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ふたりは其の妖祓と申し候―永遠の妖狐―  作者: つゆのあめ/梅野歩
【肆章】されど其の妖狐は幼馴染
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<十四>花と吉凶禍福(壱)



 ※ ※



「浮かない顔をしているな。紅緒」


 孫の自室から出た彼女、楢崎紅緒はリビングで待ち人となっていた和泉月彦に微苦笑を向けられる。

 同じ表情を返す紅緒はキッチンに立つ義娘に声を掛け、カモミールのハーブティーを淹れてもらうことにする。

 あたたかな木造テーブルに着き、月彦と向かい合う。


「飛鳥の容態は」


 問いに対し、紅緒は大丈夫だと眉を下げた。


 孫の飛鳥は七日高熱に魘され、床に就いていた。

 原因は鬼門の祠から放出されている瘴気を長時間吸ったため。しかも、孫は現地を訪れ、濃度の高い瘴気をまともに吸ったのだ。


 一時はどうなるかと焦りはしたものの、容態は落ち着き、回復に向かっている。

 何故危険を冒してまで鬼門の祠に……祖母の立場としては叱り飛ばしたくなるものの、長の立場としては褒めなければならないのだろう。

 孫は瘴気を食い止めるために祠へ向かい、そして見事に正気を食い止めたのだから。


「朔夜さんの容態はどうです?」


 紅緒はコースターの上に載ったカップを手に取る。


「良好だ」


 月彦は祖父らしい一笑を浮かべ、これも紅緒の力のおかげだと眦を和らげた。

 柔らかな空気が一室を包み込むも、どことなく陰りが息を潜む。それを紛らわすように、二人はカモミールティーで気を落ち着けた。



 紅緒と月彦が鬼門の祠がある雑木林を訪れたのは、妖が眠りに就く昼下がり。

 瘴気が本当に消えたかどうか、この目でしかと見極めるため、妖の聖域を訪問する。


 日が昇っている刻でも、鬼門を囲む木々はおどろおどろしい。

 既に夕の刻ではないのか、そう勘違いするほど射し込む陽の光は少ない。闇を好む妖を喜ばせるような環境である。


 七つの地蔵が並ぶ簡素な入り口を潜る。

 人工的に切り開かれた地は、瘴気が溢れていたとは思えない静けさだ。

 洞窟に続く石畳の一本道は、何事もなかったかのように静寂を愉しみ、木々は風が吹く度に木の葉をこすり合わせて歌う。

 洞窟の入り口を封鎖している注連縄は、瘴気を決して零さぬよう仁王立ちしているように見えた。


 目を引いたのはヒガンバナの存在。

 数多のヒガンバナが己を主張するように、祠の周りに芽吹き乱れている。蕾だというのに美を感じるものだ。


 ひとことで表すと、そう、平和だ。

 長二人はいつまでも佇む。人間の町を苦しめていた瘴気が本当に消えたのかどうか、見極めるために。



「人の子よ。此処はお主等が踏み入れて良い領域ではない」



 棘のある言葉が投げられることにより、ふたりはそっと背後を顧みる。

 人の容に化けた赤き狐がそこには立っていた。北の地を統べる妖の頭領、六尾の妖狐、赤狐の比良利だ。

 自身の足で立つことが難しいのか、傍らで巫女狐が身を支えている。


