ、彼ら野盗が奴隷商と懇意なのをいいことに、太郎はその場で売り払われた。男の奴隷は労働力として価値がある。
「まさかいきなり奴隷とは……」
ついてない。そう太郎は言いかけてやめた。負けたのは結局、人を斬れなかった自分が悪いのだ。
この世界がゲームであることは百も承知だが、人を斬り殺すことに抵抗を覚えた。何の準備もなく襲いかかってきた野盗に躊躇してしまった。
くそ、くそ、くそ、と木の板を叩く。それがバレて、また運転手に怒られる。
「こら、静かにしろ!」
「す、すいません」
それから30分ほど。
トラジコメディの街を眺めているとあることが分かる。
路上で生活している人たちはまともな服を着ていなかった。ボロボロの布。女子どもも例外なく、この街は文化的で最低限度の生活を送れていない。衣食住が必要だとしたら、衣と住が不足している。
食はどうなのだろうか?
その疑問は同じ奴隷仲間が教えてくれた。
「お兄さん。不思議そうな顔をしているね?」
「いや、ここの人たちはどうやって服も住むところもなく生活しているんだろうって思って」
「ふふふ、観光ついでに捕まったお馬鹿さんかボンボンの坊ちゃんかな。教えてあげるよ」
その女はピーンと名乗った。
得体のしれない女だった。一人気楽に振る舞って周囲と会話する。悲壮感はない。まるで奴隷になったことを喜んでいるかのようだった。
ピーンは言う。
「この街は食べ物だけは無償で配ってくれるんだ。ま、政策の一環だね。盗賊王のトラジディが考案した政策で、どんなに貧乏でも毎日3食のご飯が食べれる」
配給があるらしい。それで子供でも飢えることはない。
しかし、なぜそんな無駄なことを。疑問に思った太郎はピーンに聞く。
「どうしてそんな無駄なことをするの?」
「そりゃ労働力を集めるためだよ。何をしなくても飯が食えるとならず者たちがわんさかやってくる。噂ではトラジディは帝国に戦争を吹っ掛けようって腹積もりらしい。そのために戦力がいるんだとか」
「ば、馬鹿じゃねえの、それ」
太郎は笑った。当たり前だ。こんな辺境と街が帝国に戦争を仕掛けるなんてたかが知れている。
帝国には最強の戦乙女ディーヴァがいる。それ以外にも猛者がうじゃうじゃ。
盗賊王のトラジディは馬鹿なんじゃないだろうか?
「むー」
ピーンが怒った顔をする。踊り子の衣装を身にまとった彼女は、当然ながら露出が高い。
豊満な胸に、引き締まったヒップ、踊りで鍛えられたお尻。野盗たちが放っておかないような美貌をしているのに、なぜか、ピーンは、傷一つついていない。
対して太郎はボロボロ。口から血を流しながら会話している。
「トラジディは馬鹿だろ」
「うっさい黙れ」
「ぐっ!?」
ピーンから放たれた強烈なビンタ。太郎は避けることができず、そのまま張り手打ちされて倒れた。
「ただの観光客がトラジコメディを悪く言うんじゃない」
「す、すいません」
ピーンに謝る。大人しく言うことを聞いたほうが良い気がした。現状、太郎は剣を奪われ下着姿。
騒いでいるはずなのに、奴隷馬車の運転手はピーンを怒らない。彼女はきっと、特別な何かなのだと、太郎はそう確信した。
村人(太郎) レベル1
HP:D
攻撃:D
速さ:D
守備:D
魔防:D




