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プロローグ

 季節は夏、炎天下の中駆け、病院内を駆けてきたが全身から出ている冷や汗で凍えてしまいそうだった。


「はぁ、はぁ……沙耶さや!」


 走り続けて上がった息を整えることなく、僕は病室のドアを開けた。

 そして後悔する。

 この二年間毎日通い、見ていた妹のベットの上に顔に白い布を掛けられた少女が横たわっていた。


「お昼ぐらいに容体が急変して、急いで賢斗君に連絡したんだけど繋がらなくて……やっとつながった時にはもう沙耶ちゃんは……」


 妹の沙耶をずっと担当してくれていた看護師の井上さんがそこで言葉に詰まる。

 その先は言わなくてもわかっていた。

 鉛のように重い足を一歩ずつ前に進める。その度に沙耶の死が現実味を帯びていく。


 両親を幼いころに亡くし、三年前、育ての親である祖父母が亡くなって、僕の家族は沙耶だけしかいなかった。それなのに、沙耶も今日逝ってしまった。

 その事実はとても受け止められるものではなかった。

 何とかたどり着いたベットの前で動揺を隠しながらなんとか言葉を絞りだす。


「いえ……電話に出られなかった僕のせいです。あの……しばらく、妹と二人にしてもらってもいいですか」

「ええ、もちろんよ。時間なんて気にしなくていいから」


 井上さんが出ていき、二人きりになった病室で沙耶の顔にかけられた白い布を震える手でとる。

 二年前に比べれば痩せてしまったけれど優しい綺麗な顔をしていた。

 いつも笑顔が浮かんでいたその顔を見た瞬間に我慢していた涙があふれた。


 沙耶の手をとり、額につけると冷たさが伝わって来た。それがもう沙耶が生きていないことを思い知らされているようで嫌だったが、放す気にはならなかった。

 沙耶に対してかけたい言葉が色々あるはずなのに、喉の奥まで来てるのになかなか言葉が出てこない。


「どうして……」


 ようやく出た言葉はそれだけだった。だけどそれだけで良かったかもしれない。

 いくら言葉を重ねたところで、いくら悲しんだところで沙耶は戻らないのだから。

 僕はそれ以上考えることを辞めて目を閉じ、静かに泣いた。



 どれほどそうしていただろうか、このままずっと泣きたかったがそれでは病院に迷惑が掛かってしまう。

 それに沙耶が怒るだろう。

 断腸の思いで握っていた手を放し、病室を出ようとドアに手を掛けたところで後ろから何かが落ちる音がして振り返る。


 沙耶のベットの横に黒く光る何かが落ちていた。

 不審に思った僕は近づき、それを拾い上げる。


「拳銃? なんでこんなところに。というかさっきはなかった気がしたけど……」


 落ちていたのは拳銃だった。あまり銃には詳しくないがオートマチック拳銃だと思う。

 銃身に不思議な文字が彫られているがそれ以外は特に変わったところはない。

 じっくり観察していると突然拳銃が光りだした。


「なんだこれ!」


 僕が驚いて拳銃を手放したが、地面に落ちても光は収まらずむしろ強くなっていく。

 光はやがて僕の体全体を包み、僕は意識を失った。

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