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いつか消えゆくキミたちへ①  作者: 未来 来未
1/1

愛しのニコミキマキ

昨夜ボクはエッチした



と、言っても、夢の話だけど……


お相手はニコちゃん❤


10月の新深夜アニメ『天海聖戦アントラジェスト』のメインキャラで、今のボクの神推しだ


1、2話では大して気にもしなかったんだけど、3話でカルディアのマーメロイド・デルフィニアスを身を挺して庇ったMRピグノスの健気さにキュンとなったね


それからというもの、家に居ても、仕事中でも、ずっ~とニコちゃんのコトを考えていたよ


また、4話の、カルディアにやっちゃった小さなイタズラも、オチャメで可愛いかったな


まあ、それはハリコにそそのかされてやったコトなんだけどね……



とにかく、ボクはニコちゃんが好きで好きで仕方がない!


それなので、こんな夢を見られてボクはホントに幸せ者だ


幸降神エフィアダミヴィーと遭喪神ホリスナディスィーに感謝したいぐらいだ


そんなこんなで、今のボクは2Dのキャラしか愛せない


こうなったのは、10年前の出来事のせいかもしれない




……あっ!


そろそろT3に行く時間なので、 この話はまたいつか……






T3とはアニカラサークル『トリック オア トリート オア トリップ』の略で、アニメソングを唄うオフ会のコトだ


毎日曜開催されていて、ボクはよく行っている


ボクは好きな作品(深夜アニメが多いけど……)を歌いたいだけなんだけど、ヒトカラは行きたくない


カラオケに行く友達もいないし、会社の人ともあまり遊んでいない


そういうわけで、アニソンを歌いたいボクはやむなくT3に参加している


歌はあまり上手いわけじゃないけど、自分が好きな作品の楽曲を歌えたらそれで満足さ


だから、他人の歌っているのには別に興味はない








「--パパ!!」


駅の近くの歩道で、10才くらいの女の子が突然声を掛けてきた


結婚もしていないボクには娘がいるはずもなかったが、周りには人影もなく、明らかにこの子はボクをパパと呼んでいた


「パパ、会いたかったよ!」


その子は微塵の迷いもなく、ボクの胸に飛び込んで来た


90%の戸惑いの中、ボクはなぜか10年前のコトを思い出していた






大学に入った頃、ボクはコンビニでバイトしていた


そこでボクは、同じバイトの織部あやめと知り合った


彼女は1コ上だけど妹みたいな感じで、すぐに打ち解けたんだ




あの日、バイト帰りにボクは彼女のアパートに誘われた


その日の彼女はどこかおかしく、相談でものれたらいいかな、と軽い気持ちで独り暮らしの彼女の部屋にお邪魔した


部屋に入った途端、突然泣き出し、ボクの胸に飛び込んで来た彼女を、ボクはギュッと抱きしめた



ボクは彼女と熱い一夜を共にした




それから、バイトで彼女と会う度、ボクは変に意識してしまったが、彼女は変わらぬ態度でボクと接していた




それからしばらくしてからだった


彼女がバイトを辞めたのは……


ボクは彼女に連絡しようとしたが、ケータイはつながらなかった


あとで知ったコトだけど、彼女は失恋をして自暴自棄になっていたらしい




こんなコトがあってから、ボクはプチ人間不信に陥って、2Dに走ってしまった






「パパ……?」


女の子の一言で我に返ったボクは、彼女を少し離して、腰を落として視線の高さを彼女に合わせた


「キミ、名前は……?」


「ミキだよ!」


どこかたどたどしいボクの質問に、彼女はハキハキと答えた


「えーと、ミキちゃん……ママは?」


「ここにはいないよ」


そう言われて、正直ボクは少しホッとしていた


もし、彼女の母親が織部あやめだったら、どんな顔をして会えばいいのかわからないからだ


「……ミキちゃん、ママのお名前わかる?」


ボクは恐る恐る核心に迫る質問を吐いた


聞きたくはないけれど、せっかくボクを頼って来てくれた彼女を、黙って追い返したり出来ないからだ


「ママは…ニコだよ」


「…ニコ……?」


この子の母親は織部あやめではなかった


かなりホッとしたボクだったが、新たな疑問が頭の中を駆け巡った


『アントラジェスト』のニコ?


