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3/3

片鱗

一、二話のサブタイトル、作品のタイトルとあらすじを変更しました。(8/3)

 月明かりが二人を照らす中、マリオン家の屋敷を出て、大通りを十分ほど走っていったところでメリッサは立ち止まった。

 けれど、そこにあったのは人攫いのアジトというより、商店のようだった。

 不安になり、鋭い眼差まなざしを建物に向けているメリッサに問う。


「ここであってる?」

「ええ、あってるわ。この商店が()()()()、《グラント・ファミリア》のアジト」

「グラント・ファミリア?」


 やっぱり商店なのかと思いつつ、突然出てきた単語に思わずオウム返しにたずねる。


「ファミリアっていうのは組織犯罪集団のこと、殺し、盗み、恐喝、なんでもやる奴らなの。その一つがこの商店の主人、ガズ=グラントがボスをやってる《グラント・ファミリア》ってわけ」

「なるほど、マフィアみたいな感じか。でも、その《グラント・ファミリア》が組織犯罪集団って分かってるなら捕まえてもらえばいいんじゃないの?」


 僕の言葉にメリッサは残念そうに首を横に振る。


「いいえ、確かに自警団もある程度は把握しているはずだけど確実な証拠がないと手が出せない上に彼らは犯罪者たちの集まり、無理に捕まえようとすると手痛い反撃が待ってるでしょうし、迂闊に手が出せないのよ」


 自警団、警察みたいなものだろう。マフィアに手を出せない警察、映画みたいだ。

 倒すべき敵について分かったことだし、作戦会議をするべきだろう。

 だけど、その前に一つ確認しておきたいことがある。


「なるほど、そのグラントって男が悪い奴で倒さないといけないってことは分かった。当たり前だけどそいつの周りには構成員がいるよね」

「ええ、そうでしょうね」

「ってことは当然ミーナちゃんを助けるにはグラントなり、構成員なりを倒すわけだけど……殺すの?」


 難しい質問だとわかっていたがこれだけは聞いておきたかった。

 殺すことに抵抗はあるがそこは問題じゃない、メリッサがどう考えるか、それが問題なのだ。例えば、彼女は殺したいほど憎んでいるのに殺さなかったら彼女の意思に反することになる。

 すぐに答えられる質問ではない、と予想していたがメリッサは意外にもすぐに口を開いた。


「それは私も考えていたわ。正直、私はファミリアが殺したいほど憎い。あなたにはまだ話していなかったけれどひと月ほど前に両親をファミリアに殺されたの」

「えっ、でもさっき両親は事故で死んだって……」

「ええ、自警団はそう判断したみたい。だけどあの事故にはおかしな点ばかりだった。ファミリアが関わっているとしか考えられないのに自警団は捜査をやめたわ」


 メリッサは言い終わると悔しそうに唇をかんだ。

 よほど強く噛んだのか彼女の唇から血が流れる。

 僕はそんなメリッサの姿を見て、決意する。


「僕も協力する。両親を殺して妹までさらうなんて絶対に許されることじゃないよ。ミーナちゃんを助けるだけじゃない、君たちの両親を殺したのが誰なのか突き止めて復讐する」

「本当にいいの? あなたは関係ないのに」

「関係なくても許せないよ。よし!  それじゃあ、作戦を立てよう。僕は正面から突入して囮役になる。その間にメリッサが裏口から入って、ミーナちゃんが囚われていそうな怪しい場所を探す。単純だけど、どうかな? ……メリッサ?」


 暗い雰囲気を振り払うように明るく提案してみたのだがメリッサはうつむいてしまい、呼びかけても顔を上げようとしない。

 心配しているとメリッサはうつむいたまま口を開いた。


「ごめん……私、嬉しくて。妹がさらわれて焦っていたらあなたが現れて、いきなり協力してくれるなんて言ってくれて、その上囮役まで買って出てくれるなんて……」

「メリッサ、もしかして泣いてる?」

「泣いてない! ほらっ、泣いてないでしょ?」

 

