Area B(エリアB)
今回から、エリア名を変えました。
A、B、C、D、医療、通信、の六つのエリアになります。
今回は「ゴースト」と「スピリット」のエリアBの話です。
ちなみに前回少し出てきたミルドレッド(通称レッド)のエリアはDです。(覚えていないよという方はこれからまた登場するので気にしないで下さい。)
では今回も、よろしくお願いします。
↓現在通信可能な人物↓(女性=F、男性=M)
No1.エデルミラ(F):
通信エリア代表者。ダブルEの組織内で重要な役割を果たしている人物。丁寧で、優しい性格。
No4.ジュウゾウ(M):
エリアBの代表管理者。「ゴースト」や「スピリット」に好かれている。穏やかな性格で、黒髪と黒い目が特徴。
エリアBの門をくぐり抜け、後ろを確認すると、そこにいたはずの迷子のゴーストがいなくなっていた。
「・・・?」
置いてきてしまったかと、焦って戻ろうとすると、
<ココニイル。>
「わっ!!もう、びっくりしたわ。」
ゴーストは横の壁から通り抜けて、小さく手をふった。
<ァ・・・アリガトウ。>
「いいえ、大丈夫よ。ここでいいのね?」
<・・・ウン>
「ジュウゾウは呼ばなくていいのね?」
<ジュウゾウ呼バナイデ・・・怒ラレル・・・>
「そう、分かったわ。じゃあ気を付けてね。」
ゴーストがゆっくりエリア内に戻っていくのを見届けて、仕事に戻ろうと後ろを向くと・・・
「俺が・・・どうかしたの?」
「!!ジュウゾウ。びっくりしたわ。」
「ごめん、エデル。」
「いいえ。」
「うちのエリアに何か用?」
ちょうど食堂から帰ってきたばかりなのか、いつもよりも眠そうな顔をした、GSエリア代表のジュウゾウが後ろに立っていた。もしかして今のゴーストのことも見られたのだろうかと、少し不安に思ったが、彼は特に視線を「ゴースト」がいた場所に向けることもなく、気づいていないようだった。
「いいえ、とくに用はなかったけれど、近くを通ったから様子を見に来ただけよ。」
「そっか。」
「ええ。」
「これ、食堂でもらったんだけど、エデルもいる?」
ジュウゾウが優しく私の手をつかみ、アメ玉を一つ、私の手のひらにのせた。
「ええ、ありがとう。後でいただくわ。」
「うん。」
最近はまたしばらく髪を切っていないのか、彼の黒い前髪が、目の近くまで伸びてきている。
いつもどこか虚ろな目をしていて、その瞳もまた深い黒色。組織の中で一番冷静な人物かもしれない。
「どうしたの?エデル、じっと見つめて。」
「ううん、何でもないわ。髪、だいぶ伸びたわね。」
「そうだね、だいぶ切りに行ってないな。」
「今度ゴースト達に切ってもらったら?」
「ゴースト達は髪が長い方がいいって言うんだ。」
「そうなの?」
「でもそろそろ切りに行くよ。」
「そうね、それがいいわ。」
「エデルはこの後どこに行くの?うちのエリアに寄って行く?」
「そうね、そうしましょう。」
「じゃあ案内するよ。迷うといけないからね。」
「ええ、ありがとう。」
ここのエリアは、六つのエリアの中で、一番迷う場所と言われている。「ゴースト」や「スピリット」に合わせて作られた空間は、常に靄がかかっているかのようにうす暗く、ゴースト達が安心するようになっている。普通に歩いていても迷ってしまいそうな空間だが、そこにゴースト達のいたずらが加わって、建物や出口を見えなくされると、もう一人で帰るのは困難だ。
「エデル。」
「なに?」
「この間なくしたって言ってた通信機、女の子のゴーストが持ってた。」
「そう、見つかったのね。」
「うん。だから後で新しくもらった通信機返すね。」
「分かったわ。」
ジュウゾウはこのエリアBの代表管理者だが、彼もよくゴースト達のいたずらに巻き込まれる。そのために連絡がつかない時や、集合をかけてもなかなか来ないことが多々あるが、それはこのエリアに配属される時点で予想されていたことだったため、彼は特別にそのことで厳しく注意をすることはない。
とにかく仕方がない。このエリアの女性の「ゴースト」や「スピリット」達の中には、彼に特別な感情を抱いている者が多くいる。女性の嫉妬や憧れからのいたずらは、こちらの世界でもあちらの世界でも、同じく誰にも止めることはできないのだと、私は諦めることにしている。
「エデル、着いたよ。ここが新しくできた訓練場。」
