魔物討伐、出会い、驚愕
人々が魔術を使う事が当たり前になった時代。
彼らは、各々の魔力に沿ってクラス分けがされており、一番低いDクラス、Cクラス、Bクラス、Aクラス、Sクラスとなっていた。
取り分けAやSクラスともなると、人口はがくっと減り、他クラスからの羨望の眼差しを受けることになる。
実際、力量の差で言うとD<C<B<<A<<<Sとなり、AとSの力の差は歴然。
―――しかし、そんな中で一つの噂が囁かれ始めた。―――
Sクラスよりも更に上のSSクラスと、最強の名に相応しいSSS・・・トリプルエスクラスがある、と。
"静かの森"の奥深く、アトランティア王立魔術学院。
国内随一の魔術学校で、そこの最上級生・・・5回生は全員がAかSクラスという圧倒的な実力を持っていた。
ある日のこと。
アトランティアの4回生が、学院の外に広がる"静かの森"で魔物討伐授業を行った。
4回生には、120人のうち4人のSクラスがいた。
闇属性に特化した、早乙女祐希。
水・氷属性に特化した、東雲佐織。
火属性に特化した、堂嶋銀。
雷属性に特化した、宍戸燐。
この4人の他は、36人のAクラス、そして80人のB+クラスで構成されていた。
魔物討伐の真っ只中、一人静かの森をさ迷う影があった。
「なんなんだよー・・・そもそもスレイプニルなんて激レア、出るわけねーだろ・・・」
8本足の馬のような姿をした魔物、スレイプニルを捜索するその影は、4回生Aクラスの御空伊澄。
既に開始から3時間半が経とうとしているが、一向にスレイプニルが現れる気配はない。
「あぁぁーーーっ!!!マジで何処にいんだよーーーーっ!!」
広大な静かの森に、伊澄の悲痛な叫びが響き渡る。
その時。
「・・・ん?」
伊澄は突然振り向いた。
視界の端で、何かが光ったような気がしたからだ。
しかし、伊澄の背後には何もない。
「気のせいか・・・」
そうひとりごちてまた歩き出そうとすると、今度はぴしぴしと何かが割れるような音が聞こえてきた。
怪訝に思った伊澄が再び振り返ると、そこにはとてつもなく大きな卵が転がっていた。
「・・・は?」
その上その卵は広い範囲にヒビが入ってきており、今にも割れそうな状態になっている。
ぴしっ。
軽い音を立てて、また卵にヒビが入った。
「おいおいおい、嘘だろ・・・」
伊澄の前で、どんどん卵は割れていく。そして。
『・・・かあさま・・・?』
卵の中から出てきたのは、竜の子供だった。
「え、ちょ、何?竜!?」
伊澄は驚いて飛び退った。
竜の子はもそもそと動き回っては”かあさま、かあさま”と言っていたが、はたと伊澄を見据えた。
『誰・・・?かあさまは、どこ?』
「母様って・・・母竜のことか?困ったな・・・」
『ニンゲン?』
「そうだよ」
どうやら竜の子は伊澄に興味を持ったらしい。
「お前、名を聞いてるか?」
竜は普通、卵として生まれ出た時に母から名前を教わるため、この竜も自分の名前くらいなら分かるのではないか。
そう思って出た質問だった。
『リュート』
「リュート、か。いい名前だな・・・俺は伊澄だ。御空伊澄」
『イズミ・・・』
竜の子は何か考え込むような仕草を見せた。
『イズミは此処で何をしていたの?』
「あぁ・・・魔物を探してた。スレイプニルって奴だよ」
『すれいぷ、にる?・・・』
リュートは何か考え込むような素振りを見せた。
暫くすると、ぱっと顔を上げ、
『イズミ、こっちだよ!』
と言って翼を広げた。
「・・・っええ!?」
いきなりの出来事に戸惑いながらも、伊澄はあたふたと立ち上がって走り始めた。
子供とはいえ竜と言うだけのことはあり、リュートはとても速く、伊澄は魔術で補助をしていてもついていくのがやっとだった。
『イズミ!はやくはやく!』
「ちょっ・・・おい、速すぎ・・・」
リュートに手を掴まれ、ほぼ引き摺られるような形で茂みを抜けると、そこには大きな崖があった。
その崖をよく見てみると下の方に洞窟ができており、洞窟の入り口上部には引っ掻いた様な跡があった。
『ここにいる』
「・・・すげーなリュート!入り口の上に引っ掻き傷がある洞窟は、スレイプニルの住処なんだぜ!知ってたのか!?」
『ううん、においがしたんだ!』
「匂い、か・・・。」
竜の一族は嗅覚が優れており、はるか彼方からでも獲物や敵の匂いがわかるという。
「・・・じゃ、ちょっと待ってろリュート。」
スレイプニルは、見つけるのに手がかかる魔物であり、Aクラスである伊澄にとっては仕留めることなど簡単だった。
『うん。まってる』
じめじめとした洞窟の中を伊澄は進んでいく。
やがて視界が開け、大きな空間のなかにスレイプニルが寝ているのが見えた。
息を潜めて印を結ぶ伊澄。
(効けよ・・・!“氷の息吹”!!)
ぴきぴきと音を立てて、スレイプニルのまわりが凍っていく。
ひやりとした空気を感じ取ったのか、スレイプニルが目を覚ますが、その身体はもう凍り付いており、動くことはできなかった。
どさりと魔物は倒れ、それに自分の印を刻み付けて学園に転送した伊澄は、意気揚々と洞窟から出た。
「ただいま、リュート」
『イズミ!おかえり、できた?』
「ああ、リュートのおかげだ」
よしよしと頭を撫でてやると、照れたように頭を擦り付けてくるリュート。
その時、ほんの少しだけ、伊澄の髪が揺れ動いた。
ばっ、とリュートが頭を上げる。
『かあさま・・・!?』
「っおい!?どうしたリュート!!??」
『かあさまのにおいがした!イズミ、イズミ、こっち、はやく!!』
「かあさまって・・・母竜・・・」
伊澄は自分の顔から血の気が引いていくのがわかったが、リュートに引っ張られているため抵抗は叶わず、仕方なくそのままついて行った。
『かあさま!!』
急停止したリュートに、どうした?と声をかけようと振り向いた、その時。
「・・・は・・・?」
伊澄は、自分の目が信じられなかった。
そこにいたのは、こちらに背を向けて立っている、自分の同級生でSクラスの東雲沙織と、
血まみれの雌の竜が倒れていた。
続く