 顔を上げて泣いているか確認を迫るメリッサの目は潤んでいたが僕は頷く。


「うん、泣いてない。ミーナちゃんを助けたら思いっきり泣けばいいさ。あっ、これ返しとくよ」

「ありがとう……って泣いてないから!」 


 さっき貸してもらったハンカチを渡すとメリッサは素直に目元を拭いたが、すぐに僕の意図に気がついてハンカチをしまった。

 コントのようなやり取りを終え、真剣な表情に戻り、僕はたずねる。


「じゃあ、さっきの作戦でいい?」

「ええ、さっきの作戦でいいわ。行ってくる」


 メリッサはまださっきのことに怒っているのかさっさと歩いて行ってしまった。

 僕も正面のドアに体をぴったりとくっつけ、突入の準備をすます。


「ケント!」


 準備万端の僕を呼ぶメリッサの声が聞こえ、顔だけを向ける。


「色々ありがとう」


 メリッサの言葉に答えたかったが敵のアジトの扉の前で答えるわけにもいかず親指を上げ、サムズアップで答えると、メリッサは笑顔を見せ、裏口へ走っていった。

 嬉しいような恥ずかしいような気持ちを胸にしまい、一つ息を吐いた。

 コントのおかげか緊張はほぐれていた。そろそろメリッサも裏口に着いた頃だろう。


 最後に深呼吸をして、ありったけの力でドアを蹴破けやぶった。

 バキィ! っという音とともに開いたドアから素早く滑り込み、周囲を確認する。

 店の中は本が大半の面積を占めていた。どうやら本屋のようだ。近くに人は見当たらないがすぐにやってくるだろう。

 店には二階に続く階段があり、その先に豪華なドアが見える。きっとあそこにグラントがいるはずだ。


「おい! 何の音だ!」


 そこまで確認したところで音に気がついたファミリアの構成員の声が聞こえ、目の前にあった本棚に身を隠す。

 息を押し殺し、待っていると警戒しながらゆっくりとこちらへ来る構成員の姿が確認できた。

 引き金を引くか迷った数秒の間に、人の気配を感じてか構成員が振り返り、一瞬視線がぶつかる。


 そこからはすべてがゆっくりに見えた。構成員が杖を構え、魔法を唱えようとする。それをみて僕は咄嗟とっさに引き金を引く。そうして放たれた弾丸が高速回転しながら気持ち悪いほど正確に眉間を打ち抜き、構成員は背中から地面に倒れた。


「くっそ!」


 撃たなければ僕が殺されていただろう、それでも言い様のない気持ち悪さを感じ、本棚に拳を叩きつけ、悪態をついた。

 しかし、そんな行為はなんの慰めにもならず、僕は自分が殺した構成員から視線が離せなくなっていた。

そんな状態の僕を、銃声を聞いて駆け付けた他の構成員の声が現実に引き戻す。


「おい、ここの本棚に後ろ辺りから聞こえたよな」

「ああ、間違いない、この後ろだ。どうする?」

「どうするって決まってんだろ、俺の風魔法を打ち込んでやるんだよ。あんなみみっちい魔法を使う野郎は本棚に挟まれて死ぬのがお似合いだぜ」

「はぁ、任せるが油断するなよ。相手が何をしてくるわからん」


 頭のよさそうな男とバカそうな男の会話から察するに魔法で用心棒を倒したと勘違いしてくれているようだ。それに魔法を打ち込んでくるらしい。

 魔法を撃たれる前に飛び出すか打った瞬間の隙を狙うべきか考えているうちにバカそうな男の詠唱が聞こえてくる。


「はっ! まあ見てなって、吹き飛ばしてやるぜ。風よ、すべてをぶち壊せ、《テンペスタス》!」


 意外にも早く打ち込んできたせいで選択の余地はなかった。詠唱が終わると同時に本棚の陰から飛び出す。

 まずは勝ち誇った表情をしているバカそうな男に向けて、飛び出した勢いのまま空中で二発撃ち込む。弾の行方を確認せずに着地して横に二、三回転したところで片膝をつき、頭のよさそうな男に向けて一発撃ち込んだ。


 動かなくなった構成員二人を見て僕の中で何かが壊れた気がした。

 もやもやした気持ちはいつの間にか晴れていて、耳に残る銃声の残響(ざんきょう)、手に残る銃の反動の感覚すべてが心地よかった。

 不思議な高揚感が体を包む中、魔法が撃ち込まれた本棚を見て、驚く。


「マジか……」


 魔法によって吹き飛んだ本棚が壁に突き刺さっていた。その周囲ではまだ粉々になった本のページがひらひらと舞っている。


「これは避けなきゃ、やばかった」


 死を間近に感じ、僕は冷や汗を拭った。

 初めて見た魔法の威力に驚いていると店の奥からメリッサの声がして駆け寄ってくる。


「ケント! 怪我はない?」

「大丈夫、無傷だよ。行こう」


 メリッサと合流し、階段の近くまで来たところで二階から男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい! 相手は二人だけだろ! さっさと殺せ!」


 おそらく、グラントの声だ。

 その声が聞こえてすぐに構成員が三人、降りてくる。


「ここは僕が」


 杖を構えるメリッサを制し、僕は引き金を引く。

 バンッ、バンッ、バンッ、三発で死体が三つ出来上がる。

 あまりの速さに一人も杖を構えることなく死んでいった。


「それが普及したら魔法使いは廃業ね」

「確かに」


 そんなやり取りをしながら階段を上り、ようやく僕たちはグラントのいる部屋の前までたどり着いた。

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