「昼間だというのに、仕事熱心だこと。しかし、それにしては久しくお目に掛かります」


 紅緒は力なく笑い、今まで何をしていたのだと問う。

 巷では赤狐が倒れたと妖が騒いでいたようだが、その様子を見る限り、真実なのだろうと紅緒。

 意味深長に鼻を鳴らす比良利は、持ち前の糸目を更に細くし、おかげで足で立つ行為を忘れてしまったと返す。


「お主等が訪れた理由はとうに見えておる。安心いたせ、人を苦しませる瘴気は消えておるよ」


 九十九年、張ることが不可能だった五方結界が発動しているのだと比良利。

 もう暫く瘴気の後遺症により、双方ごたつくことはあるだろうが、平穏は訪れると北の神主は語る。

 何も心配はいらない。ゆえに赤狐は早う去れと命令してくる。一刻も早く、聖域から人を追い返したいのだろう。


 だが紅緒と月彦は動かない。

 瘴気問題を解決に導いた、白き狐のことを尋ねたかった。


「赤狐よ。白狐は……いや翔は“御魂封じの術”を使用したと聞いている」


 “御魂封じの術”。

 代々妖祓から語り継がれる、妖の頭領の極意のひとつ。

 其れは己の魂に禍根を封じ込め、己の妖力で浄化する諸刃の術だと云われている。主に切り札として使用される術なのだと知識として知っている月彦は、比良利に聞くのだ。

 孫と日々を過ごしていた、あの少年は無事なのか、と。


 沈黙が双方の間に下り、それを攫うかのように勢いづいた風が通り過ぎる。


 返事はない。

 けれども、確かに彼等から無言の返事をもらうことに成功する。


「そうか」


 寂しげに吐息をつく月彦は、世知辛い世の中だと吐露した。

 何故、頭領代行があの少年でなければいけなかったのか、宝珠とは残酷な運命を背負わせるものだと月彦は零す。


「そうじゃのう」


 本当にそうだと同調する比良利の表情は変わらない。

 その顔を能面と呼ぶべきかどうか、笑っている顔でもなければ、何かの感情を秘めた表情でもない。無の表情の顔、それが表現として似つかわしい。

 表向きの顔だと紅緒は一目で見破る。


「彼は再び姿を現してくれるのでしょうか」


 間を置き、赤狐は答える。


「現すやもしれぬ。現さぬやもしれぬ。わしから言えることは、これのみよ」


 つまるところ、少年は無事ではなく、生死を彷徨う境目にいるのだ。

 それだけ術は危険なものであり、使い手にとって脅威となるものだった。

 孫達と共に彼の成長を見守ってきた紅緒としては、何故彼にそのような危険な術を教えたのかと詰問したくなる。あくまで紅緒個人としては。

 妖祓長としては、頭領代行としてよくやったのではないかと労うべきとことなのだろう。


 紅緒は悩む。

 この現実に、喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかを。


「妖狐として生まれ変わったことは、翔にとって幸せだったのか。分からんものだな」


 月彦は苦言をぽつり、と漏らし、足を踏み出す。

 比良利達の脇をすり抜ける際、和泉家の長は言葉を残した。


「あの少年を見守る役目は種族転換を境にお前へ移り変わった。こちらの目には届かない場所に彼は行ってしまった。代行でも翔が頭領ならば、対であるお前が最後まで見届けろ」