ボクの今の神推しのアニメキャラの?


そう言われれば、ミキの薄緑のトップスと水色のホットパンツは、どこかニコのパイロットスーツをイメージさせる


「え~と、ちゃんと言うとね、オニローダニコ=サヴマセモスィニー…だったかな?」


混乱しているボクに気付いたのか、彼女はフルネームをサラッと言ってのけた


「ミキも、本当はミクダクティー=サヴマセモスィニー、て言うんだよ」


「でも、長いから、ミキでいいよ」


ミキは訊いてないコトまで教えてくれたけど、正直ボクはどう反応していいのかわからなかった


大好きなニコとボクの子供


本当なら超嬉しいとこだけど、俄には信じられなかった


かと言って、彼女が嘘を付いているとは、ボクにはどうしても思えなかった


迷い道に入り込んだボクに、時間だけは無情にも過ぎていく



♪ spendする時間を追い越す勇気で ♪



メビウスの輪と化したボクの頭の中で、突然、『アントラジェスト』のOP『輪廻のカタストロフィー』の1フレーズが鳴り響いた


ハッとしたボクはあわてて腕時計を見た


ヤバい!


今すぐ行かないと、T3の集合時間に間に合わない!


だけど、このままミキを放っては行けない


「パパ、どこかお出かけするの?」


妙にソワソワしているボクに気付いたのか、ミキは瞳をウルウルさせて訊いてきた


「いや、今からアニカラサークルのオフ会に……」


「アニカラサークル?」


「アニメソングを歌って、みんなで盛り上がろう、て集まりのコトだよ」


ミキの天真爛漫さに感化されたのか、ボクはバカ正直に答えていた


「それ、ミキも行きたいっ!!」


「えっ!?」


「いいでしょ、パパ?」


ミキの突然のお願いに、ボクは断る言葉を口に出来なかった










結局、T3のオフ会にミキを連れて来てしまった


集合場所のカラオケボックスの前で、ボクは少し後悔していた


基本、急なキャンセルや人数追加は禁止されているのだけれど、子供と言うコトでなんとか承諾してもらった


確かに手続きするのは気が重かったが、ボクの後悔は別の所にあった



「--おお、珍しいね。びんご~~るクンが誰かを連れて来るなんて」


集まっている参加者の輪から少し離れた所にいたボク達に、管理人のエモーションさんが声を掛けて来た


エモーションさんはボクをまだ『びんご~~るクン』と呼ぶ


「しかも、こんなカワイイ子をっ!」


「コンニチワ。ミキです!」


「元気いいね。おじさんは……エモさん、て呼んでくれたらいいよ」


ハキハキと挨拶したミキを、エモーションさんは優しく頭を撫でてくれた


「ミキ、カラオケ初めてで、スッゴい楽しみなの!」


「そうかい。上手い下手は関係ないからね。好きな歌を思いっきり歌ったらいいよ」


「ハイッ!」


「困ったコトがあったら、おじさんに任せておきなっ!」


小太り中年男性のエモーションさんは、出張ったお腹をポンッと叩いた



「--めーがらルコンさんが子供を連れて来たみたいだぞ!」


エモーションさんがこっちに来たコトで、他の参加者もボク達に気付いてしまった


瞬く間に、ボク達は十数人の参加者に囲まれてしまった


矢継ぎ早に質問や好奇心の目がボク達に浴びせられた


ミキは色々な質問に対してハキハキと答えていたから(母親のコトとかは曖昧にして)、別に苦にはなっていないだろう


だけど、ボクには耐えられなかった


一刻も早くこの場を立ち去りたかった


ミキを連れて来た時点で、こうなるコトは予想出来た


だから、本当は連れて来るのはイヤだったんだ


だけど、ミキの嬉しそうな顔を見たら、無下には断れなかった


単にアニソンを歌いたかったのか、それとも、ボクとどこかに行きたかったのか


それはわからない