ジュウゾウ示した建物の外側には、多くの「スピリット」が漂っていた。
「ゴーストは見当たらないのね。」
「ここは、スピリット専用の訓練場だから。会話の練習とか、集団行動の知識とか。」
「逃げる子もいるんでしょう?」
「いるけど、止めない。あまり無理させても余計に嫌になるだろうから。」
「そうね。」
「それに何かあったら、ラディが何とかしてくれる。」
「ラディね。ラディは今日も元気?」
「うん、元気だよ。」
ラディ。本名はラディス。エリアBの中で一番強いと言われている、女性「ゴースト」。ジュウゾウの補佐役で、とくに会話の難しい「スピリット」の管理や、「ゴースト」達の風紀を正す役目だ。彼女もジュウゾウに恋をしている一人だが、仕事の時とジュウゾウの願いのためにはしっかりと働くため、信頼している。
「今呼ぼうか?」
「いいえ、大丈夫。仕事の邪魔になると悪いからいいわ。それよりもこの施設の中、見せてもらってもいい?」
「もちろん。」
施設の入り口に近づくと、外に漂っていたスピリット達が、ざわざわとし始めた。中には話すことのできるスピリット達が、「ジュウゾウダ、エデルダ。」と誇らしげに言葉を話していた。
「言葉が話せることが嬉しいのかしら。」
「うん、そうみたい。だからみんな結局ここに通って、言葉を話せるように努力してるよ。」
「そうなのね。」
「スピリット」は昔から、生きている人間を嫌う習性があると言われてきたから、このような変化は意外だった。
「ここが、会話の練習場所?」
「そう。」
施設に入ってすぐの大きな部屋に、沢山の「スピリット」が一つのスピーカーに向かって話しかけている。すると、スピーカからはそれぞれの返答が順番に流れ、スピリット達は自分への返答がどれなのかを自分で聞き、理解するという訓練のようだ。
「意外と難しそうね。」
「そうだね。でも会話は聞くことができないと成り立たないから。」
「そうね。」
「あっちの部屋は、集団行動の練習。こっちの方がスピリット達には難しいみたい。」
ジュウゾウに連れられて、隣の部屋を見ると、天井の高いホールのような部屋で、スピリット達が飛び回って何かをしている。
「あれは何をしているの?」
「真ん中に箱があるでしょ?」
「あるわね。」
「あの箱の中にはスピリットの好きなものが入ってるんだ。でも鍵がかかっているから、外から物を持ってきたり、誰かに聞いたりして箱を開けなきゃいけない。しかも、ここから外へ物を取りに行ける人数と回数が決まっているから、お互いに協力し合ったり、指示をすることが学べる。」
「なるほどね。」
「今はこの二つを行っているけど、これから他にもできることを増やしていこうって、ラディと話してたんだ。」
「それはいいわね。また何かできたら教えて。」
「分かった。」
ピピッ
『こちら通信システム管理局。エデルミラ、本部にて連絡があるそうデス。ただちに本部へ向かって下サイ。』
「こちらエデルミラ。ただ今エリアBにいます。直ちに向かいます。」
『承知しまシタ。』
「何かあったのかな。」
「ただの連絡だと思うわ。何かあったらこれで連絡するから、ゴースト達に盗られないようにね。」
「分かった。出口まで送るよ。」
「ありがとう。」
「あっちょっと待ってエデル。」
「なに?」
ジュウゾウに引き止められ、疑問に思っていると、突然ジュウゾウの前に、一人の男の「ゴースト」が現れた。
<ジュウゾウ、何カ必要カ?>
「俺の通信機、取って来てもらえる?」
<分カッタ。>
「今回はいたずらしたら怒るからね?」
<分カッタ>
そして消えたかと思ったら、すぐにまた現れ、
<持ッテキタ>
「ありがとう。はい、エデル返すって言ってた通信機。」
「ああ、ありがとう。あなたもありがとね。」
男のゴーストにもお礼を言うと、彼は少し微笑み、スウッと消えていった。
「それじゃあ行こう。」
「ええ。」
渡された通信機を腰のポケットに入れ、ジュウゾウの後を歩き出そうとしたら、彼は数歩いたところでまた立ち止まった。
「そういえばエデル。」
「なに?ジュウゾウ。どうかしたの?」
「さっき、迷子のゴーストを送ってくれてありがとう。」
「・・・えっええ」
気づいていたのね・・・
開いてくださった方、読んでくださった方、ありがとうございます。
次回もよろしくおねがいします。
祭狐