 それができないのならば、北の神主を名乗る資格はないと月彦は言い切る。


 第二の孫として見守ってきた此方から送れる、強がりの言葉。

 もう二度と見守る役目は訪れない。妖祓長として、幾多にも渡って彼を傷付けたのだ。見守るなど、今の彼にとっておこがましい役目なのである。


 だから月彦は譲るのだろう。

 赤狐という齢二百の妖狐に、齢十七の妖狐のお守を。

 彼も紅緒も分かっているのだ。翔には必要なのは妖であり、ヒトではない真実を。


「赤狐、ひとつ。貴方にとって白狐は対になりえますか?」


 月彦に倣って比良利達の脇をすり抜ける紅緒は、そっと立ち止まり、視線を赤狐に向ける。

 横顔が正面を向くと、赤き狐は頬を崩した。


「既になくてはならぬ、わしの大切な対よ。主等の役割、確かに受け継いだ」


 充分な答えをもらうことにより、紅緒の視線は前方へと戻る。


「次、会う時は再び長として頭としてお会いしましょう。赤狐、お大事に。若くない体をしているのですから、ご無理なさらず」


「嫌味ったらしいのう。歳を取っているのは此方じゃが、老いているのは主等じゃろうに」


 飄々と嫌味を聞き流す比良利に、白狐のことは頼んだと一方的な約束を結び、鬼門の祠を後にする。

 彼の言う通り、瘴気問題は解決したのだ。赤狐がわざわざ南の鬼門の祠を訪れ、確認を取りに来たということは、つまり、そういうことだろう。



 道中、季節外れのヒガンバナが目を引く。

 あるところは学校前の花壇に、あるところは一軒家の庭木の隣に、あるところは路上の道端に。

 これを目にした人々は何を思っているのだろう。前触れもなしに蕾をつけるヒガンバナを不気味と思うのだろうか、それとも幻想的だと陶酔するのだろうか。


 ふと紅緒はヒガンバナの迷信を思い出す。

 燃えているような花弁の形から、それを持ち帰れば一夜にして家は火事になるそうだ。

 確かに燃えているような勇ましい形をしている。命の灯火を燃やしているような、力強い花弁の形は嫌いではない。


 とはいえ、ヒガンバナは日本人に嫌われている花である。

 死人花、地獄花、幽霊花に狐花といった死を連想させる異名が多く付いている。

 名を聞くだけでも不吉な花だが、妖はこの花を好む。日本人が愛してやまない桜や梅以上に。


「赤のヒガンバナは祝いごとの証だそうですね。月彦」


 妖の知識を持っている紅緒は、どのような祝の意味が込められているのだろうか、と月彦に意見を求める。

 分かっているくせに、言いたげな視線が己とかち合った。


「南の神主は九十九年姿を現さず、妖達を不安に陥れていた。それが今、光望む現実を彼等に見せようとしている」


 だから昼間でも妖達を見かける。

 嬉々溢れた歪な生き物達が、祝いの準備をするべく蕾をつけたヒガンバナを摘んでは姿を消していく。

 本当に姿を現すと決まったわけではないだろうに、妖達は夢を見ているのだ。


「夢が夢に終われば、花は色抜け白に染まるという」


 ヒガンバナの色は吉凶禍福の表れ。


 赤が吉事を示すならば、白は凶事を示す。

 脱色したヒガンバナを目にするのであれば、それは一つの灯火が消えたことを人間の我々にも教えてくれることだろう。


 赤狐がなんとかするだろうと信用を寄せても、彼がどこまでなんとかできるのか。それほど若き白狐は強い術を使用し、仄暗い死線を彷徨っている。


「なのに祝い事のように花は赤く染まっているのですね」


 気の早い色だ。

 紅緒はヒガンバナを一瞥。目を伏せ、嘆息を漏らす。目覚めの近い孫に何と説明しようか。


 しかし、床に就いている二人の孫の前に食い下がる者達がいた。


「だから言っているだろうが。月彦さん、紅緒さん。白狐は元々こっちの人間だ。死線を彷徨っている今、妖祓の俺達が身柄を引き取らないでどうするんだ。さすがに妖の世界で死なれちまうのは、南条夫妻に申し訳も立たないだろう」


「秀夜の意見に同調致します。赤狐に任せるのも手でございましょうが、彼には此方にかけがえのない御家族がいます。月日を経て深い関係になった御家族なのですから、縁ある我々が動くのは当然かと」


 主張するは和泉家の長男と次男。

 弟妹分が倒れ、兄分の自分達が動かなければならない衝動に駆られているのだろう。珍しく感情的に物申してくる。

 尤も、理的に動くのは長男であるため、次男の癇癪じみた訴えはある程度、予想がついていた。


 意見される度に紅緒は月彦と答えるのだ。


 事件は解決した。

 妖の世界で起こっている問題は、向こうに任せるのが理として適っている。無暗に首を突っ込めば、新たな衝突を起こしかねない。

 今自分達がすべきことは、瘴気の後遺症を持った妖が傍若無人に振る舞っていないか監視することであり、優先すべきはヒトなのだ。


 妖祓長として意見を退く度に、失望と落胆を向けられるが、こればかりは譲れなかった。例えば長年月日を共にしてきた子とはいえ、彼は今やヒトとは違う別の生き物。歪な生き物は歪な者達に任せるのが極々自然なのだ。