そもそも、ボクには父親の実感は全く無く、ミキの話も本当かどうかわからない


でも、ミキが喜ぶコトをしてあげたいと言う気持ちに嘘はなかった



「--そろそろ時間だから、中に入ろうか!」


困っているボクを見兼ねたのか、単に開始時間が迫っていただけなのか、エモーションさんがみんなを店内に誘導した


店に入る時、ミキはボクの手を握ってきた


少し戸惑いはあったけど、ボクとミキは手を繋いで中に入った




一応、みんなにはミキは親戚の子供と説明しておいた


嘘を吐くコトに後ろめたさはあったけど、ボク自身、どう説明していいかわからなかったからだ





T3では、通常1部屋5~6人で行うため、今日は参加者が15人なので、3部屋設けられた


因みに、205、206、208号室だ


途中で部屋を変わるのは自由だけど、初めの部屋割りは主催者側(管理人)がする


ミキは子供なので、ボクと同じ206号室だ




ボクとミキは並んで座った


ミキの隣にはバドさんが座ってくれた


バドさんは小柄で優しそうな女性だ


ミキにも話し掛けてくれたり、ドリンクの世話をしてくれたりで、ボクはちょっと安心した



ボクは1曲目に『輪廻のカタストロフィー』を歌った


まだ2回目なので全然歌えてないけど、ミキは立ち上がってノリノリで喜んでくれた


少し興奮してるみたいだった


     アス

ミキは『未来へのプルース』を歌った


『アントラジェスト』のEDだ


ミキの歌は、子供にしては上手いんじゃないかな?


「--ミキちゃん、上手だね」


バドさんが誉めてくれた


なぜか、ボクまで嬉しくなった


ミキは子供にしては、なぜか深夜アニメの歌をよく知っていた


と言うより、ボクの好きな作品の曲ばかり歌った


しかも、ボクがOPを歌えば、その作品のEDを、EDを歌えば、OPを選ぶ、といった具合だ


ボクはとても嬉しいけど、他の人にはどう思われただろうか?


親戚の子供と紹介したのに、このシンクロ率


とても、初めて会ったとは信じてもらえないだろう


そんなコトを考えていたボクは、結局歌に集中出来ずにオフ会を終えてしまった


ミキと手を繋いで部屋を出たボクは、ミキに


「カラオケ楽しかった?」


と、訊いた


「ウン!パパありがと!」


ミキは満面の笑みで答えた


ミキが満足したなら、それでいいじゃないか!


ボクはそう思い込むコトにした


いつものボクだったら、きっといつまでも引きずっていただろう


他人には興味がないくせに、自分がどう思われているのかは常に気になっている


そんな自分が嫌いだった


どこかで変わりたいと思っているのに、現状で満足している自分がいる


こんなボクだけど、ミキと出会えて少しは変われるのかな?




そんなコトを色々考えている内に、ミキと初めて出会った駅の近くの路地に来ていた


「……パパ、アニカラサークル、次はいつやるの?」


突然、ミキが言いにくそうに訊いてきた


「えっ、来週の日曜だけど……」


そう答えながら、ボクはミキの言いたいコトがわかっていた


「ミキ、また行きたいな……」


「来週、行こうか…」


珍しくモジモジとしたミキの呟きに、ボクは間髪を入れずにサラッと言った


「ホント?ミキ嬉しい!!」


ミキは上機嫌にボクに抱きついてきた


「今日とおんなじ時間にここで待ってるからっ!」


ミキはそう言いながら、ビルとビルの間の細い路地の方へ駆け出していった


ミキの普通じゃない感じに、ボクも無意識に後を追っていた


だけど、ビルの間にはミキの姿はどこにもなかった


まるで、別の世界に戻ったかのように……


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