「頭が石っころみてぇなじっちゃんばっちゃんだぜ」


 秀夜が癇癪を起こしたように部屋を出て行き、その様子を目にした一夜がやれやれと肩を竦めて後を追う。

 何度目の流れだろうか、紅緒は偽悪的な立ち位置も疲労すると苦笑いをひとつ。

 まだまだ彼等も若い。良し悪しに対して感情的になりがちな子供だ。成人済みであろうと、長から見れば青いこと極まりない。

 しかし、それで良いのだと紅緒は思う。若い彼等はまだそれでいい。若いとは、そういうことなのだから。




 ところかわり、リビングから飛び出した秀夜とそれを追う一夜の背を見送る者がいる。床から出た飛鳥だった。

 未だ熱に魘されている体であるが、彼女は目覚めていた。

 艶のないぼさぼさの髪や、少々肌荒れした頬をそのままに、階段の陰から兄分二人を見送る。

 聞き耳を立てずとも、彼等の会話は筒抜けだった。


 音なく階段を上がり、冷たい廊下を過ぎって自室に戻る。

 依然夢心地にいる飛鳥にとって、祖母達の会話さえ、ふわふわと不安定なものになっている。扉の背を預け、俯いて瞬きを繰り返す。

 そうして自分なりに心の整理をつけようとするが、熱があるためか、思考がよく回らない。


「ショウくん……危ないの?」


 何故。どうして。

 飛鳥の記憶上、三人で五方結界を張ったことまでは憶えている。

 彼ひとりでは制御しきれない力を三人で半ば無理やり押さえ込み、瘴気を封ずるために祠の修繕をしたのだ。


 喜びがあった。安堵もあった。比例して苦しみと気分の悪さもあった。

 それらがミキサーでぐしゃぐしゃと回されたかのように混ざり合い、一寸の光も見えず暗転。以降の記憶がない。

 あの後、彼が何かをして術を使用したらしいのだが、飛鳥の目には触れていない。


 覚束ない足取りでベッドに腰掛けるものの、幼馴染が危険という意味が理解できなかった。


 彼の危篤を目にしていないせいかもしれない。

 翔が危ないという実感がないのだ。気持ち的には、また妖の世界に帰っただけでしょう、といったところ。


 気分が悪くなったため、毛布に潜り込む。

 熱っぽい吐息をついたところで、飼い猫のミミの存在に気付いた。


 目を剥く。

 ミミが自室で保護している仔猫達に、まるで寄り添うように毛づくろいをしていた。縄張り意識が強いからと喧嘩をしないように、仔猫達が怪我をしないように、ミミを自室から遠ざけていたというのに要らぬ節介だったようだ。

 小さな生き物の顔や頭、体を舐めて、子供達を匿うように身を丸めている。


 飛鳥は柔和に頬を崩す。


「ミミは受け入れてくれたんだね。この子達のことを」


 仔猫は安心したようにミミの体毛に顔を埋めていた。

 どうやらミミに先を越されてしまったようだ。悔しいなぁ、おどけを口にした飛鳥はもう一眠りするためにゆるりと瞼を下ろす。

 我が身を大切にする、それも理由にあるが、別の思惑があるために体力を回復させるのだ。



 自力で粥を食べられるようになる頃、飛鳥は親の目を盗んで外出用の服に着替える。部屋の隅にいる猫達には自分の外出がばれていたが、好奇心旺盛に見つめられるだけ。とやかく言われる口は無い。


 両親は倒れた己を大層心配してくれた。

 同時に叱られた。危険と分かっていながら、鬼門の祠に何故赴いたのか。一歩誤れば死ぬかもしれなかったのだうんぬんかんぬん。

 一人娘だからだろう。過度なまでに心配を寄せられたものだ。それは心地よくもあり、罪悪も感じる。


 今頃、南条夫妻も息子の目覚めを待っているに違いない。

 飛鳥は彼をもう一度、夫妻の下に戻すため、そして三人で過ごすために迎えに行こうと思い立った。


 翔が危ない? それは違う。

 彼は無事だ。無茶をして寝込んでいるだけなのだ。

 だったら自分が皆を心配させた文句をぶつけなければ。きっと彼は妖の世界に、もとより妖の社にいる。


 さあ彼のように腕を引こう。

 種族転換をし、妖の己を気にして尻込みする狐の腕を。

 共に生きる覚悟はとうに決めている。後は翔次第なのだ。彼が自分達を受け入れてくれるかどうか、それに掛かっている。


 春用のレースがかかった白いポンチョを身に纏い、抜き足差し足で自室を出る。

 階段を下りているところで、仔猫達がついてきた。足を止めて人差し指を立てる。うんっと首を傾げる仔猫達に部屋に戻れとジェスチャーで指示するが、動物には通じてくれない。

 遅れてやって来たミミに仔猫をお願いね、と頭を撫でる。

 

 思いが通じたのか、ミミは一鳴きして仔猫の一匹を銜えた。


 今だ。

 飛鳥は駆け足でリボンが付いたパンプスを突っ掛ける。

 思いの外大きな足音を立ててしまったためか、リビングの扉が開く。


「まあ、飛鳥!」


 何処へ行くのだと頓狂な声を出す母親に振り返り、飛鳥は満面の笑顔を作った。


「お迎えだよ。私が積極的に動かないと、今の彼は会ってもくれなさそうだから」




 三人の中で一番フットワークの軽い翔は、いつも率先して動いていたものだ。

 映画を観たいといえば前売り券を買って来てくれ、カラオケに行きたいといえば予約を取ってくれ、行く先々の交通機関を使用するなら時間を調べて自分達に報告してくれた。


 過度なまでに気を回すところもあるため、そこが疎ましかったりもするのだが、今ではその一面が懐かしい限り。

 あの頃に戻れるのならば、もう一度戻りたいものだ。


 きっと今以上に、自分達の世話を焼いてくれる翔を微笑ましく見守れる。感謝だって素直に口から出る。幼馴染の関係を大切にする彼に、同じ気持ちだと伝えられる筈だ。


 失って分かる、彼の愛すべき一面。

 飛鳥は翔を想うと胸が熱くなる。幼馴染として想っている、と断言したいところだが、もしかすると異性として想っている点もあるかもしれない。朔夜とは別に感情が宿っていることも確かだ。


 正直に言おう。

 目標を見出し、それに向かって走る翔には惹かれるものがある。


 いつぞか母と交わした恋バナを思い出す。

 もし、彼が告白をしてきてくれることがあれば、自分はなんと返すだろう。気持ちに対して感謝を述べることは間違いない。朔夜を諦められるかといえば、それは否だが、翔の真摯な気持ちを聴けることができたなら、そしたら自分は。


 欲張りな女だと飛鳥は己に苦笑。

 どんな形になれど、やはり三人一緒にいつまでもいたいのだ。共に生きていきたいのだ。


 けれども、いつまでも隣に並んで歩いて生きる、など無理な話。

 いずれ自分達は各々の道を進んで行く。飛鳥は飛鳥の、朔夜は朔夜の、翔は翔の道を進んで行くのだ。

 寂しいことではあるが、これが自然なのだろう。



「朔夜くんのところに行ってみよう。“妖の社”に行かなきゃ」



 閑話休題。

 話は戻り、飛鳥は鉛のように重い体を無視して相棒の家を目指していた。

 瘴気は解決され、捕縛されていた妖達は解放されているものの、四尾の猫又、キジ三毛のコタマは朔夜の家にいるという。

 リビングで盗み聞きをして、それを知った飛鳥はコタマに“妖の社”へ連れて行ってもらおうと目論む。


 コタマは“月輪の社”に住みついている猫又だそうだから、当然何処にそれがあるのか知っている。

 渋られるかもしれないが、幼馴染に倣ってしつこく場所を尋ねてみよう。向こうが折れて教えてくれるかもしれないし、ヒントをくれるかもしれない。

 妖の聖域なので、妖祓の自分達が訪れれば赤狐と対峙するやもしれないが、法具は一切合財出さないつもりだ。


 赤狐も馬鹿ではない。

 深慮深く自分の訴えを聴けば、特別に許可を出して社へ迎え入れてくれるかもしれない。

 あくまで想定の範囲、だが動かなければ何も始まらない。


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